↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女ですが、薬屋を始めたら王様が毎日来ます  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/15

第15話 母が娘を置いていった理由

 静かな部屋だった。


 先ほどまで敵の襲撃を受けていたとは思えないほど、今は何も音がしない。


 セレナは椅子に腰を下ろした。


 私はその向かいに座る。


 アルベルトは少し離れた場所で、黙って私たちを見守っていた。


「……どこから話せばいいのかしら」


 セレナが小さく呟く。


「最初からでいい」


 私は答えた。


「私が生まれた頃から」


 セレナはしばらく黙っていた。


 そして。


「あなたが生まれたのは、二十年前」


「はい」


「その頃、王都では病が広がっていた」


「さっき聞いた病?」


「そう」


 セレナは頷く。


「原因は、普通の病気ではなかった」


「呪い……」


「ええ」


 セレナは手を握りしめる。


「その呪いを生み出したのは、ある魔術師たちだった」


 アルベルトが眉をひそめる。


「魔術師?」


「王宮に所属していた者もいたわ」


「王宮の……?」


「ええ」


 セレナは苦しそうに続けた。


「彼らは、人の魔力を利用して、強力な魔法を作ろうとしていた」


「そんな研究が……」


「当時は秘密裏に行われていたわ」


 私は息を呑んだ。


「それを、おばあちゃんが止めたの?」


「そう」


「白銀の魔女も?」


「ええ」


 セレナは頷く。


「二人は力を合わせて、呪いを封じた」


「じゃあ、全部解決したんじゃ……」


「そう簡単ではなかったの」


 セレナの視線が、私のペンダントへ向く。


「呪いを完全に消すには、強い浄化の力が必要だった」


「それが……」


「白銀の魔女の力」


 私は黙って聞いていた。


「でも、その力だけでは足りなかった」


「足りなかった?」


「浄化した魔力を、人の身体に安全な形へ変える必要があった」


 セレナが微笑む。


「それをできたのが、あなたのおばあさまよ」


「おばあちゃんが……」


「だから二人は、長い間一緒に研究していた」


 セレナは少しだけ笑った。


「あなたのおばあさまは薬を作り、白銀の魔女は魔力を与えた」


「じゃあ、金色の薬は……」


「二人の力から生まれたものよ」


 私は自分の手を見る。


 あの金色の光。


 私が作っていた薬。


 その始まりが、二人だった。


「そして私は、その研究を手伝っていた」


 セレナは続ける。


「でも……」


 そこで声が止まった。


「ある日、あなたが生まれた」


「私が?」


「ええ」


 セレナは優しく微笑んだ。


「あなたが生まれた日のことは、今でも覚えているわ」


 母の瞳に涙が浮かぶ。


「小さくて……泣き声が大きくて」


「……」


「でも、とても綺麗な子だった」


 私は何も言えなかった。


「あなたを抱いたとき、私は思ったの」


「何を?」


「この子だけは、絶対に守らなければいけないって」


 セレナの声が震えた。


「でも、その数日後――」


 表情が変わる。


「あなたの魔力が、突然目覚めたの」


「私の?」


「ええ」


 セレナは頷く。


「あなたの身体から、金色の光が出た」


 私は目を見開く。


「生まれたばかりの私が?」


「そう」


「どうして?」


「分からなかった」


 セレナは首を振る。


「でも、その光を見た白銀の魔女が言ったの」


 セレナは、ゆっくりと言葉にした。


「この子は、私たちの力を受け継いでいる――と」


「……」


「そして、その日の夜」


 セレナは目を伏せた。


「敵があなたの存在を知った」


 私は息を止めた。


「私を?」


「そう」


「どうして?」


「研究者たちは、あなたを利用しようとした」


 アルベルトが拳を握る。


「赤ん坊を……?」


「ええ」


 セレナは頷く。


「あなたの魔力を使えば、彼らの研究を完成させられると考えたのよ」


「そんな……」


