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第38話 ファナ、またやらかす



「おいおいおい、またかよ……」


 頭上から、そんな声が聞こえてきてふっと目を覚ます。

 見上げた先にはうっすらと雲が浮かぶ空。

 どうやら私は、地面の上に寝そべっているらしい。


「お前よお、学習能力ってもんがないのか?」


 声をかけられた方を仰ぎ見ると、そこにはチャラいちんぴらみたいな風貌の若いにーちゃんが呆れた顔で私を見下ろしていた。


「あ、神様」

「『あ、神様』じゃねーよ」


 そう言いながらチャラい神のにーちゃんがびしりと私の額にデコピンをする。


「俺も長いこと神やってるけど、二回も禁術で強制退場させられるやつ初めて見たぞ……」

「いやあ……」

「褒めてねえし」


 ちっ。

 なんだよノリが悪い神だなあ。

 こっちがしみったれた空気になるのを避けよーと気を遣っておるのに。

 あ〜、まあでも。


「やっぱりあれ、禁術だったのねえ……」

「まあ、魂の書き換えとか、立派な禁術だよな」


 前回あれだけ『神域に触れる』って言ったのによお、と呆れたように笑われ。


 あああ〜〜〜やっぱりそうよねえ〜〜〜。

 そんな気がしてたのよ。

 だから使いたくなかったのよあの剣。


 でもさあ。

 あの状況でなんとかするには、あの剣使うしかなかったと思わない?


「はあ……。せっかくそれなりに転生ライフを満喫してたのになあ……」


 これでまたパアじゃない。

 ていうか私、前回30代半ばで死んでて、今回10代半ばなんだけど!

 全然長生きができないんですけど!


「お前、これに懲りたら、ちゃんとあの剣に刻んだ呪文(つぶ)せよ?」

つぶせって言ったって……」

「俺らは天界に来るものには干渉できるが人間界には干渉できないんだから」


 あの禁術に関する記憶は消しておくからその代わり術式はお前がちゃんと消せよ、という神にーちゃんの言葉に、引っ掛かりを覚えた。


「……私、戻れるの?」

「戻さねーとは言ってねーしなあ」


 ……ほへ?


「よくわかってねーようだから教えてやるが。もともとお前が転変させたあの魔王もどきは、人形だ」

「……人形?」

「ああ」


 聞くに、私が倒したあのジエンドそっくりの魔王は、魔王が作った人形なのだそうで。


「とはいえ、魔王が魔力を込めて作ったより魔族に近い人形だ。擬似魔族みたいなもんだな。それを元の人形に戻しただけだから、今回はギリお咎めなしだな」

「……なんだあ」


 神にーちゃんの言葉に、ほっと肩の力を落とした。

 なんだよ。てっきり私、また死んじゃったと思ったじゃない。

 と、そこまで思ってまたふと気づく。


「ん? じゃあなんで私、ここにいるの?」


 お咎めなしで無罪放免なら、わざわざここに呼ばれる必要なんてなかったはずだ。

 話の整合性が取れないことに若干の嫌な予感を感じつつ、神にーちゃんに質問を投げかける。


「お前な、結果的に禁術を使ったことにならなかったとは言え、それに相当する所業をしたんだぞ。しかも二回目だ。三回目がないように、釘刺すために呼んだんだよ」

「あ〜……」

「あとな、それとは別の話もある。お前な、魔族の救済しただろ」

「魔族の救済……?」


 よくわからないことを言われて思わず眉間に皺を寄せる。


「あ〜、自覚なしか。まあしゃあないか。お前が死んだ後だもんな」

「………………」


 言われていることがよくわからないので、とりあえず口をつぐんで話の続きを待った。


「あの魔王だよ。お前に入れ込んだ結果、人の心を持つに至ったおかげで人に転変したんだ」

「ん?」

「基本的に、魔族は涙を流さない。涙を流すという器官も心もそもそも存在しないからな。でも、それほどにやつらの魂を揺さぶる出来事が起こった時に、魔族は人に変わる」


 魂の揺さぶりによって生まれた涙が溢れることによって、魔族が人に転変するのだと神にーちゃんが説明してくれた。


「でな。本題はここからだ。お前、人間界で【冒険者コン】みたいなんやってるだろ」

「え、まあ……」


 よくそんな俗っぽいこと知ってますね、と言おうと思ったけど、また話が長くなりそうだからやめた。


「あれをな、ゆくゆくは魔族も巻き込んでできるようにして欲しいんだ」

「はあ?」


 神にーちゃんの言っていることが無茶すぎて、思わず腹から声が出た。


「いや、無理でしょ! 死人出るわよ! てかどうやって魔族にそんなもん参加させんのよ!」

「それを考えるのがお前の仕事なんだよ。言っとくけど、これで挽回できなかったら次は転生ストップさせられるからな!」

「えっ……」

「規格外すぎんだよお前。前の人生でも、どんだけ文明進化させた?」

「……う〜〜〜ん……」

「うっかりするとすぐ神域に触れる術とか見つけちゃうし。危険分子は飼い慣らせないなら手元で捕まえておくしかねえって理論はわかるか?」

「いや、わっかんなくはないけどお……!」

「俺らがお前に求めるのは、あの魔王みたいに他の魔族も転変させて、人間に帰化させてやることだ」


 その橋渡しをやれ、というのが、どうやら神にーちゃんたちの要望らしく。


「お前みたいにぼんぼんイレギュラーなことやらかすやつならできんだろ。魔族ってのはもともと人間と寄り添えるように作られてるんだよ。それがまあ、いろいろあってああなっちまったんだが、あいつらに人の心を取り戻させて、輪廻に戻してやってくれよ」

「輪廻に……」


 その言葉でふと、悲しげに笑っていたジエンドのことを思い出す。

 彼は、帰化したことで輪廻にのれたのだろうか?

 いつか『人間に生まれてきてみたかったな』とこぼした彼の言葉を思い出す。


 それからふと、目の前の神にーちゃんとのやりとりに戻ると、はたと気づいた。


「……え。これ、拒否権ないやつでしょ……」

「察しがいいな」


 これまでに言われたことを総括して導き出した結論を口にすると、神にーちゃんはにやりと笑って私の額をトンと突いたのだった。


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