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【パパの幕僚が次々にやって来るのはなぜ?】 side アロマ

 最初にやって来たのは、ガレット准将。


 パパの幕僚の筆頭、腹心の部下。

 いつも‘ニヤニヤ’していて、つかみ所のない男の人だ。


 僕は、パパの仕事の内側を詳しくは知らない。

 当たり前だけれど。


 でも、この人はパパの周辺でも時々見掛ける事が多い。


 僕を“坊っちゃん”呼びをするのが、何気にうっすらムカつく。


 将軍職の階級の執務室は、‘室’というよりは広めの事務所の軍隊版みたいな感じ。


 将軍職の人それぞれの采配に任されているから、人によってずいぶん違う様子になっているらしいよ。


 僕は、カルコス大将の‘こちら’しか知らないけれど。


 大昔は、勘違いをした“豪華版”の《妖しさ漂う将軍の執務室》まであったんだって。


 今は、そんなのは無くなってて、聞いたことがない。

 

 でも今も、それぞれの将軍の個性で部屋に色々違いがあるんだって。


 いつか機会があったら、

 レヴィオンお兄さんのところを見学させて貰いたいなあ。


 ここ、カルコス大将の執務事務所?って言って良いのかな。

 ここは、凄くスッキリ《軍人らしい》感じ。


 戦艦の中で、司令塔としての中心部分の設備をそのままに移動した感じ、

 それでさらに地上らしくリラックスもできる場所になっている。


 華美ではなく、でもちょっとした絵画やら置物があったりして、殺風景でもないし。


 過不足がなく、軍人として品の良い室内の装飾が、

 カルコス大将閣下の‘お人柄’を表している感じがする。


 いつもカルコス大将は奥にある“ゆったり椅子”に座っていらして、

 大きなモニター画面がカルコス大将閣下が見やすい場所の壁に設置されている。


 幕僚3人が、それぞれが決めた部屋の中の場所に散らばって仕事に励んでいる。


 僕は、カルコス大将の近くの、うんとぉ……。

 ‘ペットわんこ’ポジションだね。


 カルコス将軍にお茶を入れたり、ちょっとしたお手伝いをしたり。


 将軍職でも、‘秘書官’を置く人はいない。


 パパ達の職分の、陛下のお近くの『灰色』軍服の人の方にだけ‘秘書官’という役職の人がいる。


 ‘秘書官’の人が、場合によっては幕僚の人よりも強い決裁権を持っているらしい。


 その『灰色』方面の、‘秘書官’の仕事を分担してやっているのが、『紺』軍服の将軍職の元では、3人の幕僚の人。


 それぞれの将軍の脇をかためている。


 一般の商会の会長と番頭さん達って感じかな?


