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【パパはみんなに心配されている?】 side あっちこっち

 **************[娘婿レヴィオン·ビステル]


「おい、ビステル少将、どうなってるんだ?

 もう2年だろうが!」


 捕まらないように気をつけていたのに、クローレス上級大将に捕まった。


 この頃、どこに行っても皆に詰め寄られる。


 知りたいのはこっちも同じだ。


 ターラン司令が、帝国の重鎮として公人の立場が重いのは分かっている。


 だけど、ここまで情報も本人も軍に抱え込まれるものだろうか?


 この2年の間に、義母のターラン司令夫人がたった1回の見舞いの面会を許されただけ。

 執事さんが数回物を届けに行っただけだと聞いている。


 娘、息子でさえも、面会が許されていない。


 妻のマコーレットは実の娘だぞ。

 それなのに、1度も会わせてもらっていない。


 いくら、面会謝絶でも、普通は家族の短い見舞いくらいは許されるものではないか?


『お母様が『今は、じっと待ちましょう。』と、仰るのだからしょうがない。』


 マコは、噛み殺したように言ってはいるが、

 爆発一歩手前の様子が良くわかる。


 お母様は、さすがにマケル宰相閣下のお嬢さん、腹の座り方が違う。


「それで? 生きてはいるんだろう?」


 こういうことになるので逃げまくっていたのに、回廊でばったり会ってしまった。


 結局、将軍職のラウンジに連れ込まれて、回りをクローレス上級大将どころか多くの将監に囲まれている。


 部屋中にいた人間の視線と耳がこっちに向いている。


 皆が、ターラン総括司令を案じているのはよくわかる。

 でも、俺もあなた達と同じように、ほとんど情報を持ってはいないんです。


「クローレス上級大将、勘弁して下さい。

 本当に家族にも、ほとんど状況が伝わって来ていないんです。」


「そんな訳があるかよ。」


「ターラン総括司令は、術後の薬の副作用で。

 今は声がでないそうです。

 ご本人が、人に会うことを避けられていらっしゃるそうで。」


「声?喋れないって事か?

 それはまた、厄介だな。


 軍の中央の病院に入ってるんだろう。」


「そう、聞いております。

 マコーレットも見舞いを許されてはいないので。」


「ん?娘までか。はあー……

 まったく、あいつは若い頃から目茶苦茶ばっかりやっていたからな?

 ‘ツケ’が溜まっていたんだろうが。」


「そんなに…ですか?」


「初めて仕事で一緒になった時、あいつは17くらいだったか?


 汚染地域を、途中で防護マスク外して走ってたからな!

 本人に(とが)めたら、

『5分以内で決着はつける!』と言われた。

 どれだけ無茶をしてきたんだか。」


 うわ、あり得ない。

 どんな下士官だって、それはやらない。

 いったいどんな状況なんだ?


「本当に、何も知らされていないんだな?

 呆れた話だな。

 少しは、よくなって来てるのか?」


「先日、執事さんが司令から頼まれて、少し動き(やす)い着るものを届けに行ったので。

 リハビリをはじめられたのではないかと。

 マコーレットが予測をしておりました。」


「娘のマコが『予測』をしなきゃならんのか。

 やっぱり、あっちの『灰色』の方はまだまだ、秘密主義で。

 わからんなあ。」


「フレイアも大きくなっただろう?

 あいつは、子煩悩なのに孫の顔を見たこともないってのも、異常だよな。

 批判をしたい訳ではないが。」


「子煩悩?ですか。」


「おお、確かどっかに昔の写真が入っていたな。」


 クローレス上級大将が個人用の端末を開いた中から、1枚の写真を見せてくれた。

 ターラン司令が家で仕事をしている時に、妻のマコーレットと義弟のアロマが(まと)わりついている。

 苦笑しているターラン司令は、まだ少年期が終わったばかりに見えるほどで。

 (ごく)若いパパにみえる。

 見ていると、つい笑顔がこぼれる。


「はじめて、見ました。この写真。」


「子供たちとの写真はこれ1枚だと言っていたな。

 俺が横から撮ったんだ。これな。」


「あの、上級大将閣下。

 マコーレットに見せてやりたいので。

 これのデータを頂戴できませんか?

 たぶんマコも持ってはいないんじゃないかな?

