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【パパは陛下に我慢を強いている?】 side サリュー パパと陛下…♡

 ふう、切りがないから、今日はもう終わろうかな。


 大会議場がある建物の自分の執務室で、おもいっきり背伸びをした。


 この頃、座り仕事ばっかりで、体がバッキバキ。


 軽く食事とってから走って来ようかな?


 途中で食べてもいいし。


 今週も長かった。やっと週末。


 マケル宰相閣下の代わりに、こちらに回って来る書類。

 一部のはずなのに、この量って何なんだよ。


 俺、事務仕事が向いていないのを改めて実感。

 設計仕事でなら、座っているのは苦痛ではないのに、

 同じ座り仕事でどうしてこんなに疲れるんだか。


 ‘年’?年ですかね、要は。


 45って切り上げたら50だもんな。

 別に切り上げなくてもいいか。


 スポーツウエアに着替えて、ランニングシューズに履き替えた。

 いざ、出陣!


 の、その時に通信が入っちゃって。


 やっぱり、陛下だった。


「そのままでよい。」


「こちらで、食事をとれ。」


 いくら何でもスポーツウエアで、陛下と‘御食事’はとれません。


 なんだか、この週末も‘家’には帰れない予感。


 俺はマケル宰相閣下にお会いする為にマケル邸の方には、結構出入りしているけれど。


 アロマはマケル邸の方ではなくて、うちの方にいるらしい。

 アロマに会うのは気まずいから、帰れないならそれはそれで。


 今、まだ俺の中で、アロマの事に結論がついてはいない。


 第一、陛下がどう思われているのかも、お聞きする事がためらわれて。


 どうしたらいいものか思案にくれている。


 マケル邸での宰相閣下に、お体に合わせた“車椅子”改良型を御用意させて貰った。


 この頃の宰相閣下は、お部屋の中でその車椅子で動かれる事がお出来になっていらっしゃる。


 杖を使って短い時間なら、直立で立たれる事もできるようになられた。


 立っていられる時間が伸びれば、

 ‘叙勲式’、何かの‘発令’の時にその時間だけでも、

 陛下の横にお並びになられる事も遠からずあるのではないか。

 期待している。


 公の場に、マケル宰相閣下がご臨席される様子が口々に広がれば、

 帝国の安泰を誇示する事にも繋がる。


 帝国の隙を狙う余計なちょっかいを潰す抑止力にもなるだろう。



 **********


「あまり進まぬな。食べられぬのか?」


 陛下にお気遣いをさせてしまって申し訳ないです。


「座り仕事ばかりで、体を動かしていないので。

 お気遣い、申し訳ありません。」


 陛下の目がキラーン。


 あれれ、何か地雷でも踏んだかな?


