第42話 コーネリアス、エリクの正体を知る
そうして、冒険者コンの決起会パーティー会場から少し離れた外のバルコニーにたどり着くと。
「……お前の、価値を見誤っていたことは認める」
「………………」
コーネリアスがしおらしくそんなことを告げてくるのを、黙って聞く。
「クレイドル家に残っていた帳票も見た。お前がほとんど一人で、あの家を回してたことも。その上で……、謝罪させてもらいたい。申し訳ないことをした」
……およ?
思いがけずコーネリアスが素直に謝ってくることにちょっと拍子抜けする。
でも逆に、この先の展開を読んでしまって、ちょっと警戒心も生まれた。
「それでその……、改めて、もう一度婚約を結びなおしてもらいたい。いや、婚約で不安なら一足飛びに結婚でもいい。メアリのことは、俺がなんとかするから」
「……はあ?」
今までとは打って変わった態度でそう告げてくるコーネリアスだったけど、言っている内容は正直『は?』という感想しか抱けなかった。
もう一度婚約を結びなおす?
婚約で不安なら一足飛びに結婚?
メアリはなんとかする?
結局のところ、改心したような振る舞いを見せても、その根本はあくまで自分勝手なんだなあと呆れた気持ちになった。
――そんなところに。
「自分の非を認めて相手に謝罪する心意気には感心するが、とはいえ相方を連れていかれると俺が困るな」
「エリク」
いつのまにか、誰から私がここにいると聞いたか知らないが、エリクがバルコニーの入り口近くで不敵に笑っていた。
「貴様……! ……部外者は、ひっこんでいてもらおうか」
コーネリアスがそう言ってエリクにすごむが、言われた方のエリクはどこ吹く風だ。
「部外者か。この場合、部外者は俺じゃなくてそっちの方だと思うんだがな。一応聞くがお前、ちゃんと招待状をもらってきたのか?」
どうやって入り込んだのかは知らないが、今日は招待客しかここに入れないようにしていたはずなんだが、とエリク。
その言葉に、コーネリアスが気まずげに顔を背けた。
えっ……?
なに? こいつ。
もしかして、招待状を偽造してきちゃったとかそっち系?
え、大丈夫?
とか思っていたら。
「貴様、確かエリクとか言ったな。じゃあなんだ? 貴様が俺の代わりにファナを幸せにするとでも言うのか? ただの冒険者でしかない貴様が……!」
あろうことか、居直ったコーネリアスが話をすり替えながらエリクに向かって啖呵を切り始めた。
「しかも聞くに冒険者ランクもBランクらしいじゃないか。そんなうだつのあがらないざまで、よくもそう大見得きれたもんだな」
そう言って、エリクに向かって勝ち誇るように「はっ!」と嘲笑するコーデリアスだったけれども。
ねえー!
また地雷踏んじゃうの!?
どうしてあんたはいっつもそう綺麗に地雷を踏むの!?
見てるこっちがいい加減耐えられなくなってきたんですけど!!
「貴様のような態度だけの男よりも、どう考えても俺の方に利があるだろうが。ファナ、よく考えろ。お前がどっちを選んだ方が自分のためになるかを」
うだつのあがらない冒険者と、事業が好調な子爵家次男の俺。
お前にとってどちらがメリットがあるかよく考えろ――と。
「え、っと……」
そうして、コーネリアスの言葉でエリクとコーネリアスの視線を一身に受けることとなった私が、なんと答えようか口籠った時のことだ。
そこに、おずおずといたたまれなさそうな声色で私たちの間に割って入ってきた者があった。
「……あのう、殿下。お取り込み中のところ申し訳ありませんが、そろそろお時間が迫っておりまして……」
この国の冒険者ギルドの副長であり、ギルド長の秘書的なポジションを担っている女性職員だった。
今日のこの決起会で、企画者であるエリクが挨拶の場をもうけるのだという話は聞いていた。
その時間が迫っており、呼びにきたのだと思われるが――。
「……殿下?」
ギルド副長の言葉に、コーネリアスが眉をひそめてエリクを見やる。
ああ……、うん。
ここらが、とどめの刺し時かもね……。
どうせこの後、お披露目するのだ。
今言っても早いか遅いかだけの違いでしょ。
そう思って、私はコーネリアスに向かって答えを教えた。
「……あのね、あんたがさっきから貴様貴様言ってる目の前この男が、この国の第二王子殿下よ」
「…………………………………………………………は?」
私の言葉に、壊れたおもちゃのようにコーネリアスが口をぱくぱくと上下させる。
「悪かったな、うだつのあがらない甲斐性無しじゃなくて」
ははは、と楽しそうにエリクが笑いながら私の肩に手を置く。
……なんなんだこの手は? と思えど、エリクは特に気にするそぶりもなく。
「ああ、お前の名前も家名も覚えておいたからな。今度からこいつに用事がある時は、俺を通して話をつけにこいよ」
そう言いながら、エリクが私の肩に手を回したままぐいっと方向転換させる。
「ちょ、ちょっとエリク……」
「なんだ? まだ用事があるのか?」
思わず私がエリクに声をかけると、エリクがキョトンとした顔で私にそう告げてくるので。
うっと眉根を寄せて一瞬考えてみたが、よく考えるとこれ以上私からコーネリアスに話したいことなど特になかった。
ただ、ちょっと不憫になっただけだ。
何もかも空回りしすぎて、存在ごと消えてしまいそうになっている元婚約者が。
口を開いたままがっくりと肩を落とし、真っ白な灰みたいに色を無くしたコーネリアスを横目に部屋をでると、遅れて室内から
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!」
と叫ぶ声が聞こえた。
自業自得とはいえ、さすがにちょっと哀れすぎるかなあ……と思った。




