【パパは相当にかわいそう?】 side ソロ·マケル宰相
サリュー·ターランの《献体臓器》は、時間差で2体作成してあった。
今回、ターランに移植したものは先発で12年前に作成に入ったものである。
それより、5年ずらした後にもう1体の作成にかかってある。
作成の為の研究者の人材、施設設備の規模から、これが精一杯の用意になった。
陛下から、残りの1体のその後をお尋ねされた。
まだ、処分の前であった。
「‘それ’を水槽からを起こして、ドゥーダンの女の居住するところへ運ばせろ。」
なんと、不思議なご命令と驚いた。
サリュー·ターランの《献体個体》は、『灰色』軍服用の成人体として作成された個体とは、はじめから作り方が違う。
《臓器献体》に特化しての製作のために、‘人’にする目的の生き物とは違う物である。
陛下の仰られる様に、人工子宮ポットから出した後に‘風呂上がりの人間が歩き出す’様子にはなりはしない。
さて、困った事よ。
人工羊水液の入ったポットから出すと同時に、《移植臓器》としてメスを入れねば、使い物にはならぬ。
もちろん、知能を持つ脳はない。
臓器の活動を動かす最低限の脳組織を持つだけの、あくまでも‘献体’であるから。
この方法が成功率が高い作り方であるのが理由である。
が加えて、あの者《サリュー·ターラン》を納得させ、ギリギリに譲歩させるところになるやも知れぬという予感があった。
陛下には詳しくお話を伺って、思案をするしかない。
陛下は、今は平常時の御判断がついていらっしゃらないのではないか。
陛下は、あの《サリュー·ターラン》が絡む場合のみ、昔から常道を逸する。
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「陛下、そのドゥーダン提督の‘母’とも言う女の《狂言》であるとは思われませぬか?」
「であるかも知れん。それでもかまわん。」
まず《狂言》を吐いておるのに間違いはない。
ドゥーダンの‘女’の申している事は脈絡もない。
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あのドゥーダン提督の領地であった地と、『ドゥーダン提督の‘母’』が一体化したものであると言う。
ドゥーダン提督自身も、その地で再生され続けて生きながらえて来たものであると。
故に‘母’ではないが‘母’であると。
今回、ドゥーダン提督が最期を向かえる事は、遠からず運命ではあったのだと。
その地の‘母’の力が、枯渇して全ての終わりが近いと。
人間ひとりを《産み直す》には力が足りずとも、《産み治し》成長を促す事は可能であるという。
この、眉唾の話に、なぜ陛下ともあろう御方が耳を傾けたものであるのか。
ターランの大甘の小僧でさえも、
この話を聞いたら陛下をお止めしてお諌めするであろう。
その‘女’は対価として帝国に何を求める?
あえて、対価を求めぬと言うのなら、益々もって《狂言》であるか。
更に別の《策謀》があるのか。
いずれにしても、この帝国と皇帝陛下の災いになる事が他には思いあたらぬ。
さて、困った。
陛下が、このように言い出されたらお引きにはならない。。
幼少の頃から陛下をお側で拝見して来た。
撤回しては下さらぬのは良くわかっている。
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『あの綺麗な‘坊や’にね、
ドゥーダンの事をわかっていただけたらそれでいいのよ。』
それが、ドゥーダン提督の‘母’の対価であるという。
《狂人》の《狂言》に付き合わされるしかないものか。
この件に陛下の御身を害する危険は思い当たらぬ。
ならばそれがせめてもの慰め。
今、サリュー·ターランを病床から動かす事は、直接‘死’に繋がる。
それは、陛下が何よりも望まぬ。
であれば、使いどころのない、《献体臓器》の方を動かす以外にあるまい。
陛下のお心を静める方法に一時はなるのだろうか。
結局は、普通ではない大がかりな移送を行うしかなかった。
たかが、《移植臓器》を殻ごと運ぶ為に、どれだけの苦労を強いられたものか。
施設の動力ごとの移動に、輸送の大型飛行艦の用意に難儀をする事となった。
何よりも苦労をさせられたのは、施設の全てを一度止めねばならぬ算段であった。
作成中の『灰色』の対策に頭を抱えた。
潰してしまうしか手のない事かと肩を落として、ふと思った。
あの、大甘の‘小僧’のサリュー·ターランなら何とするだろうか。
この酔狂に乗ってやるついでに、奴のやりそうな事をしてみるかと苦笑いをこぼした。
製作途中の‘人間’達を、そのままに引き上げて覚醒させる事にした。
成人体に近いものは、それなりに仕事を覚えさせて活用もできよう。
少年期を向かえる者、年端は行かずとも物を覚えるだけに育っている者は、それなりの機関で鍛えよう。
あまりに幼いものは、出自を偽り養子縁組の引き取り先でも求めるか、もしくは孤児として施設に送るか。
いずれにしても、余計な仕事を多く作り難儀する。
事を済ませた後に、この施設を再稼働するのにも、随分と手がかかる。
その手間の厄介さ以上に、事の後の陛下のお心の落胆をどう納めて頂くかを思い、ため息を深くする。
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サリュー·ターランに1度目の移植の施術を施した医者を呼んだ。
「マケル宰相閣下、詮索をするなと仰る通り。
私のようなものが詮索などは致しません。」
「しかしですね、短期間に2度の臓器移植をせよとは。
あまりに本人の負担が重すぎます。
どのような実験であっても、意識と苦痛があるものに、
それは酷すぎませんか。
ほんとうに《皇帝陛下の大事な方》なのですか?
陛下には、そういう痛め付けるご趣味でも……」
「黙れ!
口を閉じよ。
出来るか出来ないかを聞いておる。」
こちらとて、望んでの事ではないわ。
死んだような腐った目をしておった医者の男が、随分と大層な物言いをするようになったものだ。
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結局、ドゥーダン‘母’が『産み治した』臓器は、調べ尽くしても特に問題が出てくる事のない、
《移植臓器》として機能をするものであった。
こちらから出荷した時に、制作7年のものであったはずが、10年ほど成長を加え“17年”ほどに育った《移植臓器》となって戻って来た。
驚いた。が、驚いている暇もない。
「移植手術自体は可能です。
ターラン司令の体がそれに耐えられる体力が今残っているかは疑問ですが。
術中、術後にいつでも終わりになりますね。
薬も強い物を使用する事になりますし。
ただまあ、このままほっといても遅かれ早かれでしょう。
日ごとに体力が落ちています。
危険をご納得頂けるんでしたら。
そりゃ、早い方がいいでしょうが。」
「正直私はやりたくはないですよ。
結果の責任が、これだけ取れない手術はありえませんし。
どうせなら、何ではじめから……」
「うるさい! 黙れ。
最善を尽くせ。
その結果であれば、お前の責任は問わぬ。」
「わかりました。
気の毒なのは、
私よりも‘あの人’の方ですがね。」




