第21話 奴隷の扱い
スペルビア王国の領地に入国してから数日、未だに生存者を見つけることは出来なかった。
「ここもダメか」
潰れた家、荒らされた畑、燃え尽きた木々、そしてそこら中に散らばる血痕と肉塊。凄惨な光景が広がっている。
「これはあの子には見せられないな」
グレンさんの言うとおりだ。あの子――ネスには見せられないだろう。
彼女は少しずつではあるが心も開きつつあり、一言二言会話ができるようになったばかりだ。
もしこの光景を見てしまったらまた自分の殻に閉じこもるかも知れない。それだけは避けなければならない。
「次に向かいましょう」
ファンタ1号のスピードを上げ次の街を目指す。今回も人を救う事はできなかった。しかし、前回とは違い車内に重苦しい空気は流れていなかった。これは自警団の団員たちのおかげだ。男性陣は冗談を交えた武勇伝を話し、男の子たちは目を輝かせて聞き入っている。女性陣は今までどれだけ告白されたか、男性とどうお付き合いをしてきたかなどの恋愛トークで盛り上がっていた。このようにして彼らが明るい空気を作り出してくれている。彼らに出会えて本当に良かった。
「私は今まで100人の男たちに告白されたことあるのよ!まあ、全員私には釣り合わなかったから振ったけどね!!」
「私も、街の男の9割から頼んでもいないのに様々な贈り物を頂いたことがりますの。置く場所にも困りますし、持てる女は辛いですわ」
うん、恋愛経験のないはずのチョコさんとミントさんも無理して作り話をしてくれているんだし、俺も頑張らないとな。
「前方に魔物の群れ発見、皆さん少し突っ込むので衝撃に備えておいてください」
魔物の群れを発見したが、前方にいるのは低級魔物ばかりだ。これならファンタ1号で一掃出来る。次々に魔物の集団に突っ込みその数を減らしていく。
「ソウ兄、魔物の群れがあそこにいたということは」
「ああ、この先はまだ生き残っている人がいるかもしれない」
確かこの先は王都だったはずだ。王都なら魔物に対抗できるだけの人材は揃っていに違いない。
「王都の人を刺激しないようにここから先は歩いていきましょう」
幸い周囲に魔物はいない。このままファンタ1号で乗り込むと余計な混乱を招く恐れがある。他のみんなも俺の危惧していることが分かっているのだろう、反対するものは誰もいなかった。
「中に入れてくれよ」
「奴隷の分際でなに言っている。お前らは体を張って魔物を食い止めろ!」
「あんなのに敵うわけないじゃないか」
「うるさい、それ以上逆らうなら今ここで斬り捨てるぞ」
王都に到着すると、逃げ延びた村人達が押し寄せていた。その数は数百人にも及ぶ。
よかった、思ったより生き残っている人がいたようだ。
「あん? お前あの時のガキじゃねえか」
村人と門兵のやり取りを眺めていると一人の兵士と目が合った。
どこかでみたことある兵士だと思ったらあの時のガメツ(仮)じゃないか。
「残念だったなガキ。今は緊急事態だからどれだけ金払っても入れてやるわけにはいかない」
「いや、別に僕はいいんですが何で村人を入れてあげないのですか?」
「こんな大人数いれたら食料が足りるわけないだろう。奴らは所詮奴隷だ。俺らと奴隷の命どっちが大切かなんて言うまでもないだろう――ほら、みてみろ」
ガメツ(仮)が後ろを指差すと奴隷の人たちが続々門から出てきた。その数は数千人にも及んでいる。自分の意思で出てきたわけではないのは一目瞭然だ。兵士の手に握られている血塗られた剣や槍が、中で何をしていたのかを物語っている。
いつの間にかガメツ(仮)は消えており、最後の奴隷が出ると同時に城門が完全に閉められた。そして城壁の上に派手な鎧を着た1人の男が現れた。この国の兵士の団長的な人だろうか。
「奴隷の諸君! もう魔物はそこまで迫ってきている。生き残りたければ自分達の力で魔物を倒してみせよ。さすれば城門の中に入れてやろう。諸君の健闘を祈っている」
思ったとおりだ。このままでは奴隷の人から殺されることになる。魔物によってではなく、人間の手によってだ。
武器も持たせず、奴隷に戦えとはふざけているにも程かある。流石にこれは見過ごせない。
「スペルビア王国の人々よ、死にたくなければ今すぐ城壁から10メートル以上離れてください」
メガホン片手に力いっぱい叫ぶ。
奴隷の人たちは何ごとかとこちらを振り返る。
ミハルやグレンさんたちに目配せをして彼にも協力を仰ぐ。彼らなら俺が何かすることを感じ取ってくれるはずだ。
「皆さん今すぐ城壁から10メートル以上離れてください」
「死にたくなければ急いで離れろ!」
後は彼らに任せて、俺は俺の仕事をしよう。
いでよ土の塔!!
