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第41話 ファナ、ドレスを着させられる




 それから一週間ほど。

 相変わらず、魔王の人形は目を覚まさないままだ。


 時折、ベッドに横たわる様子を眺めに行っては、今日も目覚めないことを確認するだけの日々が続く中。


 私はというと、あの神にーちゃんとのやりとりもあり、結局冒険者コン事業に本格的に参画することにしたのだった。



 ☆ ☆ ☆



「そういえばファナ。冒険者コンなんだが、国の認可事業として本格的に動き出すことになったから」

「は!?」


 私が自分の研究室で本棚の整理をしている時、エリクが暇だからとやってきて茶をしばきながら、そんなことを唐突に言い出した。


「え……、大丈夫この国……?」

「いや、なんでだその反応」


 私が引いた様子を見せると、エリクが解せないとでも言いたそうな表情で眉根をよせる。


「いやだって。国の認可事業ってことは税金使うってことじゃないの?」

「ファナ。一応言っておくが支援じゃなくて認可だからな。あくまでも資金繰りは冒険者コン運営委員会が行う」

「ほお」

「だから、かねてから考えていた通り資金の一部を出資者に頼ることにして、そのまえに国の認可事業となったことを大々的に公表することにした」


 その方が、出資者にとっても安心感がある、という話になったのだとか。

 ふむふむ。


「それで今度、関係者を集めた決起会的なパーティーを冒険者協会で行うことになったんだが――」


 それに、お前もでろよ――と。


「えー」

「えーじゃない。お前もう、ちゃんと企画委員のメンバーなんだからな」

「それはそうだけど……」


 やだなー。

 面倒臭い……。

 という胸の内の言葉は、口には出さずに留めておいた。

 まあ、口には出さなくても顔には出ていたと思うけど。


「当日の衣装やらは俺のほうで用意しておくから。日程だけあけとけよ」

「うえー」


 げろ……。

 こころの中で、淑女らしからぬ言葉を吐き出す。

 正直面倒臭い以外の何者でもない。

 しかし神にーちゃんとの約束もあって、冒険者コンの企画を疎かにもできない。


 なんと言われても、私が気乗りしていないのをエリクもわかったのだろう。

 

「当日ちゃんと参加してくれたら、謝礼もでるから」


 と取りなしてきた。


 ……おい! ちょっとそこのエリくん!

 私が毎度毎度、物で釣られると思ったら大間違いだぞ!

 釣られるけどっ!!


「じゃあパパ。あたし、賢者の石が欲しいなあ」

「誰がパパだ。でもって賢者の石なんてどうやったら手に入るんだ……」


 そう言って呆れるエリクだったが。

 まあもっともである。

 私だって、どうやったら賢者の石が手に入れられるか知りたい。


「じゃあ甲斐性なしのパパのために、あたしは我慢して身売りすればいいのね」

「そうは言うけど俺、結構お前に尽くしてる方だと思うけどなあ……」


 ぎくり。

 それを言われるとこちらとしても立場は弱い。

 一応、『仲間』という大義名分を持ってエリクの住まいに住まわせてもらっているが、ちゃんと計算してないから養ってもらっている分と働きが釣り合いが取れてるかどうかはわかんない。


 あ。でも。

 パトロンだと思えばいいか。

 いやだめか。


 第二王子がパトロンなんて、ますますもって愛人だとしか思われない。


「はぁい……、じゃああたし、パパのために頑張って働きま〜〜す……」

「いつまでパパネタを引っ張るのか知らんが、まあ頼むな」


 そう言って、私のしつこいパパネタに苦笑しながら、エリクが私の頭をぽんと叩いた。

 

 こうして私は冒険者コン決起会パーティーに参加することとなったのである。



 が――。



 ☆ ☆ ☆




「ファナさんて、ちゃんと着飾るとちゃんと可愛いんですね」

「……リサ。それ、褒めてる?」


 冒険者コン決起会パーティー当日。

 エリクは別の用事があるから後で会場に駆けつけると聞いて一人でぶらぶらしていたところをリサに捕まってそんなことを言われた。


 ちゃんと着飾るとちゃんと可愛いってなによお!

 普段からちゃんと可愛いでしょうよお!


「ふふっ、冗談ですよ。いつも可愛らしいですけど、今日は飛び抜けて綺麗です」

「そりゃど〜も……」


 いたずらっぽく告げてくるリサに、げんなりしながら返す。

 今日の私の装いは、薄桃色の髪をアップにして、纏ったペールブルーの膝丈のドレスを身に纏っている。

 いや、やや膝上かな。

 フィッシュテールドレス、っていうらしい。

 前が短くて、後ろに行くほど段々と裾が長くなっていくタイプのやつ。

 足が出ている面積が広くて寒い。

 あと履き慣れないヒール痛い。


「ファナさん、美脚ですよね……。え、そのドレスって、ファナさん自分で選んだんですか?」

「ううん。相方エリクが選んだ」

「…………ほぉ〜…………」


 私の答えに、リサがなんだか意味ありげな顔でにやける。

 なんとなく嫌な感じがして、私がリサに「なによ」と返すが、


「いえ、別に。ファナさん、愛されてますねえ……!」


 とにやにやしたまま誤魔化されてしまった。

 いや、愛されてるってなんだ。

 仕事だよ? これ?

 まったく。

 どいつもこいつも色恋沙汰に頭を沸かしおって……。


 そんなことを思っていたら。


「ファナ、ちょっといいか」


 そう呼ばれて聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのは嫌というほど見知った、あまり見たく無い顔だった。


「……コーネリアス」

「……話がある。ついてきてくれないか」


 そう告げてくるコーネリアスは、いつもの居丈高な感じではなく、なんだか少し殊勝な様子に見えた。

 くるりと振り返り、カツリとヒールを鳴らして仁王立ちでコーネリアスに向き合うと、なんだか顔を赤くして少し怯んでみせた。


 ……おりょ?


「……私は別に、話すことなんてないけど」

「俺があるんだ。今までのことを謝りたい」


 しゅんとうなだれながらそう言ってくるコーネリアスに、裏があるようには見えなかった。

 ……まあいいか。

 本人が謝りたいと言うなら、それを聞かないほど私も子供でもないし。

 そう思って、


「いいわよ、ちょっとだけなら」

「ファナさん……!」


 私が「どこで話す?」と腕を組みながら応じると、リサが本当にいいのかと言いたげに私の名前を呼んでくる。


「大丈夫よ、リサ」


 心配してくれるリサを宥めるようにそう言うと、「じゃあ行きましょ」とコーネリアスに向き直る。

 まさか、仮にコーネリアスから力技で仕返しをされたとしても、実戦経験に長けた私に敵うわけもなし。


 そんなことを思いながら、私はコーネリアスについて歩いていったのだった。

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