 あるのなら、得意気に見せてくれそうなところなので。」


「おお。ほれ。」


 この部屋に、ターラン総括司令の(さわ)りになる情報を外に()らすものはひとりもいない。


 自分を含め、司令によって想定外の風景を目にして、驚くべき発展を遂げた時代に産まれた事に喜びを噛み締めている。


 司令の回復を心から願っているものばかりだ。


「まあレヴィ君よ。機会があったら伝えておいてくれよ。

 ゆっくり焦らずに休んでくれって。

 10年療養したところで、今の俺よりもまだ若いんだからな。」




 ******************[ヒルメン·シルト医術大尉]




 以前に、サリュー·ターラン総括司令がお体を壊されて入院された時に、

 自分が担当医師のうちの末席に加わらせてもらった。


 そのご縁で、今回の司令の長期の入院をお側近くで微力を尽くさせて頂く事が出来た。


 とても光栄に思っている。


 司令が手術を受けられたのは、また別の施設であったので。


 こちらの軍病院の特別室で療養をはじめられてから、まだ3ヶ月ではあるが。


 少しずつ、ターラン司令が歩く事が出来るようになられている。


 ここ数日の自分は、毎日夜勤を同僚と代わっている。

 皆、夜勤を担当をしたくはないので大喜びだ。


 自分の夜勤には、秘密の楽しみがある。


 毎夜遅くに、ターラン司令がそっとひとりで病室を抜け出されるのを発見した。


 司令の病室の前には、護衛が2人立っている。

 司令が抜け出されるのを護衛2人が顔を見合わせて困った顔をする。


 司令は、その度に自分の口に指をたてて《内緒(ないしょ)》の仕草をする。


 司令は、術後の薬の副作用であるのだろう、強い薬を使用されたそうで。

 今現在、声を出してお話ができない。


 その仕草も茶目っ気があって、失礼を承知で言えば‘可愛らしい’。


 司令の後ろから護衛のひとりが付いて行くが、

 別に遠くにいらっしゃる訳ではない。


 同じ階のフロアを端まで歩いて行かれて、

 出窓になっているところへ腰掛けられる。


 長椅子に足を伸ばして座るように横向きにその出窓の端を背もたれにして。


 このフロアに今は司令以外の入院患者を入れてはいない。


 誰かのコールが入る事がないので、病院にしては考えられない静寂に満ちている。


 その大きな出窓からは、少し離れた軍のポートから離発着する航空高速艇がスピードを落として飛んでいるのが見える。


 この建物は外の音を完全に遮断しているが、星空の中をキラキラと高速艇が飛んで行く様子はとてもきれいだ。


 何よりその光に照らされて見える、ターラン司令の横顔がとても綺麗にみえる。


 病で随分と痩せられ、お顔もやつれてはいらっしゃるが。

 ほっそりとなさった分、かえって随分と年齢よりもお若く見える。


 自分は、同性にそんな感想を持った事などないのだが。


 なんと言うか、昔の宗教画の一幅(いっぷく)の絵をみるような綺麗さというか。


 そこで、司令は(しばら)く外を見ながら考え事をなさっているようで。


 司令は明け方前には、病室に戻って行く。


 お体が冷えないかと気を()むが、邪魔をするのは躊躇(ためら)われるので。


 少し離れたところで邪魔をしないように覗いている。


 司令の‘声帯’に損傷はないそうだ。


 早くまたお元気な声を聞かせて頂けるよう、飛行艇のライトの遥か後ろに瞬く星に祈りたい。




 ******************[執事オーラン·スールさん]




 動き易いウエアは、マコーレットお嬢様が用意して下さった。


 リハビリルームで着ていても、そのまま病室で横になっても治療に差し障りのない物を用意して下さった。


 マコお嬢様のプロの腕の見せ所。

 本当はもっと司令のお近くでその腕を発揮されたい焦りが良く分かって、拝見しているのも切ない。


 司令から、それを私に届けに来るようにとの連絡があった。


 病室では筆談で、お話を伺った。


 司令が、次に来たときに私がお預りしている《司令のお父上の日記を》持って来て欲しい、急がないからと。


『ちちにっき いそがない』


 と、紙にかかれた。


『そこまでおちこんでみる』


 また、不思議な事を。


『かわりは?』


 ご家族、皆様がつつがなくお過ごしの事をお伝えすると、少し表情を(ゆる)められた。


 短い時間ではありましたが、ターラン司令と(じか)にお目にかかる事が出来て胸を撫で下ろした。


 この方に限っては、そのような事にはならないとは思いながらも。


 陛下のお側近くでは、無いものをあるように見せる事などいくらでも起こりそうだと知っているので。


 それは、物に限らず、人間であっても。


 本当に生きていらっしゃるの事を、目にできて嬉しい。


 ターラン司令のご無事を確かめ、自分の体から力が抜けるように感じた。


 ご家族の皆様が、私ひとりが司令にお目にかかる事に、何か言いたげな視線でいらっしゃった。


 その様子に、申し訳なく思われましたが。




 ******************[皇帝陛下の筆頭秘書官]




 皇帝陛下に命じられて、ターラン総括司令の病室に来ている。


 陛下は、今もこちらの様子を御在所で見ていられるだろう。


 この方が、

『陛下のお側から離れたい。』

 と仰ってから、陛下は御自身でお目通りはしていない。


 陛下のご心痛は、いかばかりかとお察しする。


「陛下にお伝えいたします事などございますか?」


 黙って、首を左右に振られた。


