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第32話 ファナ、新ダンジョンのラスボスを見る




 さて。

 あれから私たちは黙々とダンジョンを降り続け、地下14階まで到達した。


「……なんかこのダンジョン、妙じゃないか?」


 襲ってきたヒュドラをやっつけたばかりの聖騎士シリウスが、剣をさやに収めながらいぶかしむ。


「妙って何がだ?」

「出てくる魔物が上級モンスターばかりなのもそうだし、妙に手強いというか……」


 尋ねるエリクにシリウスが答える。

 ――確かにそうなのだ。


 シリウスの言う通り、本来であればヒュドラなんてダンジョンのボスキャラ的な魔物と言ってもいいのに、普通にダンジョン内部をうろちょろしている。

 それに加えて、普通のヒュドラよりも耐久性も攻撃力も強い。


「ここの持ち主が、それだけ強かったってことかしら……」

「どういうことだ?」


 誰に言うでもなく呟いた私の言葉を、エリクが耳ざとく拾った。


「………………」


 正しい答えを言うべきか否か、一瞬逡巡(しゅんじゅん)する。

 ダンジョンがもともと魔族――それも爵位持ちの上位魔族の住処すみかだったという話は、おそらく私以外は知らない。


 私だって、たまたま知る機会があって知っただけだ。


 本来、公表すべき話なのかもしれないが、そうすると『私がなぜその事実を知ったのか』という話までしなければならなくなるのでややこしくなる。

 そう思って、これまでずっと口をつぐんできたのだが。


 その場にいた人間の視線を集める中、真実を口にするか否かを私が迷っていた、その時。


 ――ザザッ。


『こちら第3班。地下15階に到達。このダンジョンのボスと思しき目標を発見したのですが――』


 ギルド職員が手にしていた通信具から、別働隊で動いていたパーティーからの報告が届いた。


『――人間? いや……』

『高位魔族……!?』


 通信具を持っているであろう人物の後ろから、誰かが悲鳴のような声で対象を視認したのが聞こえた。


『援護! 防御結界と目眩し!』

『はい!』


 騒然とした空気が、通信具を通しても伝わってくる。


「――私たちも現地に向かうわよ!」


 そう言って私が、通信具を中心に向こうからの状況に聞き入っている面々を見回す。


「地下15階ってことはこのフロアのすぐ下だわ。加勢しに行くわよ」

「あ、ああ」


 私の言葉に、シリウスがハッと我に帰った様子になって返事をする。


「下のフロアに降りる階段はわかる?」

「……はい、大体の目星はつきます」


 斥候士に尋ねると、マッピングしたダンジョンの地図を確認しながらそう答えが返ってくる。


「よし、じゃあ行くぞ」


 シリウスが口火を切って足速に歩き始めると、私たちもその後を追って歩き出す。


『なんだ……!? あれ……!?』

『前衛がやられた!』

『あんなの……、バケモノだろ……!』


 そうこうしている間にも、通信具の向こう側から伝わる壮絶な状況。

 通信先のパーティー編成をちゃんと覚えていないが、本当に上位魔族が現れたなら正直Sランクでも相当に厳しい。

 爵位持ちの魔族と対等に渡り合える人間など、おそらく百年に一人いるかいないか。


 だけどなんで――?


 確かにダンジョンというものは、爵位持ち魔族が死んだ後に、人目に触れるようになる元根城ではある。


 ただし、魔族というのは基本的に階位が上がるほどに非情になり、仲間が死んだところで気にしたりはしない。

 だからこれまでも、出現したダンジョンを人間が荒らしても特に何事もなくきたのだ。


 ――なのに、今回のダンジョンは特別ってこと?


 わざわざ、他の爵位持ちの死を気にしてダンジョンに現れる?

 そんなことあるんだろうか。


 私が、そんな考えを巡らせながらダンジョン内を足速に進んでいると。


『第3班、半数が行動不能……!』

『第1班、もうすぐ15階に到達する!』


 通信具から聞こえてくる報告に、急いで目的地に向かっていた全員が戦慄した。


 ――この短時間で、半数が行動不能?


 まずい。

 今回の調査隊の編成は、この国のギルドの頂点に君臨する腕利きばかりを揃えたと言っていたのに。

 それが、ほんの数分で半数が行動不能?


『ぐあぁっ……!!』

『おい! 無事か3班! ……ぐっ、なんだこれは……!?』


 どうやら15階に到着したらしい1班が、状況を見て唖然とした声を出したのが聞こえてくる。


「……シリウス、高位魔族と戦った経験は?」

「亜人体の魔族なら……。さすがに完全に人型を取れるような魔族とはお目見えしたことはない」


 私の質問に、前を急ぐシリウスが苦しげに答える。

 ――まあそうでしょうね。

 爵位持ちが人型をとれるのは当然だが、爵位持ちの直属の配下くらいまでなら完全に人の姿をとることができると聞いたことがある。


 人間がその姿を見たことがないのは――、その姿を見たもので、生きているものがほとんどいないからだろう。


「見えました! 15階への階段です!」


 先頭を歩く斥候士が、後続の私たちに向けて叫ぶ。


「このまま突っ切って階段を降りる! 各々、戦闘準備は降りながら整えろ!」


 斥候士に続いて、シリウスが指示を飛ばす。

 これまでの階段よりもひときわ幅のあるそれは、まさにこの先につながる部屋がラスボスの部屋に至るのを示唆しているようにも思えた。


 そうして、階段を降り切った先に見える開かれたドアから、派手な爆発音と強烈な光が溢れ出す。


「な――」

「ぐあっ……!」


 それから、一拍遅れて吹き飛ばされてくる――人。

 もう一息早く着いていたら、私たちも巻き込まれていたかもしれない。


「おい……! 大丈夫か!」


 そう言いながらシリウスが吹き飛ばされてきた人に駆け寄ろうとすると。


「危ない!」


 シリウスに向けて放たれた魔術に似た攻撃を、咄嗟に展開した私の防御結界で弾く。

 そして、全員がその攻撃の発信源に視線を向ける。


 ――うっすらと立ち込めた土埃が少しずつはれ、その合間から見えてきた姿。


 人間にすると、十代後半の、少年から青年に差し掛かろうとしている子供。

 それは、私がかつて、前世で見たことのある人物の姿と一致していた。


 ――魔王、ジエンド。


 魔族の中でも頂点に君臨する存在。

 魔族の王が――。


 私たちの目の前に、立ちはだかっていた。

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