 それぞれの部隊の中で将軍に次ぐ高位の将監で。


 将軍の手足になって日々奮闘している。


 ここカルコス大将閣下の部隊は、帝国一と言って良いほど、“直立敬礼”がカッコいい。

 みんな、ビシッとが半端がない。


 パパの幕僚の、このガレット准将みたいに上官に“ため口”でへらへら話なんて、絶対にあり得ない。


 僕のような‘従卒(じゅうそつ)’の役割は、一般企業の‘社長秘書’みたいなもんだね。


 主に、将軍にお茶を入れたり、ついでにみんなに入れたり。笑


 この、従卒(じゅうそつ)には、

 仕官学校の付属の幼年部の高学年の生徒か、仕官学校の低学年の生徒が選ばれる。


 僕のような19才の従卒は、従卒としては年齢が上でちょっと例外っぽい。


 みんな、本来の仕官学校での勉強があるから、高学年になってまで従卒(じゅうそつ)は続けない。


 僕は、仕官学校自体が途中入学だから、変則的なのは今更だけどね。


 従卒に選ばれるには、とても名誉な事らしいよ。


 成績も優秀でなければならないし、

 若いうちに色々な経験を積むことやら、

 上官とも親しくなれるから。


 将軍職の人数しか、従卒の数も要らないわけだし。


 僕は、いつの間にか配置されていたから、

 あまり良く分かっていなかったけれど。


 《パパの従卒(じゅうそつ)制度嫌い》を、クロおじさんことクローレス上級大将から聞いた事がある。


 だから僕は、ここの‘従卒’になる話を聞いたときに、どこからかのパパへの妨害でも入ったのかと思って警戒していたんだ。


 ******


 [昔々の従卒のお話]になるけれど。


 まだワープ航法の技術が定着していない大昔の、宇宙の航海移動に物凄く時間がかかっていた時代のうーんと昔。


 帝国軍は、今以上の“女人禁制”が徹底していた。


 長い航海中に、偉い将監様に女性に代わって“性的処理”の役割を、若い男の子が努めていた事があったらしい。


 その役割が“従卒”だったんだね。


 もう、歴史の上でのびっくりネタの話だけれども。


 現代は、性欲を押さえる副作用もあまり無い薬剤が開発されているし、

 航海自体が年単位になるようなものではないし。


 今後はパパの開発した高速艇がどんどん大型化して使えるようになったら、

 もっともっと宇宙の航海時間が短縮されるよね。


 パパが‘これが理由’で従卒制度が嫌いって、

 本気で言っているなら大笑いなんだけれど。


 だって、その理屈でいったら、

 現代では“芸術”になっている舞踊だって見られなくなっちゃうじゃない?


 現代人が、美しさにうっとりと見ている舞踊が、

 昔は皇帝やら貴族の“買春(かいしゅん)”用の、

 “踊り子の足見せ品評会”だった訳でしょう?


 現代に残っている制度を、古代まで辿(たど)ったら、

 ほとんど全部の文化が“エロい事”になっちゃうし。


 だから僕は、パパの本当の‘従卒嫌い’の理由は、もうひとつの方、


『子供を戦争に連れて行くのはおかしい!』


 を、なんとなくパパが言い辛いんじゃないかな?

 なんて思ってる。


 だって、パパが若年傭兵部隊で働いていたのって、

 ちょうど‘従卒の年齢’くらいだもん。


 自分が通って来た道を否定すると自己否定になっちゃうけれど。


 大人になった自分が子供に見せたくはないものを、

 パパの目がたくさん見てきたんだろう。


 ということで、僕が年がいっちゃってる‘従卒’待遇でここに居るのは、

 パパが手配したと思っていいのかな?


 年がいっちゃってる分は、パパに似て童顔と言うことで他の従卒さん達には勘弁して貰おうかな?



 *********



 どうして、パパの幕僚の‘ガレット准将’が、

 ミラお母様のワインを片手にカルコス大将閣下の‘ご機嫌伺い’にやって来るのかな?


 とってもわざとらしいよ。


 ガレット准将はカルコス大将閣下にワインを手渡しながら、


「ちょっとそこの坊やと世間話をさせて下さい。」


 と、言った。


 カルコス大将閣下も、

 閣下の幕僚さんもみんなが居るところで何の話だろう?



「では、坊っちゃん。

 俺も結構忙しくしているので、端的にお話しますよ。」


 僕は、黙って頷うなずいた。



「坊っちゃんは、御存知無いかもしれませんが。

 あなたのお父様は、本気の時には一切無駄な事はしない。


 口に出す言葉のひとつにも、計算をしつくして話をする人だ。

 例え、軽い調子で吐き出した様子に見えても。


 それを、かぎ分けられないような奴は、

 うちにはいらねえって事なんだろうよ。


 職場のパパは、優しい僕ちゃんのパパとは違う生き物なんだぜ。」


「とにかく、あの人のやることに“意味のない事”はない、

 というのは分かりますかね?坊っちゃん。」



 僕は、思わずムッとして睨んでしまった。


 パパの事を僕があんたより知らないとでも言いたいのか!


「そのターラン統括司令閣下が、坊っちゃんをこの部隊に配属させた。

 その意味をちゃんと理解なさってますかね?」


 やっぱり、ここへの配属はパパが決めた事だったんだ。

 僕は、初めて口を開いた。


「ガレット准将の仰る事は理解しているつもりです。

 パ…、僕に足りない事をここで学べという、父の考えがあると理解しています。」


「そうそう、なかなかいい面構えもできるんですなあ。感心感心。」


「こちらでカッコいい敬礼を身につけただけなんて、

 お笑いを仰るのは、やめにしてくださいよ。坊っちゃん。」


 いきなり、ガレット准将がぼくのお腹の下にパンチを入れて来た。

 結構、きく。


「‘ここ’の話ですぜ。坊っちゃんに入れていただきたいのは。

 性根(しょうね)を、この商売に必要な。」


「いつまでも、パパと一緒にいたい坊やは、

 邪魔にしかなんないんですよ。


 この帝国軍に、坊やのパパなんてもんはどこにも居ないんですよ。


 坊やがサリュー·ターランと言う男と共に働く事を望むのなら、

 それに相応しい根性のひとつも、

 ここで学んで見せて下さいよ。」


「うちの司令はね、(ぬる)い使えない奴は鼻も引っかけませんからね。


 お勉強が出来るかわいい坊やは、

 おうちでお留守番してくれていた方がましですから。」


「帝国の周りの小康状態がいつまでも続くはずはないですから。

 さっさと、大人になって下さいよ。坊っちゃん。」


 言いたいことを言って、ガレット准将は帰った。


 これは、忠告だろうか?