 やれやれ、命を救って頂いた礼を申すどころか、何が面白くないのであるのか。


 これが『‘人’の心の複雑さ』だと言うのであれば、このような余計なものは陛下にお仕えする事に何と不要なものであろう。


 私が、『灰色』の軍服を身に付けた《頭·カプト》の代表として、陛下の筆頭秘書官になってから随分と時間が経った。


 子供の頃のサリュー様を知る先々代の筆頭秘書官に継いで歴代二位の長い時間を勤めさせて頂いている。


 それなりの自負も持っている。



 近頃の陛下のご心痛は、尋常ではない御様子である。


 高潔頂上の存在であられる陛下が、このようにお心の乱れをお見せになられる事など過去に覚えがない。


 それがみな、この方のせいだと思うと、

 なんとも小憎らしくさえ思える。


 ハサミを振り回して自ら傷を負ったという。

 この方の短慮(たんりょ)な振るまいに陛下が顔色を無くされた。


 この方は、陛下のご心配に考えが及ばないのであろうか。


 帝国の頭脳が聞いて呆れる。


「あなた様は、皇帝陛下に遺恨(いこん)でもおありになると言うのですか?


 陛下があなたを、ご心配になっておられるのをご理解できませんか?


 陛下にここまで、思いの丈のままに望まれ何がご不満ですか?」


 ターラン司令は、短くため息をついた。


 閉じた目の端から、涙が流れていた。


 声をあげるでなく、静かに。

 ただ、涙を流されている。


 驚いた。これは困った。


 私がこの方を‘泣かせて’しまったのであろうか。


 陛下もご覧になっているはず。


 これをこの方が、計算でやっているのであったら、

 随分と立派な‘悪女’のようであるが。


 私はあまりの動揺に病室を出た後に、廊下で足を絡ませた。


 病室の前に立つ護衛が、怪訝(けげん)な顔で見ていた。


 ******


 どうにも腑に落ちない。


 このまま陛下にご報告に戻るのに、これは‘気が重い’という感情なのであろうか。


 解せない。


 思い付きで、ターラン総括司令宅の執事という職についている以前の仲間に連絡をとってみる事にした。


 この、わがままに陛下を振り回す‘悪女’の、扱い方のひとつも聞いてみようと。


「筆頭秘書官、あなたはあの方を責められたのですか。

 それは、あんまりではございませんか。


 これ以上、あの方を無体な真似で苦しめるのはお止め下さい。」


 なぜ、私の方が責められなければならない?

 さっぱりわからない。


 陛下といい、この‘耳’として働いていたものといい。


 ターラン総括司令、サリュー様は、どうしてこうも周りの者を(たぶら)かすのか。


 私は、まだ化かされてはいないが。


 この陛下の寵愛深い『化け狸』の、健康を回復する事が陛下のお顔の憂いを払う事だということは深く理解をしている。


 どうせ、口もきかずに寝台の上で療養をしているのなら、陛下のお近くにおれば陛下のご機嫌もよろしいものを。


 なぜ、陛下のお気持ちを逆撫でするような真似ばかりするのか。


 空々(そらぞら)しく涙など流して。


 何とも嫌な気分だ。

 これを‘自己嫌悪’という感情だと言うのだろうか。


 陛下のお叱りをいただくよりも、私は余程この感情の扱いをもて余している。




 ******************[ドクター‘マドク’氏]




「“失語症”?どういう冗談ですか?

 あなた、そんな‘たま’じゃあないでしょうが?」


 短期間で信じられない2度の手術に耐えて、よくぞ生き延びてくれている。


 お陰で、私も少しは安泰になりそうだ。



「今、体のどこが一番きついですか?

 カッコつけないで、正直に答えて下さい。


 これでも、手術させて貰った執刀医ですのでね。」



「口もきけないって、それ薬で喉が焼けてるせいじゃないですよ。」


「まあ、いいですけども。

 後は、どんな不具合が出てますか?


 不具合、あっても当然。

 生きてるだけで不思議なところですから。


 お聞かせくださいよ。」



 ターラン司令は、(しばら)(くう)を見つめてから、紙に書いてよこした。


『みかく


 みぎめ


 あし』



「ほう、なるほど。

 一番きついのは何ですか。」


『おちる』


「落ちる?って何ですか?」


『くすり、うつなる

 まえから』


 (うつ)


 臓器を安定させて体に馴染ませる私が開発した‘画期的’な薬。

 これのお陰で、移植は随分と成功率を上げてきた。


 それが、そんな副作用があったって言うのか?


 そういえば、移植後にしばらくして自殺する患者が多いのは確かだな。


 こっちは、言われた手術を無事に終わればその後は手を離れる。

 術後すぐに死ななけりゃ、こっちの知った事ではないから。


 その後の患者の自殺率なんて数えた事がなかったが。


 多い?どころの話ではないような。


 少し、これは調べて見たほうがいいのか?


 この人が、人よりメンタル(もろ)くは思えないな。


 どっちかっていえば、筋金入りだろう。


「抗うつ剤出しましょうか?」


『いらない

 くすりへらせ

 ほかのことはいい』


 んん?、何で前回に言ってはくれないんですかね。


「あっちこっち痛いより、鬱がキツいって事ですか?

 そんなにですか?」


 司令が、こくこく(うなず)いた。


 あなたの今後に、こっちもこの先がかかってるんですから。

 ちゃんと言ってくださいよ。

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