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第二十話『京の家』

登場人物


◎ゆき

  15歳 女性 

  茶色い髪 茶色い瞳

  旧会津藩家老佐川官兵衛に仕えていた馬丁の一

 人娘

  馬と心を通わせることが出来る


◎銀鏡 晴近 (しろみ はるちか)

  22歳 男性 

  長身 細身に見えるが筋肉質

  黒髪の長髪 黒い瞳 驚く程の美青年

  華族 従三位中納言

  陸軍中尉


◎とら

  ゆきが世話した牡の仔馬

  世にも珍しい金色に近い尾花栗毛の毛色を持つ

  銀鏡晴近の馬車の馬車馬になっていた


◎銀鏡 智佐

  40代 女性

  銀鏡晴近の母

  背が高く、晴近に似た相貌をしている

  旧長州藩主 毛利氏一門の出身


◎銀鏡 雪子

  女性 享年16歳

  晴近の三歳上の姉 智佐の娘

  文久二(1862)年、コレラにより死去

  ゆきに似ていた


◎二家本

  60代 男性

  晴近が爺と呼ぶ銀鏡邸の使用人を束ねる男性

  長州出身


◎佐川官兵衛(直清)

  39歳 男性

  旧会津藩家老

  粂吉、ゆき父子の主君

  戊辰戦争で活躍 鬼官兵衛の異名を持つ

  熱い心を持った人情家


◎中村半次郎

  男性 旧薩摩藩士

  会津戦争時、官軍軍監

  人斬り半次郎の異名を持つ

  現在の名は桐野利秋

  陸軍少将

 ゆきは晴近に案内され、広壮な銀鏡邸本邸から外に出て庭を進み、敷地の奥へと入っていった。


「ゆき君、彼処(あそこ)が今日からの君の住まいだ。

 厩舎からも近いし、便利な所だよ。」


 晴近が指差した先に、板壁瓦屋根二階建ての、一軒の町家の様な建物が建っていた。


「離れだが(ですか)?あんなちゃんとした(うち)でなぐでも、おらは小屋か物置とがで寝泊まりさせて頂げれば充分なの(です)けれど…」


「いや、そういう訳には…

 本来なら本邸に君の部屋を用意したんだけれど、母上があの様子だしね…他の使用人も母上が長州から連れてきた者ばかりだし、あまり本邸には近付かないほうが良いと思ってね。」


「お気遣い、どうも(ありがとうございます)銀鏡さま。

 げんとも(しかし)、この家、おらがらすれば立派な家だ()思うのげんとも(ですが)、このお屋敷の他の建物()比べるど…」


「うん、質素で小振りだろう?

 この家はね、私の…京にあった本来の銀鏡邸を再現したものなんだ。」


「え?銀鏡さまはうんと(すごく)偉え方なのだべ?それなのに、これぐらいの家に住んでおられだのだが?

 この家はまるで…」


「うん、普通の家だろう?

 実際、京の普通の町家と変わらないよ。

 徳川の時代、公家は大して(ろく)を貰えなかったから、大体は貧しかったのさ。」


「ほえー、確かにこの家と比べだら、会津の佐川の殿様のお屋敷の方がずっと大ぎがっただ。」


「だろうね。

 ところで佐川殿の家禄はどれくらいだったのかな?」


「佐川家は代々三百石だったげんとも、殿様が御家老どなられで千石になった(なりました)。」


「千石!?それは大身だね。」


「銀鏡さまは、家禄はいがほどだったのだが?」


「たったの五十石さ。」


「五十石…あれ?もしかして銀鏡さまはそ()ほどお偉ぐねえ…?

 いや、お母様が長州の御館様のご一族だがら、やっぱし相当偉え…?」


 幕府の政策により、江戸時代の公家は家禄を極めて微小に抑えられていた事など知らないゆきは思考が混乱して、晴近が目の前に居るのにも関わらず、独り言の様に呟いた。


「先に言ったと思うけれど、私は自分の事を偉いだなんて思っていないよ、ただ血筋が長いというだけでね。

 確かに位階は国持大名より上、そう、松平容保公よりも上だけれども。」


「会津の大御館様よりもお(えれ)え!?

 なのにたったの五十石!?

 それは、なして(どうして)!?」


「ハハ、その辺りも追々話す事になると思う。

 さあ、ゆき君、こんな所で立ち話もなんだから中へ入るとしよう。」



「あら御所はん、おいでやす。」


 晴近がその家の玄関を開けたところ

   年齢四十歳くらい

   両輪(りょうわ)に結った髪型

   緑色の留袖と黄色い帯

姿の女性が奥から現れ、晴近に向かって挨拶をした。


「ああ、さとさん。

 源造さんも居るかな?」


「亭主は今日も浅草猿若町に芝居現物に行ってます。」


「源造さんは本当にお芝居が好きだね。」


「ええ、ほんまに。

 ところで御所はん、今日は何のご用どすか?

