最終回⒌【パパに見せたかったな?】 side あっちこっち
***************[side ミルゼス大将 パパのお茶飲み先輩]
軍人として勤め上げる事を目前に、
それなりの満足と充実感を持って、
私はその時を静かに迎えるつもりでいた。
ところが私は、
あれよあれよと今は帝国の“大将”を名乗るまでになってしまっている。
彼、サリュー·ターランと既知を得てから、
人生の風景が急転換で変わっていった。
私は、いつしか彼·サリュー·ターランに、
おこがましくも親というよりは、
親戚のじいさんのような見守りをしてきていた。
静かに定年を迎えて、妻と田舎にでも戻り畑を耕すつもりでいた矢先に。
思ってもいない人生最後の仕事を与えられて。
始めはずいぶんと驚き、当惑していた。
子供を育てた事のない私たち夫婦に、彼はこのように言っていた。
『あなただからお願いしたいのです。
ミルゼス閣下。ミルゼス婦人。
自分の拙い経験で、
《子供はたいがい勝手に育つ》ように思います。
人って、産まれたままの何かを背負って、
自分で自分を育てて行くのではないのでしょうか。
特に、個性の強い人間は。』
『皇帝陛下のお子様方が、
個性のない産まれつきとは思えませんし。
ましてや、そんなに扱い易い帝王は、困りますし。
ああ、心配をなさらないで下さい。
殿下方は、
メルキオーア陛下よりもずっと……手を焼く性質ではありませんから。』
『育てようと思われるのではなく、
ただ殿下方が“お尋ね”になられた事を、……そうだなあ?
親戚のおじさん、おばさんのように思うところを、
身近な大人として答えていただけたら。
きっと殿下方の手助けになるはずですから。』
『奥方様が、編み物をなさる傍らで、
知っている庭の小鳥の名前をお話下さるだけでも。
子供の時に経験なさった思い出話をして下さるだけでも。』
『長年、ミルゼス閣下に自分が助言をいただいて参りました。
閣下ご夫妻が、《人間としての均衡と調和》をお持ちであることは、
はばかりながら俺の“眼力”を信じて下さいね。
閣下御自身の前で言うのもおかしいのですけれど。』
『うっかり‘親’の立場になると、
人間って思い入れやら執念ができてしまって。
かえって子供を持たない人間よりも、
‘魂’が真っ黒になる事を多く目にします。
僧侶のようにとは申しませんが、
子供など持たない方が、
人間は‘魂’が綺麗でいるようにも思います。』
『正直言いまして、
ミルゼス閣下にお子様がいらっしゃらないのは、
後付けですが…
ありがたい事もあるかもとは思いましたけれど。』
『他所の国の宮殿やら、昔の歴史でよくある揉め事の。
自分の血縁を帝国の中心に送ろうと、ぐちゃぐちゃの争いに、
ミルゼス閣下ご夫妻が巻き込まれるような、
そんな面倒臭い思いをお掛けしなくてもよさそうですし。』
どうしても手に余る時には、退かせて貰える約束で、
老妻と殿下方のお住まいの“春宮”の一画に住まいを移した。
その後、皇帝陛下の公式発令により、
次代の皇帝陛下にこの帝国初めての女帝として、
《ローズマリー皇女様》の立太子が決まった。
その時になって、私の老妻は改めて顔色を無くしていたのだが。
妻にとっては、賢く美しいローズマリー皇女様は、
皇帝陛下の跡継ぎから遠いと思う気安さで。
すっかり、自慢の“孫”と語らうような関係が出来上がっており。
この先どうしたものかと、混乱をしたようであった。
あまりの事の重大さに妻が、
お側から退かせていただくように申し上げたところ。
ローズマリー皇女様に涙ぐまれてしまったそうで。
『皇帝陛下のご発令から、急に皆が私を“立太子”として、
うやうやしく扱うようになってしまった。
私をただの《ローズマリー》として話をしてくれる人間は、
あなたとフレイアだけであるのに。
フレイアは、私の寂しく思う気持ちにお構いも無く、
遠くの大学に行く算段に忙しいらしい。
あなたまで、私の元を去ってしまったら、
私はいつ仮面を脱いで“ローズマリー”になったら良いのか?』
そう仰られてしまっては、この老夫婦に後戻りは出来ない。
この身でお役に立つ限り、お側で殿下方をお支えしようと決意を固くした。
まさか、その後で自分たちよりもずっと若い、
《サリュー·ターラン司令》を見送る不幸に見舞われるとは。
せめては、彼が見るべきであった帝国のその後を。
私のこの目に焼き付けて、
近い将来に向こうで、彼に詳しく話をできるように努める事としよう。
目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?
今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。
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