 それとも、助言をくれたのだろうか。


 だとしても、凄くムカつく。


 パパが無駄な事を言わないのは、

 あんたよりずっと僕が‘ご存知’だよ。


 昨日今日パパと知り合った、

 ガレット准将なんかよりも僕の方がずっと?あれ?


 あの人、僕が生まれる前からパパとの付き合いがあるのかな?


 まあ、いいやそこは。


 とにかく、今日から‘パパ’は封印。


 サリュー·ターラン統括司令の側に少しでも近づきたいからね。




 ************




 どうして、今?


 僕の人生で片手で数えるくらいに入るくらいの楽しみ、

 わくわくドキドキタイムに。


 なんでわざわざ、

 パパの幕僚さんが僕に絡みにやって来るのかなぁ。


 さっさと消えてもらいたいよ。


 パパの“剣術大会の決勝”が始まるのを待って、

 会場で座っていたら、またパパの幕僚のうちの2人が、

 僕のところにやって来た。


 法務に強い‘アスカン中佐’と、財務に強い‘バルバ中佐’。

 おっと、お二人共、先日大佐になられたんだった。


 パパの周辺人事は、

 気になって軍の会報のチェックは欠かさないから僕は。


 横にいらっしゃるカルコス大将閣下に頭を下げた後に、

 アスカン大佐が僕の(ひざ)に分厚い本を置いた。


 “帝国法の覚書全書”なのかな?これ。


「君は‘お勉強’ができるんでしたよね。

 だったら、大至急これを読み通しておいてね。」


 どうして、パパの幕僚の人はいちいち嫌みったらしい言い方をするのかな?


「‘弁護士資格’をとるようなお利口な勉強はいらないから。

 そういうのは、全然間に合っているからね。」


 アスカン大佐は、

 その厚い本を目の高さよりも上に持ち上げて、

 照明にかざすような仕草をした。


「この本を透かして、覗いて。

 法律の行間に隙間を探して見つけるだけの理解力。

 そういう使える能力を身につけて下さいよ。


 自分も忙しくなると、

 猫の手でも上官の息子の手でも助かりますのでね。」


 パラパラと僕がその全書をめくると、

 あちこちに番号のようなものが書き込んであった。


 僕がそれを見ていると、アスカン大佐が尋ねてきた。


「その数字、何だか分かりますかね?」


「実際に法律の穴を抜けたか、

 惜しくも捕まったかの‘事件番号?’‘議事録番号?’‘裁判の番号’それと日付?」


「まあまあですかね。」


 ***

 今度は、バルバ大佐に質問をされた。


「この大会における、経済効果を2つ3つ言ってみて下さい。

 剣が売れるようになっただの、道場が流行っただの。

 小学生の答えはいりませんよ。」


 ムッとする。


 ばーかばーかばーか。


 僕は、ユニで経済関係の科目は片っ端から履修した。

 データを分析して、新たな法則を見つける為に。


 負けないもん。


「でしたら、たかだかデータでの解析の有無なんかでは、

 中学生の答えでしょうか?

 では、仕官学校生徒ぐらいでお答いたします。」


「この帝国での軍と‘その他の勢力’のバランスの支点が変化をしたならば、

 後からついてくる‘経済効果’は2つや3つなどでは収まりませんよね。」


「どうしてそう思う?」


「“ちょうど物騒ではない武勇”の効果は、

 軍内部を超えて、

 一般聴衆の目には“楽しいスポーツ”に映るかもしれませんね。


 情報操作は必要でしょうけれど。


 軍艦が爆発したり、銃で人が即死をするよりはよほど、

 一般人が今まで怖れていた軍服に対しての人心が、

 穏便にこちら向きに動く。


 そこに、ある種のカリスマ性が乗っかった時にはさらに、


『どうして今まで自分たちは、

 ‘何もしてくれない’昔から威張っていただけの人’を通して、

 皇帝陛下に‘感謝と尊敬’を差し出していたのかな??


 日々の生活と幸福を本当に守ってくれていたのは誰だろう?』


 と、少しは思ったり?


 一足飛びにはいかないだろうけれど、

 でも道半ばくらいまでは。

 中心の支点が変化するんじゃないかなあ?


 そうしたら、軍に関係する需要の経済が回るだけではなくて、

 帝国中の経済がバンバン回りますよね。


 その具体的な経済効果をレポートにあげると、

 2つ3つではなくて、

 この法律覚書全書くらいの厚さになりそうですが。」


「もうすぐに決勝が始まりますよね。

 レポート提出は、今でなければダメですか?


