第24話 ファナ、リーゼントを舎弟にする
とりあえず、『次の冒険者コンは開催する』ということが会議で確定となり。
後は、場所をどこでやるか選定しようとしている時に、その話が入ってきた。
「――新しいダンジョン?」
「はい」
冒険者ギルドの職員の報告に、エリクが聞き返す。
今日は、ギルド長をはじめとするギルドメンバーに王宮まで来てもらって、王宮の会議室を使って会議を開催してしていた。
なぜかというと、冒険者コンの出資希望者たちが前回のコーネリアスの騒動を聞いて、俺も俺もとコーネリアスの行動をまねてギルドに押しかけてくるようになったからだ。
「その新しいダンジョンは西側の国境近くで見つかったのですが、入り口に警備を置いているだけでダンジョンの封印はまだできていません」
冒険者ギルドの職員が、報告書を手に淡々と説明を続ける。
報告によると、それまでそこはただの崖下でしかなく、数日前まではダンジョンの入り口も存在していなかったらしい。
それを、近くで森林作業をしていた最寄りの村の村民が発見し、報告してきたのだそうだ。
――新しいダンジョンかあ……。
ということは、高位魔族が何らかの理由で死滅したということだ。
前にも説明した通り、ダンジョンというのは元々高位魔族の住処で、その持ち主が死滅することでダンジョンを隠蔽していた術が解け、人の目に晒されるようになるものなのだ。
ダンジョン内の魔物の強さは、元の持ち主の強さと比例する。
何故かはわからないがそういうものらしい。
「新しいダンジョンを、冒険者コンの会場にする――」
「のは、さすがに無茶よ。難易度も何もわからない場所をイベントで使うのは危なすぎる」
「だよなあ……」
エリクの物騒な案にすかさず意見を述べると、さすがに自分でも無茶だとわかっていたのかエリクもあっさりと退いた。
「――エリク殿。とりあえず、冒険者コンの開催よりもこちらの調査と封印を先にした方がいいでしょうな。放置するわけにもいきませんし」
「ああ。というわけで、お前に調査隊に入って先遣隊で行って欲しいんだが」
「……え、私?」
ギルド長の提案にエリクが同意すると、なぜだかそのままお鉢が私に回ってきた。
「ファナ殿。お恥ずかしい話なのですが、今のギルドにはダンジョンの封印をできると確約できるものがいないのです」
「同じく、宮廷魔術師にもいない。なにせダンジョンの出現自体がざっと二百年ぶりになるからな」
過去の文献をあさって封印方法を確認してから――となると出遅れてしまう。
そこで、私が適任なのではという話が出たというわけだ。
「できるだろ。お前なら。ダンジョンの封印くらい」
「いやまあ、できるけど……」
いいけどさあ……、別に。
なんとなく、このまま厄介ごと担当みたいな役回りにされそうなのがちょっと釈然としないだけで。
「もちろんタダでとは言わない。見返りとして、ダンジョンの中で見つけたもので欲しいものがあれば優遇してもらえるよう取り計らおう」
「あ、やります。全然やる」
……あ。
考えるよりも先に、答えが口をついて出ていた。
まあいいか。
どうせやるにはやることになるんだろうし。
それに――、このダンジョンが、いったい誰のダンジョンなのかも気になるし。
こうして私は、ダンジョン封印係兼、調査の先遣隊に任命されたのだった。
☆ ☆ ☆
――しかし。
『悪い。本当は俺も一緒に先遣隊と出発する予定だったんだが、どうしても外せない用事が入って』
そう言って、エリクが私に謝ってきて。
『代わりに、宮廷魔術師から一人サポートをつけるから。用事が終わり次第俺もすぐに追いかけるし、まあファナなら大丈夫だろ』
そう言われ、宮廷魔術師からつけられたサポート役というのが。
かつて、最初に私に絡んできたアラサー黒髪オールバックのあいつだった。
「……どうも」
「チェンジ!」
黒髪オールバックの挨拶とともにすかさずそう叫んだものの。
「ばっ……! 何がチェンジだ! 街の娼館じゃねーんだぞ!」
「まあまあアランくん。これが師匠のいつものギャグですから」
「ちょっとメル。やめてよその言い方。まるで私がいつもすべるギャグを言うキャラみたいじゃない」
「あれ?」
アランくん、と呼ばれた黒髪オールバックを連れてきたメルトが、私の指摘にきょとんと小首をかしげる。
「ほらほらアランくん。自己紹介自己紹介」
「くっ……」
メルがそう言いながら黒髪オールバックの肩を持って促すと、何か苦渋に満ちたような顔でうめき声を上げた彼が、意を決したように私に改まって挨拶をしてきた。
「……あらためて、挨拶させてもらおう。宮廷魔術師のアラン・リーゼントだ」
…………!
なんと……!
言われて初めて気付いた事実に驚愕する。
この人、オールバックじゃなくリーゼントだったのか……!
「よろしく、リーゼント……!」
「え、あ、ああ……」
新たな発見に感動しながら私がリーゼントに手を差し出すと、私が素直に挨拶してきたことに驚いたのか、リーゼントが面食らったような顔になりながら握手を握り返してくる。
……確かに!
初見からオールバックだと思っていたけど、言われてみると額の上の髪の毛がこんもりと膨らんでいるように見えた。
――覚えた。
君の名前はこれから黒髪リーゼントだ……!
「アランくんは師匠にこてんぱんにされてから、ずっと師匠に憧れてたんですよね?」
「ちょ……、魔術顧問……!」
メルトがにこにことリーゼントの隣でそう告げると、なぜかリーゼントがどぎまぎと顔を赤らめる。
それから、私の方を気にしたようにチラリと見やると、「ごほん!」と気を取り直すように咳をして、改まった様子で向き直る。
「……た、確かに、魔術の速度もコントロールも超一流で、魔術師として申し分はないことは認める。だ、だからその、なんだ……」
「今回のサポート役として、精一杯頑張ります、ってことですよね?」
「あ、ああ……。はい……」
……なんだこれ。
これが、大衆小説でたまに見かける、ツンデレってやつなのかな?
「師匠。アランくんはこう見えて、割と気の利くいい子ですから。ぜひ遠慮なく舎弟として使ってあげてくださいね」
そう言ってにこにこと私に向かって告げてくるメルトと。
そんなメルトに両肩を掴まれながら、ツンデレ化しているリーゼント。
うん。
まあ、とりあえず。
張り切って行ってみようか……。
どこか遠い気持ちになりながら、そう思うしかない私なのであった。




