第37話 ファナ、ダンジョンに戻る
私とエリクが図書室の転移陣を使うと、案の定辿り着いたのは先ほど魔王ジエンドがいたボス部屋だった。
……まあ想定内というか、それしかないよね……。
ボス部屋に転移で戻ると、先ほどまでとはうってかわって一人うつろに佇んでいた魔王の真横に出た。
なんとなく、その寂しげな佇まいに胸が痛む。
――けど。
その瞳がこちらを視認した瞬間、すかさず攻撃を放たれる。
――はい!
もしかしたら、指輪の効果とか何とかで正気に戻ってるかなとか一瞬でも思った私が馬鹿でした!
「エリク!」
「おう!」
私の呼びかけに答えて、エリクが私と逆方向に跳ねる。
跳ねると同時に魔王の間合いに入るエリクが、すかさず魔王に向かって剣戟を放つ。
ヒィ……!
よくあんなスレスレまで飛び込んでいけるわよね……!
反撃されても避ける自信があるんだろうけど、そして実際に避けているけど、みているこちらがヒヤヒヤする。
『雷撃! 岩壁!』
そうして私は、エリクの剣戟を避けた魔王を攻撃呪文で狙い打つ。
狙い打ったところで、躱されるか結界で受け流されるかだけれど。
まあね、こっちもまだ小手調みたいな術しか打ってないからね……!
じりじりと、魔王がエリクの攻撃を避けた場所に岩壁を作りながら、退路を塞いでいく。
つかあの魔王。
エリクの繰り出した剣戟を手刀でいなすってどういう技術よ!
よく見ると魔王が手刀で切り返した部分、エリクの衣服が切れてるんだけど!
どゆこと!?
あとエリクと交戦しながらこっちにもしっかり攻撃魔術を投げてくるのやめてほしい!
そんなことを思いながら、隙を窺いつつゆっくりと呪文詠唱を始める。
エリクがいい感じに追い詰めてくれているおかげで詠唱する余裕ができた。
えらいぞ! エリク!
『――相克せよ、万象』
そして、唱え始めたのは今日二回目の『究極の虚無』。
さすがにキツイ。
血管はち切れそうにキツイ!
やだー!
血管ぱっちんしたら死んじゃうー!
なんて心の叫びはおくびにも出さずに、詠唱を続ける。
『開け口を 飲み込めすべてを 我は汝と共にある――究極の虚無!!』
キィ・スペルと共に放たれた究極の虚無が、ぎゅるぎゅると螺旋を描くように魔王ジエンドに向かって伸びてゆく。
そうして魔王が、それを受け止めようと手のひらで構える――が。
――甘い!
今回の私の狙いは、そっちじゃないのよ! ねっ!
ダンっ!
パンっ!!
私の渾身の魔術を受けようとした魔王に目くらましをかけるために、足踏みをして魔王の目の前で小さな爆裂魔術を炸裂させる。
そうして魔王に向かって伸びていった魔術が、魔王にぶつかろうとした直前で垂直に――落ちた。
爆裂魔法を使うことで、一瞬集中力を奪い、私の真の狙いを隠したのだ。
魔王の足下にあった地面に、ぽっかりと虚空を作る。
エリクは、その一瞬の隙を見逃さない。
――ずしゅり!
魔王のどてっ腹をエリクが剣で貫く。
そしてすでに駆け出していた私は、エリクの背後から手を伸ばし、背中越しにその剣の刀身を掴んだ。
刀身に刻んでいた術式に力を流し、口を開く。
もう一つの媒介は、私の血だ。
握った刀身から流れた血が、術式にも流れて光っていた。
そうして、最後の一押しとなるキィ・スペルを唱える。
『――転変せよ。力を示せ。転生の剣』
目の前の魔王の顔が、驚きに染まる。
――転生の剣
それは、私が魔王のために進めていたもう一つの研究。
魔を人に変える魔術――転生の剣だ。
いつか、どこかでぽつりとつぶやいた『……人間になったらどんな気持ちがするんだろう』という、たった一言をきっかけにして生まれた術。
――――――。
――あっ、やば。
そんなことを思っている間に、刀身を掴んでいる手から、魔力がぎゅんぎゅん吸い取られていく。
あれ、これ――?
さすがに魔王を人間に変えるには、私の魔力根こそぎ持っていかれても足りないかも?
いま意識を持っていかれたら確実にエリクがやばい、という気持ちだけで気張る。
「おい、ファナ?」
すぐ隣からエリクに呼ばれるけど。
そうして、刀身に貫かれていた魔王がかくんと意識を手放したのを見て、私もほっと気を緩めた。
おわっ、た――?
「おい! ファナ!」
そのまま、魔力ゼロになった私は、ふつりと意識を途絶えさせた。




