【パパは‘愛人’ではないつもりらしい?】 side ソロ·マケル宰相
陛下に申し上げた。
この件に関しては、本人抜きでの《告示発布》は、悪手であると。
娘ミラージェンとの“結婚発表”と同様に、
帝国宰相の就任を本人抜きでいきなり《新聞発表》では、
あまりに乱暴であるだろう。
陛下が、いくらあの男を“からかわれる”事がお好きであろうと、
御在所の奥でのお戯れと、国事を一緒になさるなど言語道断。
流石に見逃す事はできぬ。
陛下とあの男が、この先も長い付き合いとなるのであれば、
面倒は承知でも本人と対決をし、納得をさせるしかない。
あの、“サリュー·ターラン”という男は、1度“へそ”を曲げると、すこぶる厄介な事になるので。
ある部分は、陛下とあの男は『似た者同士』であるのかもしれない。
陛下とあの男がこの件で拗れるのは、時間が惜しい。
私の、“残りの時間”が悠長に事を運ぶのは許さない。
先に切り崩しを図る為に、あの男を呼びつけてある。
自宅の執務室を出て、風通しの良いところで話をするとしよう。
外に漏らす話ではないが、この屋敷の中であれば案ずることはない。
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サリュー·ターランを我が家の茶席に座らせて、じっくりと話を聞かせてみよう。
今日は邪魔にならぬようにと、娘と子供たちはここに近寄らぬように伝えてある。
「分かった。
ならば、お前は他の者を連れてくれば良い。
この帝国で、陛下の横に立ち公務をこなし。
メルキオーア陛下のご機嫌を損う事のない者をここに連れてこい。」
「。。。」
「私には、思い当たらん。
お前には、思い当たるのであれば何より。
手のひらに乗せて差し出してみよ。」
「。。。」
「私亡き後、
陛下に補佐役の《宰相》を不在のままに、
玉座で全ての雑事までの任を‘陛下に’負わせよと!
そう、お前は申すのか?」
「マケル宰相閣下、自分は『やりたくはない』のではなく、
『やる能力がない!』と申し上げております。
人間は誰でも、出来る事と、出来ない事がございます。」
「では、仕事を選別してみるがいい。
宰相職の職分で、お前の手に余る部分を、
ここに、書き連ねて見せよ!『ほれほれ』ここに。」
紙とペンを突きつけてやった。
この男に、腹黒い芸当を上手く使っての政治手腕など、
初めから期待などしてはおらん。
この先はその部分は、誰か“影となって”働くものを付け、
補うようにさせれば良かろう。
かといってこの男は、外交交渉で手玉にとられてくるではなく、
逆に妙にひと好きのする様子で、相手を懐に入れてしまい、
話を纏めてくるところがある。
そこは、私には真似はできぬ。
「宰相閣下は、特に歴史上の為政者に造詣が深い事と拝察いたします。」
「それが?」
「過去の歴史において、為政者とその……
別の領域での関係を深くしている相手を、
宰相職に付かせる事が、多くございました。
その絶対的な為政者が王であっても女王であっても。
結果、必ず国が傾いておりました。
大学の教養科目でも学びました記憶がございます。」
「ですので……、自分は……。。。」
「くだらんな!『鶏と卵』の論法を争う暇など無いわ。
子供でもあるまいし。」
「鶏と卵?」
「お前は、陛下の‘愛人’であったから帝国で要職についてきたのか?
それとも、帝国で要職にあった者が陛下の‘愛人’になったと言うのか?
そのような事はどうでもよい。」
「お前は、未来の歴史家の評価を気にするあまりに、
今自分が生きる時代の『陛下の御為』よりも、
《自分の‘愛人’としての名誉》を優先すると言うのか?
随分と勝手な言い種であるな。」
「お待ち下さい。宰相閣下。
自分は、……。
『陛下の‘愛人’』であったつもりなどはありません。」
「今更、何の戯言を。
ここまで、陛下に強く望まれた挙げ句、
何を言っておるのやら。
お前は、少し知恵の足りない頭でも持っておったのか?
‘愛人’でなければ、貴様は陛下の何であると言うのか。
教えて貰いたいものだ。」
「自分は、陛下の忠実な臣下であります。」
「別に、忠誠心を疑っておるわけではない。」
「ただ、そのぅ。
一般的職分以外に、陛下のその……『お相手?を努める』という、
追加業務が加わったというのか。
そのように、考えておりますのですが……。」
いったい何を申しておるのやら。
陛下にこれほどの執着をされて、まだ逃げ腰とは。
呆れてものも言えぬ。
「マケル宰相閣下には、
以前にも増して‘弁舌’も冴え渡っていらっしいまして。
病状のご本復を心よりお祝い申し上げます。」
「そんなに簡単にあなたは‘死ねません’!
全然お元気じゃないですか。
何を気弱な。
『皇家三代の栄光は、我と共に』とか言いながら、
次代の陛下の横にお立ちになっておられても、
少しも不思議ではありませんでしょうに。
たまに、ご病気になられて、
人間のふりでもなさいましたか?