 書斎のご利用?はたまた今日は此方(こちら)にお泊まりに?」


「ああ、私の元で働く事になって今日から此処に住む事になった娘の世話を頼みたくてね。

 ゆき君、入っておいで。」


 晴近は振り向いて、(いま)だ玄関の外に居たゆきを呼び寄せた。


「…あの、ゆきど申します。

 よろしくお願い致します。」


「ゆ!雪子さま!!

 ああーっ!なんまいだぶ、なんまいだぶ…」


 さとはゆきを見るなりその場に膝をつき、目を瞑り両手を合わせて念仏を唱え始めた。


「さとさん、姉上の御霊(みたま)とかじゃないよ、よく見てごらん。」


 さとに向かって晴近が少し微笑みながらそう言うと、さとは目を開けてゆきの顔をまじまじと見つめた。


「へ?い、いや、確かにこんな昼間から幽霊が出るやなんて、あらへんやろけど…

 それにしても、その()似てるなんてもんやあらへん…

 まるで雪子さまに生き写しやおへんか。」


「…ああ、確かによく似ている。

 髪もついぶちに結って、姉上の着物を着ているので尚更だ。

 母上も二家本の爺も驚いていたよ。」


「先に本邸の方へその()連れて行かれはりましたん。

 あれ?そやけど世話を頼みたいて、その娘は女中としてお雇いになりはったんとちゃい(違い)ますのん?」


「うん、女中なら母上が毛利家から呼び寄せた者達で充分に数が足りているからね。」


「はて?女中ではない…そして本邸住みではなく此処に住む…

 はっ!さては御所はん、その()をお(めかけ)にさらはるおつもりどすか!?

 いや!お姉さまにそっくりな()をお妾にやなんて、いややわあ…」


「さとさん、いくらなんでもそれは早とちりが過ぎるよ!

 私がそんな事をする訳ないじゃないか!!」


 声は大きくなっているが、晴近はさとに対して怒ってはおらず、苦笑いの表情を浮かべている。

 ゆきはぼんやりと晴近とさとのやりとりを眺めていたが、心の中で


 (…銀鏡さまど、おさとさんはどだ(どういう)関係なのだべ?

 さっき会った実のお母さまよりも、このおさとさんに対しての方が屈託なぐ話されでるように見える…)


と、この二人の関係性について疑問に思っていた。


「そしたら御所はん、その()は何の仕事をやるんどすか?」


「馭者さ。ゆき君には私の馬車の馭者を務めてもらう。」


「馭者?そんな若い(むすめ)さんが?」


「ああ、ゆき君は馬を操るのが非常に巧みなんだ。

 しかも、あの馬車馬(ばしゃうま)の出産に立ち合った昔馴染みでもあって、あの馬はゆき君の言うことを良く聞くんだよ。」


「へえー、そうですのん。

 そしたら山本はんはクビにしはりますのん?」


「いや、山本君には他の馬の世話を頼もうと思う。雇い解きはしないつもりだ。」


「何や、残念やわあ。

 山本はんは長州の士族やからいうて、町民()のウチらに偉そうにしはるから嫌いなんどすわ。」


「その事に関しては私から山本君に注意しておこう。

 ()(かく)、ゆき君を頼むよ。」


「はい、そらもう、雪子さまに似て可愛らしい()やもの、誠心誠意お世話させてもらいましょ…て、御所はん、お妾とかに囲う訳やないんやったら、何でその()は本邸やなくて此処に住まわせるんどすか?」


「ゆき君は会津の出身でね。」


「なるほど、そら、あきまへんわ。

 本邸は大奥様はじめ使用人も皆、長州()の人ばかりどすもんなあ。」


「うん、さっきその事で母上がゆき君とやり合ってね…」


「そら災難どしたなあ…

 ゆきちゃん、ウチはあんたはんが何処の出身でも構わへんからね。

 さあ、こっちに来ておくれやす。」


 さとはゆきを手招きし、家の中に入るように促した。


「ありがとうございます、おさとさん。

 よろしくお願い致します!」


 ゆきはさとの温かい微笑みの顔を見て、それまでの緊張が解けたのか、意図せず目から涙を流していた。


              第二十話 (終)


※両輪


 江戸時代後半から大正頃まで、京都や大阪を中心とする西日本の既婚女性に結われた髪型。

 今日から住む所として、離れにある銀鏡家の京都における住居を再現した一軒の建物に案内された「ゆき」。

 ここから「ゆき」の新生活がスタートします。


 これからもよろしくお願いします。

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