「だから、私たちはあなたを隠すことにした」


「おばあちゃんと?」


「そう」


「じゃあ……」


 胸が苦しくなる。


「お母さんは、どうして一緒に来てくれなかったの?」


 セレナは答えなかった。


 しばらくして。


「私は、囮になったの」


「囮……?」


「あなたを追う者たちを、私が引きつけた」


「だから王宮を出たの?」


「ええ」


「でも……」


 私は唇を噛む。


「それなら、どうして一度も会いに来なかったの?」


 セレナの瞳から、涙が落ちた。


「会いに行きたかった」


「…………」


「何度も、あなたのところへ行こうとした」


「じゃあ……」


「でも、行けばあなたの居場所が知られてしまう」


 セレナは涙を拭う。


「だから、遠くから見ていた」


「……え?」


「あなたが歩けるようになったとき」


「……」


「初めて魔法を使ったとき」


「……」


「薬草を摘んでいる姿を見たとき」


「…………」


「全部、見ていたわ」


 私は目を伏せた。


 涙が頬を伝う。


「じゃあ……」


 声が震える。


「ずっと、近くにいたの?」


「ええ」


「なのに、どうして声をかけてくれなかったの?」


「怖かったの」


「何が?」


「あなたを失うことが」


 セレナは泣きながら笑った。


「もし私が近づいて、敵に見つかったら……」


「……」


「あなたを守れなくなる」


 私はしばらく黙っていた。


 やがて。


「……馬鹿」


 小さく呟いた。


「え?」


「そんなの……」


 涙が止まらなくなる。


「一人で決めないでよ」


「リゼット……」


「私だって……」


 私は顔を上げる。


「お母さんに会いたかった」


 セレナの目から、また涙が落ちた。


「ずっと……会いたかった」


「……ごめんなさい」


 セレナが立ち上がる。


 そして。


 私を抱きしめた。


「ごめんなさい……リゼット」


「……お母さん」


 温かかった。


 知らないはずなのに。


 どこか懐かしい。


 私は母の胸の中で泣いた。


     ◇


 しばらくして。


 アルベルトが静かに口を開いた。


「セレナ」


「何?」


「一つ聞きたい」


「ええ」


「白銀の魔女は、今どこにいる?」


 セレナの表情が変わった。


「……分からないわ」


「亡くなったのか?」


「違う」


「では?」


「生きている」


 アルベルトが目を見開く。


「どこに?」


「それは……」


 セレナは私を見る。


「あなたの祖母が知っている」


「……おばあちゃんが?」


「ええ」


「でも、おばあちゃんはもう……」


 言いかけて、私は止まった。


 おばあちゃんは死んだ。


 そう思っていた。


 でも。


 セレナは首を横に振った。


「あなたのおばあさまは、死んでいないわ」


「…………」


 私は言葉を失った。


「え?」


「生きている」


 世界が止まったように感じた。


「そんな……」


「ただし」


 セレナの声が低くなる。


「今、どこにいるのかは私にも分からない」


「じゃあ……」


 私は立ち上がった。


「おばあちゃんも探さないと」


「そうね」


 アルベルトも頷く。


「なら、北の町の病を治した後、祖母の行方を追おう」


「はい」


 そのとき。


 外から、騎士の声が聞こえた。


「陛下!」


 アルベルトが振り返る。


「どうした?」


「北の町から急報です!」


「何?」


「病人が――」


 騎士が息を切らしながら叫ぶ。


「一斉に倒れ始めました!」


 私は青ざめる。


「そんな……」


 セレナが立ち上がる。


「間に合わなかった……」


「お母さん?」


 セレナは私を見る。


「リゼット」


「はい」


「今度は、私と一緒に戦って」


 私は頷いた。


「うん」


 母と娘。


 二十年ぶりに再会した二人は。


 再び広がり始めた呪いへ向かって、歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。