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虐げられれた底辺令嬢は逆転する~公爵家も帝国も私がいただきますわ~  作者: 秦江湖


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第39話 雪原の捨て駒と凍てつく谷

ガルディニア帝国北方、オルデンベルク渓谷。

吹き荒れる地吹雪が視界を白く塗り潰し、凍土を踏み荒らす雪靴の音だけが鈍く響いていた。


岩肌が剥き出しになった高台の上、白銀の防寒外套を纏ったクラウディアは、単眼鏡を下ろして眼下に広がる峡谷を見据えていた。

横に控える副官ジークリットが、息を白く吐き出しながら報告の羊皮紙を広げる。


「オルデンベルク鉱山を占拠した反乱軍連合は、およそ二万八千。山岳民の武装勢力、脱走兵、鉱山労働者、そして周辺の野盗集団が合流し、渓谷沿いに長大な防衛線を敷いています」


「二万八千、か」


クラウディアの声音には、驚きも恐れもなかった。

ただ事実を測る冷淡さだけがある。


「烏合の衆ね。頭目が十人以上も並び立ち、全体の指揮系統すら統一されていない。……数だけを膨らませた肥満体だわ」


「ですが閣下、我が軍はわずか三千。兵力差は九倍近くに達します。オットー大将の息のかかった補給部隊は、我が軍に粗悪な防寒着と湿った火薬しか寄こしませんでした」


「奴らの狙いは最初からそれよ」


クラウディアは冷笑を浮かべ、踵を返して本陣の天幕へと歩を進めた。


「軍部の古狸どもは、私がこの極寒の地で反乱軍に圧殺されるのを待っている。……だが、無能な貴族将校が机上で弄ぶ数と、実際の戦場における『質量』は別物だわ」


天幕の周囲には、平民出身の兵士たちが身を寄せ合って待機していた。

かつて死相を浮かべていた彼らの目は、この数週間の行軍で一変していた。クラウディアが自らの裁量で徴発・分配した高カロリーの携帯糧食と、改良された魔導発熱具によって凍傷者は一人も出ていない。


「閣下!」


先頭に立つ小隊長の平民兵が、直立不動で敬礼を捧げた。


クラウディアは兵たちを見渡し、凛とした声を張り上げた。


「これより、二万八千の反乱軍を粉砕する!」


ざわめきすら起きない。兵たちはただ、白銀の将の言葉を熱い視線で待っていた。


「正面衝突はせん。奴らは大軍ゆえに谷底で蛇のように長く伸び切っている。最も統制の緩んだ一節を切り落とし、内側から自壊させる。……我らは疾風となり、敵の急所を断ち、包囲される前に離脱する。これを繰り返す!」


クラウディアは佩刀の柄を鳴らした。


「血筋だけで指揮杖を握る貴族どもが、貴様らを捨て駒と呼んだ。ならば見せてやれ!真に戦場を支配するのは、家柄ではなく鍛え上げられた鉄の規律であることを!」


「応ッ!」


三千の兵から、地響きのような鬨の声が上がった。

極寒の渓谷に、電撃の刃が解き放たれようとしていた。



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