表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/91

【パパは覗(のぞ)き見されている?】 side メルキオーア皇帝陛下

『陛下、覗き見ですか?』


 勝ち気な瞳を持つ力があった時の、‘あれ’であれば、私に言いそうだ。


 サリューの心肺蘇生の装置を取り外し、まだ成長の不足している献体の臓器を移植させた。


 サリューが術後に目を覚まし、意識の混濁が落ち着くまで時間を必要とした。


 目をあわせ、私を認識するまで5ヶ月もの時間を要した。

 私を見つめる目は、悲しげにものを言いたげな様子であった。


 ‘あれ’の頭が悪かろうはずはない。

 自分の状況は理解しているのであろう。


 声を出すようになるまで、さらに一月かかった。


『陛下、なぜ……』


 あれが私に告げた言葉はそれだけであった。


 まだ手足が動かず、握力も無いことに油断があった。


 私がみてはいない時に、脇にあった医療用のハサミを開いて持ち、自分の頸動脈に突き刺そうとしたという。


 気がついた者が叩き落とし、大事には成らなかった。


 だいぶ出血をして、首に跡は残るかもしれぬ。

 もっと鋭い刃物ではなかった事に胸を撫で下ろした。


 目を覚まして以来、私とは言葉を交わそうとはしない。


 怒りであるのか、怨みであるのか言ってみればよいものを。


 サリューの世話をしている側付きの者に、私のいないところで尋ねさせた。


『何が望みだ?命を絶つこと以外はきいてやろう。』


 サリューは、私の(そば)から離れたいと望んだ。


 今は、この近くの軍用の病院に移した。

 以前から、外敵を一切排除するための準備を整え用意がしてはあった。


 そちらの病室で、日々サリューが憂鬱(ゆううつ)な顔で療養しているところを垣間見ている。


 病室に繋いであるモニターからそっと、こちらに画像と音声を送らせてある。


 気分が変わる事にもなれば良い結果にもなるかと、術後にサリューの療養を支えている軍病院の医師が短い面会を許したという。


 体にさわりが無いようにと、ひとりを指定するように本人に問うたところ、マケル宰相の娘を指名したという。


 どういうつもりでおるのか。


 何やら、口に慣れた酒が苦い。



 *************


 覗き見た、仮の夫婦(めおと)は、互いに挨拶の言葉を交わすでもない。


「あなたから、宰相閣下にお願いしてもらっても、………

 だめなん……だろうか。」


 話をするために息を継ぐ事がひどく苦しそうにみえる。


 それならば、マケルの娘などを呼び寄せる事などない。


「司令、あなたのお望みは幕をひきたいという事でございましょう?」


 この女は、何を言う。

 知りもせぬくせに、サリューを(あお)ってどうする?


「あはは、ゴホゴホ。ごめん、やっぱりあなたは楽だわ。」


 ?何を笑うやら。


「ホホホ、無理なことはお分かりでしょう?

 養父(ちち)も、皇帝陛下の御下知(げち)に逆らえるはずなどございませんわ。」


「うん。」


「仕方がありませんから、諦めなさいませ。

 せっかくですから、陛下が‘死ね’とおっしゃるまで。

 ゆるゆるお過ごしになられませ。」


「ひでえ。ミラ様。」


「どうせ、そのお体では、帝国のお役にもたちませんでしょう。

 座してお仕事に戻られるお力がつきまして?」


「…… 無理っぽい。頭に血が廻っている気がしない。

 そこの個室のトイレまで歩くのに、動悸と目眩、息切れ。」


「それは何よりでございますわ。」


 ??(陛下)


「何で……ですか?はあ

 ごめん、ちょっと横にならせてもらっていい?」


「医者を呼びましょうか。」


「だい…じょうぶ。ちょっと疲れただけ。

 横になってはなし…させて。」


「お手伝いいたします。」


「それで……どうして?」


「これでは使い物になりませんでしょう?