《妖怪マケル宰相閣下》!」
この阿呆は、本当に腹に据えかねる!
少し、脅してやろうか?
「お前が使い物にならぬのなら、
息子を使い物になるように仕込んでやろうか、
ゆっくりと?
存外、お前の息子の方が、
要らぬ理屈に振り回されずに頭が柔らかいのではないのか。
頭の回転も、父親に違わず良さそうであるし。
父親よりも《清濁併せ呑む》だけの、
‘大人’の対応もすぐに覚えるのではないかのう?」
相変わらず、腹芸もできずに顔色を変えよって。
あんまり、煽ってみても、逆効果であろう。
今日は、この辺にしておくか。
「少し、じっくりと『何が陛下にとっての御為』になるのかを。
それを‘何よりの大事’として考えてみるが良い。」
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要は《名称》であろうかのう?
あの男の、‘父親と母親’の背景によるのであろうか?
無用の‘潔癖さ’に、勝手に絡めとられておるような。
他の事は、それに左右をされてはおらぬのに。
帝国での仕事をみる限り、あの男は軍人としての有り様も、
上に立つものの有り様も、今までは全てを熟知して仕事を成している。
‘陛下’との関係に絡むと、急に《青臭い聖職者》のような言い種を始める。
『陛下の愛人』とわざとらしく口にしてやると、途端におろおろしてみせる。
ならば名称を変えて呼ぶのなら、
少しは動かし易くなるのであろうか?
“宰相職”の呼び名を他の名称に名付け、
同じように“宰相職”の仕事をせよと申せば、
やると言うのだろうか?
しかし、“愛人”呼びが受け入れられぬと言おうと、
‘愛人’は‘愛人’であろうが。
‘妃’と呼ぶよりはましであろうに。
何と定義をつければ良いというのだろうか。
陛下の‘寵妃’であるとすれば、ずいぶんと『聞き分けのない』“寵妃”であったものよ。
異性の‘妃’であったのなら、外に子供を作る‘妃’も、なかろう。
命まで作り治され、それでも従順とはならぬなど、
よほどの“悪妃”ではないのか。
どう呼ぼうと、
《サリュー·ターラン》が陛下の御執着が著しい‘愛人’、
であるのは間違いはない。
『‘宰相職’は嫌だと』駄々をこねても、
私が倒れた時には、その執務采配を出来ておるではないか。
子供騙しを当の‘子供’に使うのもしかたのない事。
明日にでも、陛下に言上しよう。
マケルの後を継ぐものは、サリュー·ターラン宰相ではなく、
サリュー·ターラン[何とやら]という、
新しい[名称役職]を作って与えれば。
騙された子供は、黙って働くであろうと。
そして、何よりの陛下のお望み通りに、
あの男が生涯において、
黙って『陛下の横に立つ』事になるであろうと。
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ターランを帰し、ひとり物思いに耽っていた。
陛下の執着は、あの者が帝国を離れて10年以上の月日が経とうとも、
薄れる事がなかった。
メルキオーア皇帝陛下の唯一の執着と所望は、
‘あの男’サリュー·ターランだけであった。
陛下の手から離れた時は、まだほんの子供ではあったが。
あの高潔な陛下が、懇願なさるような御下命を出される事に驚き困惑した。
『あの者、サリューを私の元へ取り戻せ。』
と陛下はご命令された。
陛下の願いを叶える為とはいえ、
逃げた鳥を広い宇宙で捕まえる事は容易ではなかった。
搦め手で捕まえるにしても、情報の不足に難儀をした。
サリュー·ターランの所属傭兵部隊の元締めの男と‘繋ぎ’をとった時には、
もう少しで、ターランが傭兵部隊との契約を切って自由になるところであった。
その時に、元締めの男がサリュー·ターランを評した言葉が今更ながらにふに落ちる。
《天賦の才を持ちながら、それを操るには‘非凡さ’が足りぬ》あまりにも、‘普通’であるのだと。
それを、あの元締めは、『上等な酒を平凡なグラスに注いだ危なっかしさ』 と、表した。
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日が暮れて、娘ミラージェンが孫の手を引き戻って来ていた。
「司令はお帰りになったのですね。」
「ミラージェン、この先はあの男も益々この帝国での重責を担う事になるであろう。」
「はい。」
「あの男は、人並み外れた‘才を’持つが、どうにも危なっかしい。
お前も、私の傍らで見聞きして覚えた事も多かろう。
この先は、お前が支えてやるがよい。
できるか?」
ミラージェンは、何かを言いたそうにした言葉をのみ、
一言のみ答えてきた。
「微力を尽くします。」
「それでよい。
私も世間で言うような‘妖怪’ではなく、
人間としての生を全うするものに過ぎぬ。
遠からず、迎えもこよう。」
いつか、あの男が言っておったように[この娘が男であったなら]と、
詮無い事が胸をよぎる。




