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時は復讐を忘れない  作者: 23
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第三十七話 三か所の時刻

八月十四日、午後八時。


予行は三地点で始まった。


黒瀬家。

学校。

病院。


白の澪は参加せず、別の一時保護先にいる。


「四か所じゃん」


湊が言う。


学校の校庭に高井、佐伯先生、警察官二人。


「白の澪さんは、この予行へ入らないと本人が決めました」


「じゃあ、誰も白の澪の場所を知らないの?」


「児童相談所の担当者は知っています。私は住所を持っていません」


情報を分けた。


安全だからではない。


一人が全部を持つ状態を避けるためだった。


ただし、救急搬送や避難の連絡まで遅らせない。


それが前日の黎一の外出で痛いほど分かった。


午後九時十分。


黒瀬家から異常なし。

病院から、青の澪の熱は下がっているとだけ届く。

学校にも変化はない。


白の澪からは連絡しない約束だった。


九時十二分五十秒。


高井の携帯が鳴った。


黒瀬家。


拒否する。


次に病院。


拒否。


三度目は颯真の番号。


颯真の携帯は黒瀬家で直哉が預かっている。


「出ないで」


湊が言う。


高井は画面を見たまま、応答しなかった。


九時十三分。


学校の時計はそのまま進んだ。


一秒。

二秒。

三秒。


何も起きない。


「終わった?」


佐伯先生が言った瞬間、高井が開いたままにしていた警察の事案管理記録が更新された。


新しいアプリが立ち上がったわけではない。朝から使っていた同じ記録画面の中で、別々の担当部署が入力した情報だけが、誰も操作していないのに一枚へ並び替わっていた。


四つの場所。九人の名前。


「白の澪の住所まである」


高井の顔が変わる。


本人にも伝えていない一時保護先の住所だった。警察と児童相談所がそれぞれ持っていた既存情報が、端末の中で勝手に一つへ集まっている。


表の中で、白の澪の文字が灰色になる。


「消して!」


湊が携帯を奪う。


「待ってください」


「待ったら名前が消える!」


電源を切る。


数秒後、勝手に点く。


表は残っている。


白の澪の文字がさらに薄くなる。


「高井さん、誰がこの住所知ってる!」


「児童相談所と送迎担当、警察の一部です」


「じゃあ、分けても集められたじゃん!」


「そうです」


高井は言い訳しなかった。


警察官の別端末から保護先へ連絡する。


繋がらない。


湊は携帯を床へ叩きつけそうになり、止まった。


壊せば白の澪が戻るとは限らない。


「何すればいいんだよ」


誰も答えられない。


その時、佐伯先生の携帯へメッセージが届いた。


白の澪。


――今、茄子の味噌汁を作っています。

――また少し焦げました。


続いて写真。


鍋。

切った茄子。

白いシールのノート。


本人の顔も住所もない。


――今夜ここで何をしたかは、私が書きます。


表の文字が、薄いまま止まった。


湊は高井の端末を見る。


一覧には、茄子も鍋も書いていない。


「こいつ、白の澪の全部を知ってるわけじゃない」


「少なくとも、今の行動は含まれていません」


「じゃあ完成させないで」


高井は端末を機内モードへ切り替え、封印袋へ入れた。


「住所や不足情報を調べて追記しません」


「消さないの?」


「証拠としては残します」


湊は嫌だった。


残したくない。

でも、高井の仕事まで自分が決めるのも嫌だった。


「白の澪に、これ見せる?」


「本人へ訊きます」


「今じゃなくていい」


「そうします」


午後九時十六分。


各地点の身体的な安全だけを確認した。


黒瀬家、負傷なし。

病院、青の澪の容体悪化なし。

宗一郎は椅子に座ったまま。

学校、異常なし。


予行は成功しなかった。


分散しても、情報は勝手に一枚へ集まった。


しかも、分散のせいで保護先への確認には時間がかかった。


それでも白の澪は、自分で選んだ場所で夕飯を作っていた。


高井が言う。


「明日は、私が全体報告を集めません」


「大丈夫?」


湊が訊く。


「大丈夫とは言えません」


「じゃあ何で」


「今日、集めた側で問題が起きたからです」


「分けても問題あった」


「はい」


湊は苛立って頭を掻いた。


「どっちも駄目じゃん」


「そうですね」


「じゃあ明日どうすんの」


「その場所にいる人が、目の前の人を助けます。全部を正しくする人は置きません」


湊は納得しなかった。


納得しないまま、頷いた。


その時、西棟の窓が三回鳴った。


外の颯真だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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