 この決勝戦を見逃したら、

 僕は大佐方を一生呪っちゃいそうなんですけれど?」


 2人には退散していただいた。


 カルコス大将が、横でクスクス笑っている。


 ほらほら、始まっちゃった。




 ********************[“パパの”剣術大会決勝戦]


 凄い、凄い、凄い。


 綺麗、綺麗、綺麗だった。


 《剣術大会の決勝戦》、

 パパは前回の着崩した軍服の着方(きかた)ではなく、

 キチンと首もとまで上着を留め上げて。


 カフスも留めてちゃんとした軍服の着方(きかた)をして出てきた。


 普通の?軍服の着方(きかた)

 当たり前って言えば当たり前だけど、パパだからさ。


 カルコス大将閣下の部隊では、

 全員がいつもその当たり前仕様だけど。


 今日のパパは、礼服仕様の軍服ではなくて、

 シンプルな普段用の軍服。


 パパは、勲章どころか階級章もほとんど付けないし。


『じゃらじゃら重いと動きにくい。』


 それじゃあ、今日は絶対に付けないよね。


 でも、他の3人の出場者はみんな何か付けているよ。


 勲章どころか、簡易の(よろい)みたいなのを着こんで、

 心臓に当たる部分にわざとらしく勲章付けたりしてる。


 勲章は防具代わり?


 パパ、いいのかな?本当に。

 軍服だけど、軽装で。

 布だから、刃物で簡単に切れるよね。


 急にちょっと心配になった。


『パパパパーン!』


 いきなりファンファーレがなってびっくりした。


 カルコス大将閣下が。


「これは!」


 と、呟いて立ち上がった。


 会場中の全員が一斉に立ち上がって‘敬礼’をしたり、

 純粋な軍属ではない人は胸に手を当てて目線を落としたり。


 ファンファーレに種類でもあるのかな?

 僕の知らないやつだなあ、このお約束。


「アロマ!」


 カルコス大将閣下に促されて、僕も立ち上がった。


 僕は敬礼ではなくて胸に手を当てる方にする事にした。


 まだ仕官学校を卒業していないし、

 軍籍として配属をされてもいないから。


 たぶんこれで正解だと思うよ。


 皆が一斉に、中央の高い席の近くの入り口に体の向きを変える。


 扉が静かに開いて、白金の髪が揺れている。


 皇帝陛下のご臨席があったんだ。


 ほわー?びっくりだよね。


 確かにこの剣術大会は、‘皇帝陛下のご推奨を賜った’とか、

 書いてはあったけれど。


 皇帝陛下が実際にご臨席下さる行事なんてあるんだ?


 陛下が、人前で手を上げる機会すら、

 滅多にないって聞いていたから。


 会場中、みんなびっくりしている。

 もちろん声ひとつ上がらないけれど。


 こんな時に、うちのカルコス大将の部隊の人間がいっぱいいたら、


 誰かが『皇帝陛下、万歳。帝国に栄光あれ。』


 とか、言っちゃいそうだなあと思ったら、

 言っちゃったんですよ。


 カルコス大将閣下が。


 すぐに、会場中が復唱したので、

 僕はカルコス大将閣下が痛い感じにならなかったので、

 とってもほっとしたんですが。


 陛下がさっと手を上げて着席なさった後に、

 試合はすぐに開始された。


 パパは陛下のご臨席を知っていたのかな?


 残りの3人がチラチラ陛下の方を気にするのと違って、

 平気そうなんですけど。


 今日は、ガムは噛んでいない。



 ************


 結局、陛下が会場にいらっしゃったのは、

 3試合の間だけだった。


 3試合とも、パパと誰かの試合。


 他の人は休めるから文句も言わないだろうけれど。

 パパは、出っぱなしで不利ではないのかな?


 ******


 最初の試合は、予選と同じ。

 パパが一瞬でおしまいにした。


 パパの持ち物の剣は、一番普通のありふれた剣で、

 あんまり模造剣と変わらない感じ。


 相手の剣は長剣で、なんかギラギラ飾りがついていた。

 パパの剣に吹っ飛ばされて、床に刺さって終了。



 2番目の相手は、長い槍みたいなやつで。


 珍しくパパから踏み込んで、

 相手の喉元に寸留めで剣を突きつけた。


 踏み込む時に、相手の槍先で、パパの髪の毛が少しパラっと切れて落ちた。

 パパの目の下の頬が、ちょっと切れたみたい。

 パパの顔に、傷なんか残ったら嫌だなあ。



 最後の相手は、少し手応えがあったのかな?