「運動が不足するのは確かに体に悪いであろうな。

 しょうがない、それでは一緒に体を動かしてやろう。」


 そっちでしたか。


 この頃、疲れているのを分かって下さる時に、

 食事だけで戻らせて頂ける時もあるので。


 今日もそっちだったら、

 少し走って来てから、ちょっと木刀で素振りでもして、

 後はぐっすり寝ようと思っていたんだけれど。


 違う運動の方になりそうかなあ。


 実はちょっと、いや結構しんどい。今日は。


 陛下に、先に汗を流すご許可をいただいた。


 以前の執務室の方のシャワーを使わせていただこうと思って腰を上げたら。

 やっぱり駄目ですか。


 陛下の奥の御寝所にある湯殿に引っ張って行かれてしまう。


 陛下、俺本当に今日は体力自信ないので、

 陛下にお湯に沈められたらその時点で、終了しそうです。


 そうしたら、ご機嫌悪くなられますよね。


 どうお伝えしたらいいのかな。


『やりたくない日もあるんです。』

 こんなこと言えたらいいだろうなあ。


 こういう時に、

 対等な恋愛関係とは程遠い、この特殊な関係って何だろうと、

 考え出すと少し息苦しくなる。



 **************


 お湯には沈められなかった。


 陛下の視線の先でシャワーを浴びるように仰るので従った。

 陛下も途中で一緒に浴びられて、何時(いつ)ものように寝所に移動する。


 参った。俺。

 本当に、立たなかった。


 こういう時って、女性と違って‘ふり’ができないから男は辛いわ。


 怖くて陛下の方を見ることが出来ないよ。


 でも、俺もわざとでもないし、どうしょうもない。


「そのような顔をするな。別に責めようとは思わぬ。」


 陛下の声は、怒ってはいらっしゃらない。

 声音は優しい。


 それでも、答える言葉が見つからない。

『申し訳ありません。』って言ったら良いのか、悪いのか。


「ただ、こうされておるのも嫌か?」


 陛下が上に重なっていらして、浅く口づけていらっしゃった後に、

 俺の髪、頬、首、肩と下に向かってゆっくり静かに撫でていかれる。


 いつもと違って、ずいぶんと静かで優しく愛撫なさる。


 黙って、首を振って『嫌ではない』と意思を表した。


 切ないようでいて、ひどくだるい。


 やっぱり年かなあ。


 陛下が、ご満足できる他の‘お相手’をご用意は頂けないものだろうか?


 以前から、陛下の後寝所から他の誰かが出てくるのを見ても、俺は本当に心が動かない。


 わざと、冷静さを取り繕っているのでも、強がっているのでもなくて。


 ‘嫉妬心’の対象外のところで、陛下の存在があるので。

 はなから‘焼きもち’など焼きようがない。


 あれ、でも俺、考えてみたら陛下以外にも特に‘嫉妬心’って抱いた事がないかも?

 うん、思いあたらない。


 ああ、でもドゥーダン提督が昔陛下と何かあったらしいと聞かされた時には、

 ざわっとした。

 あれは、どういう感情だろうか?

 嫉妬というよりは、ちょっと嫌悪感があったような。

 陛下を汚されたような、気持ち悪さが体を走ったんだ。


「また、お前はひとりで何処(どこ)に、気を反らしている?」


 ああ、しまった。


「サリュー。『親子どんぶり』などと言っていたな。」


 びっくりして、陛下の手を払いのけて飛び起きてしまった。


「クククク。お前は本当に分かりやすい。

 それでは、からかう‘面白み’さえないではないか。」


 声が、絞り出すような低い声になってしまった。


「陛下、随分と下世話な言葉をご存知でいらっしゃるのですね。」


「サリュー、何をそのように慌てる。」


「以前にお前が、妹にそのように揶揄(やゆ)しておっただろうが。

 それを思い出して言ったまでこのこと。」


「よいから、こちらに回れ。」


 また、組伏せられてしまう。


 急に耳なりと頭痛がしてきた。

 頭が、ガンガンする。


 陛下は、何を仰ているのだろうか。


 先日の、アロマが陛下にお目通りいただいてからの事が原因だろうか。

 いったい陛下とアロマは何を話したんだろう。


 陛下とアロマのどちらからも、

 その時の話を聞いてはいない。


 アロマが御前に召されていた時に、陛下の笑い声が響いたと聞いた。


 陛下は、そういう意味でアロマをお気に留められたのだろうか。


 陛下が俺の中で果てられた際に、耳元で囁かれた。


「お前次第だな。それによってあの子供を立ててやらんでもない。」


 気力が根こそぎ()げるような脱力感で動けなくなった。


 今日は、陛下も1度で終わりにして下さった。

 体だけでなく、心も立ち上がらない。


 結局、俺って陛下のお側で何をしているんだろう。



 *******************



 マケル宰相閣下のお屋敷で、仕事のご指示を受けた。


 帰りがけに宰相閣下が、言い淀んだ末に(おっしゃ)った。


「次代を……気にかけよと命じたら、従うつもりが……あるか?」


 変な命令?


