第23話 ファナ、「付き合ってるんですか?」と聞かれる
それにしてもなあ……。
コーネリアスのやつ、なんで今更また話があるとか言い出したんだろ。
あの自分勝手で傲岸不遜なコーネリアスが『この間のことは悪かった』とまで言い出したのだ。
これは……、バーケンレーグ家の方で一悶着あったかなあ。
「ししょー、ししょーったらー」
そんなことを思いながら私が王宮内に与えられた研究室で魔術書の解読を進めていたら、メルトが私の隣に立って呼びかけてきていた。
「ししょおー」
「メル」
「ししょお、忘れてるでしょお?」
今日、僕の魔道具見てくれるって約束だったじゃないですか、と言うメルト。
「あれ?」
確かに、言われてから時計を見ると、メルトと約束していた時間をとっくに過ぎていた。
――そうだった。
今日はメルトの魔道具をメンテナンスしてやるからと、部屋を訪ねる約束をしていたのだった。
「ごめん、メル」
「まあいいですけどお。師匠が集中すると忘れやすくなるのは知ってますし」
そうは言いながらも、ふん、と唇を尖らせながら拗ねる様子を見せるメル。
……この子、実年齢だととっくに二百歳超えてるはずなんだけど。
エルフなので見た目二十代半ばの青年が、目の前で拗ねた顔をして見せる。
人前だとしゃんとして見せるのに、私の前だと急に子供がえりするのよね。
確かに、この子の身長が私の腰くらいだった時から知ってるから、図体はデカくなっても気持ちは変わらないのかもしれないけど。
「ごめんって。ちゃんと見てあげるから。ほら出して」
そう言って、メルトに魔道具を出すように手のひらを差し出すと、ぱあっと嬉しそうになったメルトがうきうきと杖型の魔道具を私の手の上に置いた。
魔道具というのは奥深い物で、単に道具に術式を刻印すればいいという物でもない。
術式によって相性の良い素材とそうでない素材があるし、素材によっては定期的にメンテナンスが必要になってくるものもある。
例えば、雷撃系の魔術はメタル系の素材と相性がいいし、風や炎系統の魔術は木材の方が相性がいい。
でも木材は傷つきやすいから術式の刻印部分に余計な傷がついた場合はヤスリをかけて掘り直さなければいけないし、それでも修復できない場合は新しいものに変える必要がある。
そういった諸々を加味して、魔道具を判断するのだ。
「――うん。木材の杖に石材を嵌め込んだのはいいんじゃない?」
「……本当ですか!?」
「ええ。こっちの木材の方が竜嵐で、石材の方が岩壁でしょ?」
「そうです」
「木材と石材なら異素材の組み合わせでも反発しにくいし。よくできてると思う」
「ありがとうございます……!」
「これ、木材の方に水系の術式も入れたら、人工雨降らせられるんじゃない?」
「…………! 確かにそうですね!」
どこの国も、天候と作物の問題は重要事項だ。
人為的に水魔法で作物に水をやれる魔術は重宝される。
風系の魔法で水を散らして水やりして、強い日差しに弱い植物には石壁で日除けできるようにする魔道具を作れば、農村に売れるんじゃないだろうか。
まあその農村に、一度にそれだけの魔術を使える人材がいるかは難しいだろうけど。
「さすが……! やっぱり僕の師匠、天才……!」
メルトがそう言って、きらきらした眼差しで私の方を見てくる。
……うん。
まあなんだ。
可愛い弟子だよね。
こうやって純粋に慕ってくれてさ。
だいぶ久しぶりに再会したわけだけれども、こうして変わらずに慕ってくれるというのは嬉しいものなんだなあとじんわり噛み締めていると。
「――お、なんだ取り込み中か?」
ここ一ヶ月の間ですっかりお馴染みとなった相方、エリクが尋ねてきた。
「エリク。どしたの?」
「いや別に。暇になったからきた」
そう言ってすたすたと室内に入ってくるエリク。
この人、王宮内で私が嫌な目にあってないか確認してくれてるのか知らないけど、こうやって時間を見つけてはちょいちょい顔出してくれるんだよね。
義理堅いというか……。
「……あの」
「ん?」
何してるんだとヒョイっと私の肩越しに机を覗き込んでくるエリクに、メルトが遠慮がちに声をかける。
「こういうことを聞くのは不躾だってわかっているんですけど」
「なんだ。言ってみろ」
「……殿下と師匠はその、お付き合いをされているんでしょうか」
………………。
ん?
「付き合うとはどういう意味だ?」
「だからその、男女の……」
「そういうのは別にないわね」
「だな」
私の返事に同意するように、エリクも言葉を連ねてくる。
「ええ……?」
「メル、あなたね。そうやってすぐになんでも色恋につなげようとするところは、俗世に染まりすぎよ。私とエリクは単なる冒険者仲間なんだから」
「そうだぞ魔術顧問。俺とファナを、そんなほれた腫れたみたいな安い関係で例えられても困る」
「はあ……」
そもそも、なにより魔術が第一な私は恋愛願望も結婚願望もあまりない。
実家にいた時には「貴族の勤めとして結婚しなきゃいけないかなー」とは思っていたけど、追い出された後はめっきりそんな気持ちもなくなった。
それに――。
「それにねメル。この人、これで王族なんだから。ちゃんとわかってるわよ自分で。自分がどういう女性と付き合うべきか」
私と一緒にいるのは、冒険者仲間として相性もいいし気も合うし、お互いにWIN-WINだからだ。
私だってそれをよくわかっているし、エリクの立場や身分を利用してどうたらなんて気持ちはさらさらない。
「確かに私も、今はエリクの好意に甘えてこうして世話になっているけど。エリクがゆくゆく婚約者を決めて結婚するってなった時にはちゃんと弁えるから」
さすがにその頃にはエリクも冒険者なんてやってられないだろうし、私にもそれなりに独立資金も溜まっているだろう。
そうしたら、エリクの吉事を祝福しつつ、大人しく王宮から去ろう。
そう思いながら「ね、エリク!」と、安心させるようにエリクの肩をポンと叩いたのだが。
「まあ……、そう……、だな」
見ると、何故かエリクが微妙な顔をしていた。
…………ん?
あれ?
一応それなりに気を使って言葉を選んで喋ったつもりだったけど、私、なんか失礼なこと言ったかな?
でもまあそうか。
私は今や貴族のしがらみから解放された超自由な身の上だけど、エリクはそうじゃないもんね……。
好き勝手に生きられる私とは違って、やりたいことを自由にやれない身の上のエリクにとっては、ちょっとデリカシーがなさすぎる発言だったかもな……。
そんな反省をしつつ、フォローを入れるべくエリクに、
「でもまあほら、私、恩義には厚い方だから! 何か困ったこととか頼みたいことがあればいつでも相談に乗るからね! なんといっても仲間なんだし」
そう言いながら、エリクの肩を再びぽふぽふと叩いた。
メルトが、
「なんか……、すみません……」
と師匠の私に代わって詫びを入れていたが、エリクはそれに対して苦笑いで返していた。
いやだから『ごめん』って言ったじゃんか!
――あ、言ってないか。




