第9話 ファナ、エリクの正体を知る
「ここに来る道中言ってたじゃないか。家から追い出されて住むところもないって」
俺の家でよければ間借りさせてやってもいいし。
この大量の本を収納する場所も都合をつける。
すらすらと出てくるエリクからの言葉に思わず目が点になる。
……え、なに?
この人そんなにお金持ちだったの?
どこか警戒しながらそんなことを思う私は、エリクに尋ねた。
「……仲間っていうのはつまり、今回みたいにダンジョンに入ったり、なにか依頼があったときに協力する、ってこと?」
「ああ。もちろん、ファナの都合もあるだろうから全部が全部じゃなくていい。どうしても一緒に来て欲しい時は俺もファナに合わせるし。もし途中で『やっぱり無理だな』と思ったら遠慮せず言ってくれて構わない」
――俺は、ファナのことを気に入ったから提案しているのであって、無理強いはしたくないから――と。
…………どうしよう。
条件としては悪くない。
これから家を探して契約だのする手間を考えると、圧倒的に楽だ。
お金もかからない。
そもそも、保証人がいない私に家を借りられるかもちょっと不安だし……。
出会って数日だけどエリクはいい人だし、悪意があるようにも見えない。
実際に私自身、ギルドの依頼で仲間がいたらなと思う時もあるし、実際人を雇って依頼を手伝ってもらったこともある。
エリクの実力であれば、私としても依頼の手伝ってもらうのに申し分ない。
…………これは、乗った方がお得なのでは――――?
「あと、余ってる部屋をファナの研究部屋にしてもいいし――」
「わぁエリク! これから仲間としてよろしくね!」
ずずずずいっと。
――考えるよりも先に、体と口が出てしまった。
言った後から『――あ』と思ったけれど。
でもしょうがないじゃん!
心の底から研究室を欲してたんだもん!
冒険者コンに来る前にちょっとだけ物件も見たけど、研究室が作れそうな家はめちゃ高いし……。
魔導書の置き場も考えてくれるって言うし!
「――交渉成立、だな」
そう言って、嬉しそうにニヤリと笑うエリクを前に、私は腹を括る。
「……そうね」
なるべくしてなったのだ、きっと。
家から追い出された矢先に冒険者コンが開催されたことも。
そこでエリクと出会ったことも。
こうして、路頭に迷った私に救いの手が現れたことも。
昔誰かが言っていた。
『選択に迷ったら、楽しそうなほうを選べばいいのだ――』
と。
エリクが仲間ならば、まあまず楽しくないことはないだろう。
引きがよかったという自分の勘を信じよう。
そう思いながら。
エリクが差し出してきた手を握り返して、ぎゅっと握手を交わした。
こうして私は。
冒険者コンで出会った相方とマッチングを果たし、仲間となった。
☆ ☆ ☆
あれから。
例の魔導書がおいてある図書室にはいつでも戻れるよう転移陣を敷き、その後私とエリクの二人が外の出るための転移陣を作ってダンジョンの外に出てきた。
「ファナさん!」
「リサ」
地元のギルドの受付嬢であるリサが、私の姿を見つけると感極まった様子で駆け寄ってきた。
「ファナさん、心配したんですよ……!」
「え? 何が?」
うるうると若干涙ぐんだ様子でそう告げてくるリサにきょとんと返事をする。
「突然、ダンジョンが揺れて、中にいた人たちが全員排出されたかと思ったらファナさんのペアだけ戻ってこないじゃないですか! なにか大きなトラップでも踏み抜いたのかと思いましたよ……!」
なるほど。
ラスボスを倒して指輪をはめた時、揺れていたのはあの部屋だけなのかダンジョン全体なのかどちらかわからなかったが、どうやら後者だったらしい。
「ごめんね心配かけて。でもほら、とりあえずこの通り無事だから」
そう言って、私がリサににこりと笑って、自らの無事を証明して見せた時だ。
「おうじ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
と、なにやらこちらに向かって叫びながら走ってくる声が聞こえた。
「王子!! 心配しましたぞ!!」
「何をそんなに大袈裟に騒ぐ。ちょっとダンジョンに潜っただけじゃないか」
それに人前で王子と叫ぶのはやめろ、と駆け寄ってきた男にエリクが告げる。
「……………………おうじ?」
「ん?」
私が下ろしていた手をぶるぶるとあげ、エリクに向かって指差すと、指された方のエリクがきょとんと微笑む。
「ああ、ファナには言ってなかったか」
――俺、この国の王子なんだわ。
この【冒険者コン】自体がキルギス王国の王子である自分の企画なのだと。
けろりとそう言ってのけるエリクに。
「…………き」
「き?」
俯いて握り拳を震わせ、小さく声を漏らした私にエリクが聞き返す。
「聞いてないわよおおおおおおおおおおおおおおお!」
そうして私は、天に届くほどの大声で、力いっぱいに叫んだのだった。