 こちらも返答に困って、()ぐに返事ができない。


 マケル家の《人間作成工場》を‘引き受けろ’と言われれば、

 即座に『(いな)』と返答ができる。


 人間、出来る事と出来ない事がある。


 俺にはそれは無理。きっぱり無理。


 マケル宰相が、

 その為に俺を強引に‘戸籍上の婿’に据えたとしてもだ。


 しかし、(ずる)いなあ。


 “陛下のお子様方”と言われれば、闇雲(やみくも)には、否定が出来ない。


「それが、陛下のお望みであるのなら。」


 俺も、陛下がお子様に‘ご興味’など示されるはずは無いのを知っていて、

 ちょっとたいがいだなぁ。


「随分と、こ(ずる)い返答…で、…あるな。」


 あなたが仰いますか?


「ずるい?ですか。自分が?」


 (ずる)いのは、そっちでしょう?


 病人相手とはいえ、目を見開き声を上げてしまう。


 扉の向こうのミラ様に心配をかけるかと、

 ハッとしてそちらに目をやった。


 大丈夫そうかな。


「“陛下が父“である以上、そなたが母のようなものであろう?」


「はああ???」


 今度こそ、大声を上げてしまった。


 誰も扉から入っては来ない。


 人払いがしてあるのか。


「宰相閣下、それは‘詭弁(きべん)’が過ぎませんか?」


 宰相閣下が、俺から目を反そらす。


 この方に、困ったように目を反そらされるのは初めてだよ。


 全然かわいくないんですけど。

 ‘妖怪’の困り顔なんて。


 ******


『お育ちの様子を見て、陛下に1度ご報告をするだけでかまわぬ。』


 狡いなあ。ホント狡い。


 ‘陛下の’お子様、‘陛下に’報告を、

 連発されては俺に逃げ場が無くなるのを知っていてやっているだろう。


 この妖怪爺。


 あんたが勝手に作った、‘陛下のお子様達’だろうよ。


 ただ、俺だってマケル宰相閣下が、

 私欲で動いているのではないと言うのは分かってはいる。


 俺は、マケル宰相閣下と違って、

 《陛下の後を継ぐ者がいないことで》、

 この先の帝国が揺れる事になっても、


 どっかでそれも“運命(さだめ)”の様な気がしている。


 次代を定めずに、陛下に何かあった時には、

『権力争い、内乱、帝国の分裂』。


 何だってあり?だよな。

 たくさんの命が巻き込まれるだろう。


 自分が知っている身近な人間の幸福を願ってはいるが。


 とはいえ、

 永遠の帝国など存在はしない。


 いつかは、どんな国も‘歴史上にあった国’に必ずなる。


 それが、たまたま、メルキオーア皇帝陛下の()(のち)の時代であったというだけの事で。


 俺が、今の立場ではなかったら

 “そういう哲学もあるよなあ”で済ませられるところ。


 皇帝陛下のお近くにあって、そんなことを口にすれば俺って‘とんでもない奴’になるんだろうな。


 ただし、皇帝陛下以外の人間には!って但し書き付きだけど。


 陛下はきっと『それもそうだ。』


 と、仰るだろう。


 今の俺の立場は、帝国の為政者に近すぎるから。

『無責任!』となじられても、しょうがないのか?


 でも、‘しょうがない事’に、横車を押して‘お子様達’を作ったのは、宰相閣下で。


 人間として、どっちが‘おかしい’のかは?


 俺ではないような気もするんだけどな。


 で結局宰相閣下の『見るだけ!報告をするだけ!』に引きずられて、

 《マケル家の人間工場》に連行されているところ。


 いやいやふてくされて歩くと、ホント‘連行’と間違えられるよ。

 宰相閣下の秘書官達に。


 やっぱり、お子様達は‘工場育ち’なわけか?


 そうは言っても、普通の人間の女性に人工受精を頼んで、どっかのお城でニコニコ暮らして下さっていたら?


 淡い願いを思ったのはかなわなかった。



 *****************



 これは俺の手に余る。


 どうしろって言うんだよ!


 しかも色々おかしいし。


 陛下の“(たね)”を頂戴する俺の‘御奉仕’笑。


 何回かの覚えはある。


 でも、時期は短期間限定で、時間的には凝縮していた。


 それなのに、なぜ?


 今、俺の目の前にならんでいる、

 《人工子宮からの延長育成ポット》って言っていいのかな?


