第40話 ファナ、嫉妬に気づかない
あれから。
あの後再び意識を失ってしまった魔王の人形をエリクが担いで、私たちはダンジョンを出た。
そうしてダンジョンを出て、再び私たちを救出しにいこうと準備をしていたシリウスやリーゼントたちに出迎えられたところで、私はふっつりと意識を飛ばした。
――そりゃーそーでしょーよ。
こちとら、魔王もどきを倒して、なんなら一回臨死体験したのだ。
疲労困憊極まれり、である。
それで、そこから寝ている間に王宮にえっちらおっちら戻され、通算3日ほど爆睡しての今である。
☆ ☆ ☆
「ほんっとーによく寝てたなお前……」
「しかたないじゃない。こっちはかよわい乙女なのよ?」
「……かよわい……?」
ベッドにもたれたままでもぐもぐと食事を口に運ぶ私に、エリクが疑わしげな視線を向けてくる。
『私が目を覚ました』という報告を使用人から受けたエリクが、起き抜けでベッドで食事をしている私のところまで押しかけてきたのだ。
エリクの方はというと、あれから多少の疲労はあったものの、特に寝込んだりすることなく通常通り活動していたらしい。
……タフな男だよ、まったく!
「魔王……もどきの方も、まだ眠ったままで目を覚さない。医師に調べさせたが、やっぱり人間ではなくゴーレムに似た類のものらしい。これほど人に似せたゴーレムを作れる技術があることが信じられないとも言っていたが」
「そう」
エリクの言葉に、短く答える。
それ以上私が何も言葉を紡がずに黙っていると、そよりと窓から入り込んだ風が頬を優しくくすぐった。
「…………なあ」
少しの沈黙の後。
エリクが遠慮がちに私に問いかけてきたのを、無言で受ける。
「……今更だけどお前、その指輪、なんでそこにはめてるんだ」
「……指輪?」
そう言ってエリクが目線をちらりと向けたのは、私が右手の薬指につけている青い石の指輪だ。
【志学】のダンジョンでエリクと一緒に手に入れた、あの指輪。
「ここが一番サイズ的にちょうどよかったからよ」
「……それだけか?」
どこか探るような目線で問いかけてくるエリクの言葉を、私は黙って受け止める。
………………?
…………なんだ?
エリクにしては珍しく、なんだか面白くなさそうな顔でそう言ってくるけど。
この指につけるとなにかまずいんだろーか?
そう思いながらじっと薬指にはめた指輪をしげしげと見つめていたら、
「……いや、やっぱいい。変なことを聞いた」
と言って視線を逸らした。
「……右がダメなら左につけるけど……」
「それはもっといい。そのままでいいから今のは聞かなかったことにしてくれ」
なにがよくないのかなあと思いながら私がエリクに代替案を口にしたら、なぜかさらに強い口調で止められた。
えええ?
なによもおおおおお。
ああいえばこういうみたいな!
なんとも釈然としない思いのまま、エリクが部屋を出て行った後にそれとなく使用人頭のジェームズに聞いたら。
「……この国では、右手の薬指は恋人からもらったものを、左手の薬指は伴侶からもらったものをはめるという慣習があるのですが……」
ファナ様はご存じなかったのですね、と答えが返ってきて。
………………ほ〜〜〜〜〜ん?
………………ふ〜〜〜〜〜ん?
………………ええと?
つまりは、右手の薬指にはめてると、私がエリクの女みたいに見えるし。
左手の薬指にはめると、嫁ヅラしてるみたいに見えるからもっとやめろ、ということだった、のか……?
……まあ。
なるほどそうかもね。
考えてみた結果、一番現実的な答えに辿り着き、一人納得する。
確かに私も、前にエリクに『あなたの婚約者とか女だと勘違いされるのはまっぴらごめんだ!』みたいなことを言った。言いました。
そんな私のほうが、勘違いさせるような指輪を付けてるのはどうなんだ? ってことか!
なるほどそうか!
そういうことか!
納得ーーー!
ごめんごめん!
うーん……。
そういうことなら、じゃあ……。
鎖にでも通して首にかけるか。
別にこの指輪、術式刻印してるわけじゃないし。
そう思って、右手の薬指にはめていた指輪を外して、ジェームスにネックレスにできそうな鎖を探しておいてもらえるように頼んだ。
王子様ってやつは、本当に大変だねえ……、と。
そんな呑気なことを、他人事のように思いながら。