 パパと相手が5分くらい見合って動かなかった。


 一瞬、パパが嬉しそうに、ニヤっとした。

 いつものパパの笑い方ではなくて、

 僕の知らないサリュー·ターランの片鱗を見たようで。


 ドキドキしたよ。


 その後、一瞬で相手が仰向けにバターンと倒れて、

 パパが相手が剣を持っている利き腕の上と、

 その利き腕で握っている剣の上に片足づつ踏みつけて立っていた。


 さっきまで、パパに物凄い殺気を放っていた相手が、

 ひっくり返った蛙みたいにポカーンと口まで開けていた。


 これは、後でスローで再生して見ないとね。

 いったい何がどうなったのか分からなかった。


 パパが、立て続けに出場者の3人と試合をして、全勝だから。

 これで、パパが優勝っていうことだよね。


 ******


 そのタイミングで、皇帝陛下がすくっと席をお立ちになった。


 皇帝陛下がお付きの人から、

 青い綺麗な布で包まれた長い物を受け取られて。


 それを、上にある陛下のお席の方から下の試合場のパパの方へ、

 両方の手で放物線を描いて投げられた。


 投げられた途中で、青い布はほどけて、

 布だけゆっくりふわりふわりと漂って落ちていく。


 布の中身は、一振の剣のようだった。


 中身の剣はずっしり重そうにパパの頭の方向に落ちていく。


 パパは、持っていた短剣を鞘ごと握って、

 落ちてい来た剣のスピードを制御してクルクルっと回して陛下の投げられた剣を手に納めた。


 サーカスの曲芸のナイフをクルクルするやつみたいだった。


 陛下もお口を開かないし、パパもなにも言わない。

 会場中がシーンとして音もしない。


 陛下とパパが目を合わせると、陛下がくいっと(あご)を動かされた。


 パパは、目で小さく(うなず)いた。


 僕は、勝手にハラハラしっぱなし。


 こういう時、『ありがたき幸せ』みたいのをしなくていいのかな?

 カルコス部隊ならきっとするよね。


 ***


 そうしたら、パパが剣を鞘からシャキンと抜いて、

 鞘を足元に置いた。


 片膝(ひざ)をついて立て膝になった。


 一度剣先を自分の胸に刺すような仕草をして。


 左の手の甲にちょんと刃先を当てると、

 パパの手が切れて剣にパパの血がついて一筋流れた。


 その剣先を皇帝陛下に向けながら、パパは一度立ち上がった。


 パパは真っ直ぐに陛下の目を見ている。

 とても静かな目線だった。


 陛下は腕を組んだまま、よく通る低い声で。一言だけ。


「許す。」


 と、仰った。


 何が‘許す’なのかな?

 臣従を許す?でも、今さら過ぎるよね?


 こういうのは、『《剣を捧げる》礼節の儀式』みたいなやつなのかな?


 どうでも、とにかくカッコいいよー。


 もう、僕は鼻血でも出そうです。


 超絶カッコ良すぎだもん。


 その後パパは、剣を鞘に納めて自分の前においてもう一度座った。


 右手の拳を軽く丸めて、左胸に当てた。

 ちょっと血のついている左手は左足の太ももの上。


 一度陛下の目を見た後に、パパは(こうべ)を垂れた。


 皇帝陛下が、ひとつ(うなず)かれた後に、

 さっと(きびす)を返して退席をされた。


 その間は10分もかかっていないような時間だったのに。

 現実ではないような、美しい時間と空間が繰り広げられた。


 皇帝陛下が、退席されて扉が閉まると、

 会場中がどかーんという歓声に包まれた。


 パパが困ったような顔をして、

 血の(にじ)んでいる左手で頭をかきながら、

 いただいたばかりの長剣を右手で無造作に持って引っ込んで行く。


 途中で、最後に当たった蛙のおじさんが、

 パパに何か言っていたけれど、

 パパはダルそうに一言か二言を返していた。


 何を言っていたのか、ちょっと興味があるよ。

 もっと近くだったら聞こえたのに残念。


 表彰式とか、他の人同士の試合とか色々いいのかな?


 でも、もうこれ以上は盛り上がんないよね。


 結局、優勝者1人と、準優勝が3人になったらしい。


 準優勝の人にも、後からパパとは違う剣と賞金が渡されて、

 それぞれホクホクしていたそうです。


 最高に興奮したよ。


 僕は今、ここに居られて本当に良かった。


 “我に悔いなし!”


 ちょっと、カルコス大将軍団ポイっでしょう。笑



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