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第21話 ファナ、コーネリアスのやらかしを目の当たりにする





「なんだお前は? パートナーだと?」

「ああ」


 コーネリアスの問いに、エリクが泰然たいぜんと答える。


 あれ……?

 なんでこんなことになった……?


「おまえあれだろ? ファナの婚約者だったのに、妹に浮気心を起こしたからファナとの婚約を破棄して、挙句の果てに家から追い出した男だろ?」

「なっ……」

「そんな男と大事な相方をふたりきりにするのは見過ごせないよなあ」


 エリクがそう言うと、それを聞いていた周囲の人々もざわざわと囁きを漏らす。


「お……、お前のような冒険者にはわからぬ貴族のしがらみがあるのだ! 冒険者風情が俺に知ったような口をきくでない!」


 ――あ。


 あっちゃああああああああ…………。


 すごいわ、コーネリアス。

 こんなに綺麗に地雷を踏み抜く人、前世と今世を含めて初めて見たかもしれない。


 いや、あんたがいま啖呵を切ってる相手。

 この国の王子だから……!

 貴族どころか全階級のヒエラルキーのほぼ頂点だから!


 そんなことを思いながら、ふと隣に立つエリクがどんな反応をしているのだろうと見上げると、ものすごーくいきいきとした楽しそうな顔をしていた。


 …………うわっ、楽しそお…………!


「いやー、そうかぁー。俺みたいな冒険者風情が知ったような口を聞いたら、やはりまずいかあ」

「……ああ。見るところ、ギルド長と一緒にいるということはそれなりの冒険者なのだろうが、冒険者と貴族では立ち居振る舞いも習わしも違うのだ。これを機に、相手を見てものを言うことを覚えることだな」


 ……ああああああああああ。

 それを言うならこっちのほうだわ!

 お前こそ相手を見てものを言うってことを覚えろ!!


 というツッコミを、今この場にいる、エリクの正体を知っている人物全員が間違いなく思っているだろうな……。


 まあ確かにエリクもエリクで、冒険者ギルドに行くからって理由で正体がバレないように冒険者の格好をしているわけだけれども。


 それにしたって、コーネリアスさあ。

 冒険者が全員平民だって思い込みは頭がゆるすぎでは……?


「なるほど承知した。俺は俺で立ち居振る舞いを改めるとして。でも果たして――子爵令息である貴殿が、爵位が上の伯爵令嬢である俺の相方(ファナ)に命令するのは、貴族の振る舞いとして正しいのですかね?」

「それは……」

「そのあたり、どうなんですかギルド長?」


 エリクの指摘にコーネリアスが言葉を詰まらせると、畳み掛けるようにエリクがギルド長に話を振った。


「まあ……、普通に考えて褒められたものではないでしょうな……」

「だとさ」

「ぐっ……!」


 ニヤリと笑ったエリクにそう言われて、コーネリアスが悔しげに顔を赤らめる。


 ……だめだこりゃ。

 

 ギャラリーも増えてきたし、一旦ここらが引き時でしょ。

 それは、私たちが、じゃなくてコーネリアスがだけど。

 そう思って、これまで当事者なのに完全沈黙で傍観者を決め込んでいた私がおもむろに口を開けた。


「……コーネリアス。とりあえずいったんここは場を改めた方がいいんじゃない?」


 話なら、また別の機会にも聞けるし――と言うと、コーネリアスは悔しそうに歯軋りをしてみせた後『きっ!』と顔をあげて、エリクに向かってにらみ据えた。


「……貴様、名はなんと言う」

「……エリクだ」

「エリク。覚えていろよ。今日のこと、必ず後悔させてやるからな……!」


 そう言ってコーネリアスは、ばっと身をひるがし、私たちに背を向けて冒険者ギルドの玄関から出て行った。


 …………嘘でしょ。

 いまどき、あんなコッテコテの捨て台詞ぜりふを吐くやつがいるんだ……!


 コーネリアスの去った方向を見ながら、私がそんな思いにふけていると。


「……いやあー、面白いやつだったなー」


 と隣でエリクが呟く。


「……申し訳ありません。こちらの管理不行き届きゆえに、エリク殿に不快な思いをさせてしまい……」

「それを言うならこっちだわ。元婚約者が迷惑をかけて本当にごめん……」


 ギルド長がエリクに頭を下げたのに被せて、私もエリクに謝罪する。

 それからギルド長にも迷惑をかけて申し訳ないと告げると、けろりとした様子のエリクが、


「いやでも本当に、この場でああいうやつと対面できてよかったぞ。まだまだ世の中には俺の会ったことのない性根の腐った貴族が隠れているんだなって思うと、これからの俺の仕事もやりがいがあるよなあ」


 と実に爽やかな笑顔で言った。


 ………………。

 ……大物だわ。

 この人、大物だわ…………。


 見ると、周囲の人間たちも多かれ少なかれエリクに対して好意的な眼差しを向けて見ているのが見えた。


 エリクとはそういう男なのだ。

 冒険者コンから、かれこれ一ヶ月ほど彼のことを近くで見てきたが。

 求心力が強く、明るく、人としての魅力に溢れている。


 だから、王宮の内外で多くの人々から慕われているのだ。


 ……いや、すごいな……。

 単純に、純粋に感心した。


「よし。とりあえず今日の目的は果たしたし、帰るかファナ」

「あ、うん」


 エリクに声をかけられ、咄嗟とっさに返事をする。


 ()()()()()


 本来は、王宮にギルド長たちを呼んで打ち合わせをしてもよかったものを、わざわざギルドまで出向いてきた理由。


 もしかしたらそれが、コーネリアスが今日みたいにギルドに顔を出していることを知ってのことだったら――?


 そこまで想像を巡らせて、隣を平然と歩くエリクを盗み見る。

 相変わらず爽やかな表情を浮かべたその顔からは、内情は全く読み取れない。


 ――ただの爽やか好青年だと思っていたけど。

 もしかすると、私が思っている以上に底知れないのかもしれない。


 そんなことを思いながら。

 私たちは王宮に向かって帰路に着いたのだった。



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