↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時は復讐を忘れない  作者: 23
32/42

第三十二話 離れる練習

「一晩、別々にしてください」


八月十一日の朝、白いシールの澪が言った。


御厨家の食卓に、青と白のノートが並んでいる。二人で選んだ色だった。


青の澪は包帯のある手を膝へ置く。


「私も賛成です」


黎一が湯呑みを置いた。


「十五日の予行か」


白の澪は首を振る。


「それだけではありません。一緒にいると、相手が言うまで自分の答えを待ってしまいます」


青の澪は先に言う。


「私は逆です。先に答えて、あとであの子が違うと腹が立ちます」


「腹が立つんですか」


「立ちます」


白の澪が少し驚いた。


「私もです」


二人とも、それを仲直りの材料にはしなかった。


青は御厨家に残る。

白は黒瀬家へ行く。


夕方六時四十二分と夜九時十三分に、各場所の大人が身体の異常だけを見る。二人同士の通話は確認後までしない。


高井が電話で条件を増やそうとしたが、白の澪が止めた。


「細かいことは、その場所にいる人と決めます」


『連絡が遅れる可能性があります』


「分かっています」


『分ければ安全という試験ではありませんね』


青の澪が即答する。


「違います。別々に暮らせるか試します」


白の澪はあとから付け足す。


「安全かどうかも見ます。でも、安全のためだけではありません」


昼過ぎ、白の澪は自分で鞄を持って黒瀬家へ入った。


佳乃が客間の棚を一段空けている。


「足りないものがあったら言ってね」


「今日の終わりまで、自分で探してもいいですか」


「もちろん」


夕飯を何にするか訊かれ、白の澪はしばらく悩んだ。


「茄子の味噌汁」


「湊、茄子が苦手なのよ」


「知っています。だから今日はそれにします」


佳乃は笑った。


白の澪も笑いかけて、やめた。


「湊さんに嫌がらせをしたいわけではありません」


「分かってる」


「分かった顔をするのが早いです」


佳乃は一度口を閉じた。


「じゃあ、理由は聞かない。茄子、切ってくれる?」


御厨家では、青の澪が沙夜子の部屋を片づけていた。


黎一が戸口から言う。


「そこは姉の部屋だ」


「知っています」


「物は動かすな」


青の澪は机の引き出しから乾いた消しゴムを出し、自分の鎮痛剤を入れた。


「今日は私が眠ります」


「だからって」


「沙夜子さんを消していません」


「そういう話じゃない」


「では、何の話ですか」


黎一は答えられない。


午後六時四十二分。


黒瀬家の味噌汁は焦げた。


「作り直そうか」


佳乃が鍋へ手を伸ばす。


白の澪が止める。


「食べます」


「焦げてるよ」


「私が焦がしたので」


一口食べて、顔をしかめた。


「苦いです」


佳乃も食べる。


「苦いね」


褒めなかった。


御厨家では、青の澪の黒い線が学校の方角へ伸びた。


本人がいるのは御厨家だった。


黎一が携帯で高井へ連絡する。


その途中で、青の澪が訊く。


「叔父さまは、今も沙夜子さんのために復讐していますか」


「している」


「何をしたら終わるんですか」


「分からない」


「それなら、終わらないものを私たちの生活に使わないでください」


黎一は返事をせず、電話だけを終えた。


夜九時十三分。


両方に大きな異変はなかった。


確認後、二人の澪は電話を繋いだ。


『味噌汁を焦がしました』


白の澪が先に報告する。


「私は沙夜子さんの机へ薬を入れました」


『怒られましたか』


「少し」


『戻りたいですか』


青の澪は即答しない。


「明日は会いたい。でも、今夜はここで寝ます」


『私もです』


「理由は?」


『黒瀬家の朝ご飯を、自分で選んでから帰りたいです』


「私は、引き出しの薬を自分で出したい」


二人は電話を切った。


青の澪が一階へ下りる。


黎一がいなかった。


革靴もない。

車庫も空。


食卓には携帯電話だけが残されている。


「叔父さま?」


返事はない。


青の澪は高井へ電話した。


黒瀬家へ連絡が行くまで十分以上かかった。


誰も全体の位置を持たないようにした結果、黎一が御厨家を離れても、別の場所では分からなかった。


分けたから助かったわけではない。


分けたせいで、遅れた。


青の澪がもう一度黎一の携帯を見る。


画面には、学校の西棟を写した古い写真が表示されていた。


黎一はそこへ向かっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になった方は、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。