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【パパは‘愛人’ではないつもりらしい?】 side ソロ·マケル宰相

 陛下に申し上げた。


 この件に関しては、本人抜きでの《告示発布》は、悪手であると。


 娘ミラージェンとの“結婚発表”と同様に、

 帝国宰相の就任を本人抜きでいきなり《新聞発表》では、

 あまりに乱暴であるだろう。


 陛下が、いくらあの男を“からかわれる”事がお好きであろうと、

 御在所の奥でのお(たわむ)れと、国事を一緒になさるなど言語道断。


 流石(さすが)に見逃す事はできぬ。


 陛下とあの男が、この先も長い付き合いとなるのであれば、

 面倒は承知でも本人と対決をし、納得をさせるしかない。


 あの、“サリュー·ターラン”という男は、1度“へそ”を曲げると、すこぶる厄介な事になるので。


 ある部分は、陛下とあの男は『似た者同士』であるのかもしれない。


 陛下とあの男がこの件で(こじ)れるのは、時間が惜しい。


 私の、“残りの時間”が悠長に事を運ぶのは許さない。


 先に切り崩しを図る為に、あの男を呼びつけてある。


 自宅の執務室を出て、風通しの良いところで話をするとしよう。


 外に漏らす話ではないが、この屋敷の中であれば案ずることはない。


 ***************


 サリュー·ターランを我が家の茶席に座らせて、じっくりと話を聞かせてみよう。


 今日は邪魔にならぬようにと、娘と子供たちはここに近寄らぬように伝えてある。



「分かった。

 ならば、お前は他の者を連れてくれば良い。

 この帝国で、陛下の横に立ち公務をこなし。

 メルキオーア陛下のご機嫌を損う事のない者をここに連れてこい。」


「。。。」


「私には、思い当たらん。

 お前には、思い当たるのであれば何より。

 手のひらに乗せて差し出してみよ。」


「。。。」


「私亡き後、

 陛下に補佐役の《宰相》を不在のままに、

 玉座で全ての雑事までの任を‘陛下に’負わせよと!

 そう、お前は申すのか?」



「マケル宰相閣下、自分は『やりたくはない』のではなく、

『やる能力がない!』と申し上げております。

 人間は誰でも、出来る事と、出来ない事がございます。」


「では、仕事を選別してみるがいい。

 宰相職の職分で、お前の手に余る部分を、

 ここに、書き連ねて見せよ!『ほれほれ』ここに。」


 紙とペンを突きつけてやった。


 この男に、腹黒い芸当を上手く使っての政治手腕など、

 初めから期待などしてはおらん。


 この先はその部分は、誰か“影となって”働くものを付け、

 補うようにさせれば良かろう。


 かといってこの男は、外交交渉で手玉にとられてくるではなく、

 逆に妙にひと好きのする様子で、相手を懐に入れてしまい、

 話を(まと)めてくるところがある。


 そこは、私には真似はできぬ。



「宰相閣下は、特に歴史上の為政者に造詣が深い事と拝察いたします。」


「それが?」


「過去の歴史において、為政者とその……

 別の領域での関係を深くしている相手を、

 宰相職に付かせる事が、多くございました。


 その絶対的な為政者が王であっても女王であっても。


 結果、必ず国が傾いておりました。

 大学の教養科目でも学びました記憶がございます。」


「ですので……、自分は……。。。」


「くだらんな!『(にわとり)と卵』の論法を争う暇など無いわ。

 子供でもあるまいし。」


「鶏と卵?」


「お前は、陛下の‘愛人’であったから帝国で要職についてきたのか?

 それとも、帝国で要職にあった者が陛下の‘愛人’になったと言うのか?

 そのような事はどうでもよい。」


「お前は、未来の歴史家の評価を気にするあまりに、

 今自分が生きる時代の『陛下の御為』よりも、

 《自分の‘愛人’としての名誉》を優先すると言うのか?

 随分と勝手な言い(ぐさ)であるな。」


「お待ち下さい。宰相閣下。

 自分は、……。

『陛下の‘愛人’』であったつもりなどはありません。」


「今更、何の戯言(たわごと)を。

 ここまで、陛下に強く望まれた挙げ句、

 何を言っておるのやら。


 お前は、少し知恵の足りない頭でも持っておったのか?

 ‘愛人’でなければ、貴様(きさま)は陛下の何であると言うのか。

 教えて貰いたいものだ。」


「自分は、陛下の忠実な臣下であります。」


「別に、忠誠心を疑っておるわけではない。」


「ただ、そのぅ。

 一般的職分以外に、陛下のその……『お相手?を努める』という、

 追加業務が加わったというのか。

 そのように、考えておりますのですが……。」


 いったい何を申しておるのやら。


 陛下にこれほどの執着をされて、まだ逃げ腰とは。


 呆れてものも言えぬ。



「マケル宰相閣下には、

 以前にも増して‘弁舌’も冴え渡っていらっしいまして。

 病状のご本復(ほんぷく)を心よりお祝い申し上げます。」


「そんなに簡単にあなたは‘死ねません’!

 全然お元気じゃないですか。

 何を気弱な。


『皇家三代の栄光は、我と共に』とか言いながら、

 次代の陛下の横にお立ちになっておられても、

 少しも不思議ではありませんでしょうに。


 たまに、ご病気になられて、

 人間のふりでもなさいましたか?