 水溶液?母親の胎内の‘羊水’に似たようなものなのか?その中。


 円柱状の水槽の中で、幾つかの(くだ)に繋がれて、

 プカプカと浮かんでいる《陛下のお子様達》。


 4人とも、容姿だけではなく“年齢”のばらつきが著しい。


 上から‘男児’‘女児’‘男児’‘女児’、


 うっかり感心してしまいそうになるほど、上手く作ったなあ。


 皆、静かに目を閉じて安心したように眠っている。


 年齢は、7歳、5歳、3歳、完全な乳幼児の生後何ヵ月くらいなのかな?

 ひとりは、完全な赤ちゃん。


 じっと見ていると、複雑でやりきれない気分になってくる。


 だってさ、みんなそれぞれ面差しがどこか陛下に似ている。


 特に、2番目?の女児、えっと皇女様って言わなきゃいけないのかな?

 は、髪の色も、お顔立ちも、陛下と1番よく似ている。


 時折俺が拝見している、お休みになっていらっしゃる陛下にそっくり。


 これ、何なんだ?


 俺、いったい何を見せられているんだろう?


 これ、このままにしておいて、良いのかよ?


 色々、おかしい事だらけ。


 でもその‘おかしい事’を、うっかり質問したりしたら最後。


『待ってました!』と、

 マケル宰相閣下にバトンでも渡されそう。

 気配で構えられているのがよく分かる。


 俺、絶対に何も聞かない。


 できれば、何も見たくもなかったよ。


 《マケル家の人間工場》で作った作らないに関係なく、

 俺は次の皇帝陛下に関わろうとは思わない。


 メルキオーア皇帝陛下が、

 そう望んでいらっしゃる事がよく分かるから。


 陛下が実際にそれを‘お口に出して’仰られた事など1度もないが。


 ずっとお側近くにいて

 ‘陛下が‘何を嫌悪なさるか’‘何をいやがられるか’は、分かるから。


 陛下に『お前は鈍くてイライラさせられる!』と、

 言われ続けて来た俺でも、それは分かる。


 “陛下のお子様達”拝見した帰り道は、

 俺の限界突破のサイン、味覚障害の次の右目もあやしいところを(さら)

 とうとう右足を引きずり出して歩きだしている。


 俺、大丈夫かぁ?


 自分の執務室にふらふらで戻ってきた。


 大会議場の近くに新しく作って貰った俺の執務室は、

 結構ちゃんと生活ができる。


 簡単で良いと言っておいたのに、

 執務室の奥にちゃんと個人用の部屋を作ってくれてあった。


 そこそこのベッドに家具、食事スペース、シャワーブース。


 しかも、ミニキッチンやら冷蔵庫まで。

 これ、すごく嬉しかった。


 ちゃんと仕事の後に、休息がとれるようにしてくれてあった。


 今日も食欲は全然わかない。

 でも、何か口に入れた方がいいよな。


 そうだ。

 マケル邸を出るときに、

 ミラ様が渡してくれた‘お菓子’?があったんだ。


 パタパタと見送ってくれたミラ様は、

 この頃は宰相閣下とはごく普通の父娘のように見える。


 実家で今までになかった時間を取り返すように過ごしているみたいで。


 看病をしていて大変なはずなのに、結構雰囲気が明るい。


「私が、自分でお作りしましたのよ。」


 へえ、この超お嬢様は、料理なんかしたことはないはずだけど。

 どうしたんだろう、宰相閣下の横で心境の変化かなぁ?


「フレイも手伝った!」


 横で、フレイアちゃんが、えっへんと胸を張る。


 確かに、こりゃミラ様の言う通りに可愛いな。


「せっかくに私が、自ら作りましたのですから。

 司令、処分したりなさらないで下さいね。」


「う、うん。」


「よろしいですね!」


 何か、ミラ様の念押しが意味深だったので、

 違和感があったんだけれど。


 何だろう?


 ミラ様とフレイアちゃんが作ったというお菓子の包みを開けると、

 1枚のメモ書きが入っていた。


養父(ちち)がアロマを狙っております。

 盗られる前に囲われるのが(よろ)しいかと。』


 ああ?