俺の体がどんどん上空に上がっていく。この感じ久し振りだ。王都の城壁周囲を視界に納める。幅10メートルてところかな。
周囲の地面を認識した瞬間、城門の周囲が僅かに沈み始めた。俺の能力は視界に納めたものをカード化することが出来る。つまり、時間はかかるが深い穴を掘ることが可能になる。
それから5分後、50メートルほどの深い堀が完成した。唯一の道は城門のあるところだけだ。これならば、中に残っている兵士や冒険者だけでも魔物に対抗できるだろう。
地上に戻ると奴隷の人々は突然の出来事に目を剥いていた。俺の仲間達はというと、苦笑いをしている程度だ。多少俺のすることに免疫がついてきたらしい。
「皆さん、今目の前で起きたことが理解できたでしょうか。私が起こした現象です。今から私についてきたら皆さんが王都連中にいいように使われないようにしてみせましょう」
先ほど上から眺めると魔物の一段が迫っていた。時間もないため少し手荒い方法をとるしかないな。
ファンタ1号を取り出し、先に皆に乗車するように伝える。その間に木材で簡易の乗り物を何個か作る。大きな木の板にタイヤがついているだけという簡単なものだ。これらをファンタ1号とつなぎ合わせる。貨物列車的なイメージだ。
奴隷の人たちにそれに乗るように説明する。目の前で色々起こりすぎて考えが追いつかなくなったのだろう。他になす術もない彼らは戸惑いながらも指示に従い全員が乗車した。城壁の方が騒がしくなっているが今は無視だ。
「今から動くので落ちないように気をつけてください!」
下から来ている魔物の群れに出会わないように、上を目指してファンタ1号をゆっくり走らせる。人数が多すぎるせいで魔力をどれだけつぎ込んでもスピードがあまり出ないが、これはしょうがない。
数分後、王都から10㎞進んだ所でファンタ1号を停止させる。先ほどと同じ要領で堀を造り、それで手に入れた土を使い幅10メートルの城壁を完成させる。もちろんただの土の城壁ではない。水にも火にも耐えれる壊れにくい土の壁だ。例え土でも圧縮して焼き固めればそれなりの強度がある。案外馬鹿に出来たものじゃない。
念のためこれらを3重にしておく。
堀・壁・堀・壁・堀・壁・街といった感じだ。
とりあえず、外敵から守られた町は完成した。後はここでしばらくの間、彼らが生活できるようにするだけだ。
「さて、皆さんこれからのことですけど……」
「ソウ兄、ソウ兄、話はもう少ししてからの方がいいと思いますよ」
「ん、どうしてだ?」
今はまだ休むわけにはいかないぞ。もう少ししたら休むからそれまで待ってくれ。
「いや、皆さん状況についていけずに思考が停止しているので」
振り返って奴隷の人たちを見ると、全員が顎が外れんばかりの大きな口を開け、その場で動かずに固まっていた。
どうやら突っ走りすぎたようだ。いい加減この性格をなおさないといけない。皆が再起動するまでミハルと反省会でもしておこう。
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