第8話 ファナ、スカウトされる
「ほらな! 迂闊にはめたりするから!」
「いや私のせいじゃないでしょ!?」
私が指輪をはめたせいでダンジョンが揺れだしたと責めるエリクに、思わず違うと言い返す。
あれ、違う……!?
違うよね!?
え〜〜〜!?
でもでもちょっと待って!?
まさかのダンジョン崩壊!?
て、転移魔法……!
いやダメだ。
自分一人ならすぐ飛べるけど、エリクの分は詠唱しないと……!
「ファナ! 大丈夫か!」
突然のダンジョンの揺れに内心で慌てる私と、そんな私に向かって手を伸ばしてくるエリク。
はっし! とエリクが私の手を掴んだ瞬間、ほぼ反射的に左手の指輪で自分とエリクのふたりを包みこむように防御結界を張った。
せめて、これで少しは衝撃を防げれば……!
そう思った瞬間。
「あ――」
床が――。
ガラリと。
沈み込むように崩落していく――!
やばっ……、流石に咄嗟に、二人分の転移魔術を使う余裕はない!
「ひ……やぁああああああぁあああああああ!」
そうして――、情けない悲鳴を上げながら。
私たちは崩落していく地面と共に落下していったのであった――。
◇
「ん…………」
『魔力鑑定――クリア』
朦朧とする意識の中、やけに事務的な女性の声が耳に入る。
『魔力技能――クリア。知能鑑定――クリア。ファナ・クレイドルを、【志学】の遺産譲渡者として許諾しました』
遺産譲渡者……?
耳慣れない単語を、脳内で反芻する。
「……ファナ」
「ん〜……」
「おいファナ。そろそろ起きろ」
「んぅ……、はっ!」
ゆさゆさと肩を揺さぶられ、それでやや覚醒した私は、その瞬間自分がエリクに膝枕されていたことにようやく気づき、慌てて跳ね起きる。
「ごめん……、意識飛ばしてた……」
「いや、それはいいが……。大丈夫か?」
エリクから『大丈夫か?』と言われて、ようやく自分たちが直前、崩落した地面から落下したのだということを思い出した。
自分の体に意識を向けてみた感じ、どこも痛い場所などはなかったのでとりあえず折れたり怪我したりしている部分はないと結論づける。
「……ん。多分大丈夫」
「そうか。よかった」
私がそう言うと、エリクがほっとした様子を見せる。
見た感じエリクも特に外傷はなさそうだったが、念の為「そっちも大丈夫なの?」と尋ねたら「ああ」と返ってきたので、安心して話を進めた。
「ねえ。さっきの聞こえた?」
「さっきの?」
私の問いに、エリクがキョトンとした様子を見せる。
――エリクには聞こえなかった?
あの機械的な言葉で告げられた『【志学】の遺産譲渡者』という言葉が。
確かに、あの声は明確に私の名前を告げていた。
となると、私にしか聞こえないようなんらかの術を使ったと考えれば辻褄はあわなくない、けど――。
「ところで、なあ。もう一つ気になっていたことがあるんだが」
「うん? なに」
「ここ……」
そう言ってエリクが見渡した、今私たちのいる場所。
「…………書庫?」
「というより、図書室みたいだな……」
そう。
先ほどいたダンジョンとうってかわった、近代建築によって作られた部屋。
そこには所狭しと本が敷き詰められていた。
「…………」
並べられた蔵書を確認するために立ち上がると、本棚に近づく。
………………これ。
「…………魔導書だ」
……………………。
魔導書だあああああああああ!
あれも!
これも!
それもどれも!
しかも全部、私が見たいと思ってずっと探してたやつ!
あっ……、古文書まで……!
世界中の魔術に関する書籍と思われるものが、そこらじゅうに並んでいた。
なにここ……? 天国……?
「よかったなファナ、お望みのものがあって」
「ほんとよ! お望みなんてものじゃないわ……!」
興奮気味に本棚に食い入る私に、エリクがそう告げてくる。
「しかし、どうするんだ? この量。持ち帰るにも限度があると思うが……」
――確かに。
エリクの言う通り、人力で持ち帰るには現実的な物量ではないし、転移魔法で送るにしても数日がかりになる。
まして――、置く場所どうする?
家を追い出された宿無しなのに。
……まあとりあえず、しばらくの間はここに転移陣を作っておいて、読みたい時に取りにくるのが妥当かなあ。
そんなことを思っていたら。
「なあ。俺にひとつ、提案があるんだが」
「……提案?」
そう言ってエリクが、私に向かってにやりと笑みを浮かべる。
「ファナ、俺の仲間になってくれないか?」
「仲間?」
思いもよらない単語が出てきたことで、思わずおうむ返ししてしまう。
「ああ。ここまで一緒にダンジョン攻略をしてきて、ファナの有能さはよくわかったし、得難いものだと思った。だから俺の助けになって欲しいんだ」
その代わり、見返りとして衣食住+αを提供する――と言うのがエリクの提案だった。