 えらいおっかないクッキーを、お茶で流し込んだ。



 *****************



 陛下への、お子様達の報告は、

 陛下の寝室。


 だってさ、聞いてはくれないんだもん。


 こっちでなら、聞いてやるって仰るから。


「心配せずとも、‘優しく’聞いてやる。

 あまりお前をからかうと、つまらん事になるからな。」


 お子様達の‘ご成長’を報告させていただいて、

 いやあれを‘成長’って言っていいのかな?


 意を決して、アロマの処遇を口にしようと息を深く吸った俺に。


「続きは向こうで聞く。」


 そっちですか。はあ。

 今日もお役に立たないような気がする。


 もう、ホントに。

 陛下、何でそんなに今日はご丁寧に?


 そりゃ、裏返しにされて男性特化の健康診断検査のように、

 反応をする箇所を内側から刺激をされたら。


 生理的に反応は致します、生理的に。


 でも、無理やり立たされるって、さすがに拷問みたい?


 動物扱いされているようで、

 こういうの柄にもなく‘悲しく’なってくる。


「お前は、こういう事を‘アロマ’と言ったか?


 あの息子に知られたくはないのであろう。


 ふふふ。」


 陛下に耳元で聞かされて、自分の反応にびっくりした。


 俺の右目から、すーっと涙が流れた。


 器用に右目からだけ。


 泣いたって言うより、

 弱っていた右目が痛くて流れて来た感じ。


 俺も自分でびっくりしたけれど。


 それを見た陛下の方がなんとも白けたような、

 唖然(あぜん)としたお顔をなさって。


 いきなり、俺を寝台の上から()りだされた。


「つまらん。(きょう)が冷める。」


 この、陛下の‘()りだし’は、有名な話だけれど。


 俺が陛下に、これをされたのは初めてだった。


 陛下は、相手が誰であっても、

 “事が終わると”相手を寝台の上から蹴りだして

 さっさと下がらせる。


 今までは、‘俺以外は’だったんですが。


 分かりました。

 と、静かに退散しようとそこいらに散らばった服をかき集める。


「誰が下がれと申した!」


 んとに、どうしたらいいんだよ。


褒美(ほうび)としてならば、お前の息子を帝国の一因と認めてやらぬ事もない。」


褒美(ほうび)?……ですか?」


「お前が‘剣術の~’などと、面白そうな事を申しておったな。」


 なんの話をなさっているんだろう?


 陛下の声がやけに遠くの方から聞こえて来るようだ。

 少し、気持ちが悪い。血圧が下がったのかな。


「あれで、勇姿を見せてみよ。

 退屈を紛らわすに、ちょうどよい。


 それで、お前が()らぬ女に引っ掛かった失態を、

 無かった事にしてやろう。」


「陛下、申し訳ございません。


 今は自分にはとても。

 目が効かず、足の踏ん張りも効きません。


 剣など振るえません。


 陛下に、自分が差し出すものは……もう、…」


「であれば、さっさと体を整えよ。

 お前がそのような様子では、

 私の忍耐もいい加減に切れるぞ。」


 陛下、‘忍耐’って。


 陛下よりも俺の方が結構、忍耐してはおりませんか?


 なんか、本格的に気持ちが悪くなってきた。

 陛下の後寝所で、吐いちゃうとかそんな粗相(そそう)は出来ないし。


 まずいから、本当に下がらせて頂けるようにお願いしないと。


「へ…いか。少し気分が悪くて、粗相をいたしそう…で…

 下がら…せ……」


 陛下に、ぐっと腕を引っ張られて背中から抱き寄せられた途端に目が回った。

 寝所の照明が迫って来るようで気持ちが悪い。


 足の力が萎えて、空気の抜けた何かのようにへなへなとなった


「本当にバカかお前は。

 誰がお前を惑わせた‘女の腹’から産まれた者に手などつけるか。

 (けが)らわしい。」


 グルグル回っている照明が、急に消えたように暗転した。

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