 《妖怪マケル宰相閣下》!」



 この阿呆(あほう)は、本当に腹に据えかねる!


 少し、脅してやろうか?


「お前が使い物にならぬのなら、

 息子を使い物になるように仕込んでやろうか、

 ゆっくりと?


 存外、お前の息子の方が、

 要らぬ理屈に振り回されずに頭が柔らかいのではないのか。

 頭の回転も、父親に(たが)わず良さそうであるし。


 父親よりも《清濁(せいだく)(あわ)せ呑む》だけの、

 ‘大人’の対応もすぐに覚えるのではないかのう?」



 相変わらず、腹芸もできずに顔色を変えよって。


 あんまり、(あお)ってみても、逆効果であろう。

 今日は、この辺にしておくか。


「少し、じっくりと『何が陛下にとっての御為』になるのかを。

 それを‘何よりの大事’として考えてみるが良い。」


 *************



 要は《名称》であろうかのう?


 あの男の、‘父親と母親’の背景によるのであろうか?


 無用の‘潔癖さ’に、勝手に(から)めとられておるような。


 他の事は、それに左右をされてはおらぬのに。


 帝国での仕事をみる限り、あの男は軍人としての有り様も、

 上に立つものの有り様も、今までは全てを熟知して仕事を成している。


 ‘陛下’との関係に絡むと、急に《青臭い聖職者》のような言い(ぐさ)を始める。


『陛下の愛人』とわざとらしく口にしてやると、途端におろおろしてみせる。


 ならば名称を変えて呼ぶのなら、

 少しは動かし易くなるのであろうか?


 “宰相職”の呼び名を他の名称に名付け、

 同じように“宰相職”の仕事をせよと申せば、

 やると言うのだろうか?


 しかし、“愛人”呼びが受け入れられぬと言おうと、

 ‘愛人’は‘愛人’であろうが。


 ‘(きさき)’と呼ぶよりはましであろうに。


 何と定義をつければ良いというのだろうか。


 陛下の‘寵妃’であるとすれば、ずいぶんと『聞き分けのない』“寵妃”であったものよ。


 異性の‘妃’であったのなら、外に子供を作る‘妃’も、なかろう。


 命まで作り治され、それでも従順とはならぬなど、

 よほどの“悪妃”ではないのか。


 どう呼ぼうと、

 《サリュー·ターラン》が陛下の御執着が著しい‘愛人’、

 であるのは間違いはない。


 『‘宰相職’は嫌だと』駄々をこねても、

 私が倒れた時には、その執務采配を出来ておるではないか。


 子供騙しを当の‘子供’に使うのもしかたのない事。


 明日にでも、陛下に言上しよう。


 マケルの後を継ぐものは、サリュー·ターラン宰相ではなく、

 サリュー·ターラン[何とやら]という、

 新しい[名称役職]を作って与えれば。


 騙された子供は、黙って働くであろうと。


 そして、何よりの陛下のお望み通りに、

 あの男が生涯において、

 黙って『陛下の横に立つ』事になるであろうと。


 *********


 ターランを帰し、ひとり物思いに(ふけ)っていた。


 陛下の執着は、あの者が帝国を離れて10年以上の月日が経とうとも、

 薄れる事がなかった。


 メルキオーア皇帝陛下の唯一の執着と所望は、

 ‘あの男’サリュー·ターランだけであった。


 陛下の手から離れた時は、まだほんの子供ではあったが。


 あの高潔な陛下が、懇願なさるような御下命を出される事に驚き困惑した。


 『あの者、サリューを私の元へ取り戻せ。』

 と陛下はご命令された。


 陛下の願いを叶える為とはいえ、

 逃げた鳥を広い宇宙で捕まえる事は容易ではなかった。


 (から)め手で捕まえるにしても、情報の不足に難儀(なんぎ)をした。


 サリュー·ターランの所属傭兵部隊の元締めの男と‘(つな)ぎ’をとった時には、

 もう少しで、ターランが傭兵部隊との契約を切って自由になるところであった。


 その時に、元締めの男がサリュー·ターランを評した言葉が今更ながらにふに落ちる。


 《天賦の才を持ちながら、それを操るには‘非凡さ’が足りぬ》あまりにも、‘普通’であるのだと。


 それを、あの元締めは、『上等な酒を平凡なグラスに注いだ危なっかしさ』  と、表した。


 *******


 日が暮れて、娘ミラージェンが孫の手を引き戻って来ていた。


「司令はお帰りになったのですね。」


「ミラージェン、この先はあの男も益々この帝国での重責を担う事になるであろう。」


「はい。」



「あの男は、人並み外れた‘才を’持つが、どうにも危なっかしい。

 お前も、私の(かたわ)らで見聞きして覚えた事も多かろう。

 この先は、お前が支えてやるがよい。

 できるか?」


 ミラージェンは、何かを言いたそうにした言葉をのみ、

 一言のみ答えてきた。


「微力を尽くします。」


「それでよい。

 私も世間で言うような‘妖怪’ではなく、

 人間としての生を全うするものに過ぎぬ。

 遠からず、迎えもこよう。」


 いつか、あの男が言っておったように[この娘が男であったなら]と、

 (せん)無い事が胸をよぎる。

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