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虐げられれた底辺令嬢は逆転する~公爵家も帝国も私がいただきますわ~  作者: 秦江湖


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第38話 東の絶対防衛圏の完成

ガイストハイム帝国東部国境、標高千五百メートルに位置するアインベルク要塞群。

急峻な岩山を削り出して築かれた灰色の城壁の上一面に、鈍い青光を放つ魔導装甲板が隙間なく敷き詰められていた。


冷たい突風が吹き抜ける見張り台に、防寒外套を羽織ったエルヴィラとセドリックの姿があった。

二人の足元では、公爵領の工房から直送された数百基の新型魔導部品が、要塞の技師たちによって次々と基幹部へ組み込まれている。


「主防壁への魔導力伝達テスト、完了いたしました!」


防壁の接続部から戻ってきたバルトが、白い息を吐きながら叫んだ。

作業着の胸元には、帝室から下賜された筆頭技師の徽章が輝いている。


「公爵領の粗石から精錬した青燐結晶のエネルギー効率は計算以上です! 従来のガルディニア製触媒を用いた要塞障壁に比べ、防御強度は二点五倍。連続展開時間は四倍を記録しました!」


「ご苦労様でした、バルト。兵站の補給線もすべて特区経由で直結させました。極寒の冬期であっても、資材の供給が滞ることはありませんわ」


エルヴィラの言葉に、要塞の守備隊長をはじめとする将校たちが深々と頭を下げた。

かつて物資の横領と旧式の装備で士気を落としていた国境軍は、エルヴィラによる監査と補給改革によって、完全に息を吹き返していた。


セドリックは城壁の手すりに手をかけ、国境の先に広がる険しい連峰を見据えた。


「門閥貴族を粛清し、ポルト・ヴェッキオを縛り上げ、このアインベルクの防壁を固めた。……国内の障害はすべて消え去ったな」


「ええ、殿下。帝国東部は、もはや外敵の侵入を許さぬ絶対防衛圏となりました」


エルヴィラは風に揺れる髪を押さえ、静かに頷いた。

だが、その眼差しは防壁の完成に安堵することなく、遥か西の空――ガルディニア帝国の方向へと向けられていた。


「ですが、これで終わったわけではありませんわ」


「西のガルディニアか。……クラウディアだな」


「はい。ポルト・ヴェッキオの商人たちは、目先の保身で我が国との条約に調印いたしましたが、あの強欲な連中が大人しく従い続けるはずがありません。必ず裏でガルディニアを焚き付け、事態の打開を図ろうとするでしょう」


エルヴィラは懐から、父バルタザールから託された古びた銀のペンダントを取り出した。

掌に伝わる冷たい金属の感触を確かめながら、低く言葉を紡ぐ。


「お姉様は、理不尽な貴族社会の構造そのものを焼き尽くすために動いておられます。……小国の利権争いや商人の浅知恵など、彼女の軍靴の前には塵芥にすぎません」


「貴様の姉がどれほどの怪物を率いてこようと、迎え撃つまでだ」


セドリックは冷徹な眼光を放ち、エルヴィラの肩に手を置いた。


「東を盤石にした貴様と俺がいる限り、この帝国は崩れん」


「もちろんですわ。父上が守り抜いたこの国を、何人たりとも蹂躙させはいたしません」


エルヴィラはペンダントを固く握り込み、外套の奥へと納めた。


東の帝国が揺るぎない地盤を固めたその頃。


西のガルディニア帝国では、捨て駒の軍勢を率いて極寒の北方へ向かったクラウディアによる、血と硝煙の進撃が始まろうとしていた。


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