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第39話 ファナ、魔王の遺産を継承する




 ――ひゅっ、と急速に肺に空気が入ってくる感覚で覚醒する。



「うっ……! げほっ! げほ……っ!」

「ファナ!」


 体を丸めて私がぜいぜいと咳き込みながら息をついていると、エリクがほっとしたような声で声をかけてくる。


「エリク……」

「よかった……! お前、死んでたんだぞ!?」


 ――はっ?


「げほっ……!?」

「あ、すまん。正確には少しの間心肺停止してた。まったく、ヒヤヒヤさせるな……!」


 この馬鹿、と言いながら、エリクが私の頭にぐしゃっと手を置いてくるが、こっちとしてはそれどころじゃなかった。


 ――あの神!

 まさか、私をあっち側に呼び寄せるために、一瞬息の根止めたんじゃないでしょうね……!?


 私の返事や態度次第では、本当にあのままぽっくり逝かされていたのではないかと思うと、たらりと冷や汗が流れた。


「痛っつ……」

「ああ、悪い。だいぶ強めに圧迫したから、もしかしたらひびが入ってるかもしれん」


 起き上がると、あばらのあたりがミシミシと痛みを上げたので思わず声を上げると、エリクが申し訳なさげにそう告げてきた。


 ……あばらの痛み。心肺停止。

 …………ええと。

 …………もしかしてこれは。

 人工呼吸というやつを、してくれたのではないだろーか。


 そんなことが一瞬脳裏をよぎったが、それを問いただすことはやめておいた。

 もし本当にそうしていたのだとしても、私が死んだと思って焦ってやってくれたんだろうし――。

 私がそう結論づけようとすると、エリクはエリクでずっと思うことがあったらしく、私がひとまず落ち着いたところで質問を投げかけてきた。


「なあお前……。なんで突然あんなことになったんだ? それまで普通に戦ってたのに」


 あんなこと、っていうのは私が心肺停止状態になったことよね……。


「……最後に魔法剣に使ったあの術、そんなにやばいやつだったのか?」

「まあ、そうね……。あれで魔力をごっそり持っていかれたのと――、あの剣にかけてた術が、禁術スレスレだったのが良くなかった――かなあ?」


 禁術スレスレというか、紛れもなく禁術なのだが。

 とはいえさすがに『禁術使いました! てへ☆』とも言えないので濁したけど。

 そうして、私がそう言うとエリクは、


「かなあ? って。お前、ほんとになあ……」


 と盛大にため息をつき、私の頭頂部にチョップをかましてきた。


っ……」

「規格外なのと変に向こう見ずなところはファナの面白いところでもあるけどな。それで死なれちゃ俺も困るんだよ」

「あう、ごめん……」


 はぁい……。

 その点に関しては言い訳のしようもないから素直に謝るしかないよね。

 まあ別に、私だって死のうと思ってやったわけじゃないんだけど。


 そう思いながら、ようやく『心肺停止』という衝撃の事実から落ち着いてきた私が「はあ」と一息つかせると、


「……それで、あいつは?」


 と、今回の一番の重要事項である魔王ジエンドの顛末をエリクに尋ねた。


「あっちに寝かせてある」


 そう言ってエリクが親指で背後を示して見せると、確かにそこには地面に横たわった魔王ジエンドの()()の姿があった。


 立ち上がるのが億劫で、ずり、とうようにして魔王の人形に近づく。


「………………」


 地面に座ったまま見下ろす彼の寝顔は、記憶にあるものとなんら変わらない。

 いや、よく見てみると当時の彼よりも少し幼いようにも見えなくも無いが。

 神にーちゃんは、私が禁術を使ったことで『擬似魔族みたいなものをそれを元の人形に戻しただけ』と言っていた。

 少なくとも、こいつの中の魔の部分は、魔ではない()()に転変できた、ということなんだと思うけど。


 人形だからなのだろうか。

 生気を感じさせない横たわった姿がなんだか妙に気になって、右手をその頬に向かってそっと伸ばし、触れた。


 ――その瞬間。

 右手にはめていた指輪の青い石が、きらりと小さく光った気がした。


『遺産譲渡システム、起動』


 前にもどこかで聞いたことのある、やけに事務的な女性の声が耳に入る。

 気付けば横たわった魔王の人形も瞳を開き、真っ直ぐに天井を見つめていた。


『魔力鑑定――クリア、魔力技能――クリア。知能鑑定――クリア。ファナ・ノーワンを、【魔王】の遺産譲渡者として許諾しました』


「は?」


 ――魔王の、遺産?


 意味がわからないまま、横たわる魔王の人形を見ていたら。

 ゆっくりと上半身だけを起き上がらせた目の前の少年が、私に向かってゆっくりと手を伸ばし、ふわりと微笑んでこう言った。


「――愛してる、ファラ」


 頬に触れたその人形の手は、ひやりと冷たい感触がした。

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