 さっさと皇帝陛下に‘お払い箱’にしていただいて。

 《恩賞の休暇》に入られたら宜しいですわ。

 それでも、目障りとおっしゃられましたら、その時に‘幕ひき’をなさいませ。」


「はー。そう言われたら、そう……なんだろうか?」


「今は、外にお姿をお見せになりたくないようでしたら。

 家でゆっくりお過ごしになれば、よろしゅうございましてよ。」


「家?」


「あなた様が、家の雑事をスールに全てをお任せ下さっておりますので、

 私もそれに乗じさせていただきましたの。」


「?ん。と」


「ターラン邸の敷地を買い足させていただいて、お庭を拡げてみましたの。


 マコが

『パパがリハビリに歩きやすく』と、家の中も庭も整えましたわ。


 アロマが休暇で帰った折に、もっとセキュリティ機能を万全に整えると。」


「へえ。」


「いま1つ、勝手を致しました。


 前に御一緒していただきましたあの別荘を


 購入させていただきましたの。


 また、季節のよい時にゆっくりと歩いてみませんか?」


「うーん、そこまで歩けるようには、ならないかも?」


「何をおっしゃいます。


 では、私が車の運転を習っておきますわ。


 司令閣下? 


 あら、お休みになられましたか。」


 マケルの娘が、サリューの布団をかけ直している。


 なぜ、(ほお)に触る。


 熱など、(じか)に測る必要などない。


 お前の居場所が、サリューの帰る場所ではない。


 何を形ばかりに添えた女が取り違えて、家作りでサリューを取り込むつもりか。


 女とは、巣を作る虫や獣と変わらんのか。


 女はやはり汚らわしい。



 *******************



 マケル宰相の娘が、サリューの見舞いをした不快さで、酒が不味く悪酔いをした。


 そのせいであろう、ドゥーダンの夢などをみることになった。


 何やら言いたげに、いつもの人を喰ったような笑みを浮かべて夢枕に立たれた。


 寝覚めが悪い。



 ドゥーダンが、帝国にすり寄って来たのは私が10歳になるかならぬかの頃。


 まだ、サリューなどこの世に産まれてもいない時の事。


 無能な前皇帝を失脚させる時期を待つ間の、

 暇潰しと目眩ましのちょうど良い遊び相手であった。


 ドゥーダンの(まと)う人離れした空気は、奇怪さと妖しさに満ちていた。


 本当に人類とは違う生き物であったのかもしれぬ。


 それにしては、あっさりと逝ったのは解せぬが。


 そういう寿命であったのであろう。


 ドゥーダンの空気を見慣れた後に、私が目にしたサリューには正反対の澄みきった何かを感じ取った。


 まだ年端のいかぬサリューをドゥーダンの前には(さら)さぬように(ふところ)に入れておいたものを。


 ‘あれ’は父親の死後に、あっさりこの帝国を出ていった。


 その経緯(いきさつ)に、私の遺伝子上関わりのある女が原因の一端であることから、(しばらく)は泳がせておいてやった。


 その後に手を尽くして、少し強引にサリューを手元に取り戻した。


 サリューを見たドゥーダンは、猛禽類が舌なめずりをするように目を輝かした。


 私はドゥーダンに対してサリューを守る事はしなかった。

 

 意地や見栄を張った訳ではいない。


 ただ、サリューに対して苛立ちをもて余していた。


 私もドゥーダンに溺れる事がなかったように、サリューも決して私に溺れはしなかった。


 気を許すとすぐに他所の女に気を移し、挙げ句の果てに子供まで作る始末。


 ドゥーダンが暇潰しにサリューに手を出すのを、猫がネズミで遊ぶような風景と

 放っておいた。


 サリューが思うようにならぬ苛立ちのせいであろう。


 私がもう少し早めに、サリューを許し守ってやれば、ここまで‘あれ’の体を損なう事もなかったのであろうか。




 **************



 ドゥーダンに関わる女が、幾度も『助けてやる』と(わずら)わしく言ってよこす。


 初めはサリューに会って話をさせろと要求を重ねて、このような仔細の後は私にまで言って来ている。


 それでいて、女は自分の今の居場所からは動けぬとほざく。


 私に、壊れかけの属国に自ら出向けと要求するのか?


 とうとう、何の狂気の沙汰か、連絡を通す『灰色』を着た者に


『産み(なお)して差し上げる。』


 と、伝えろと言ってきた。



 サリューが私の(かたわ)らにある時であれば、


『皇帝陛下、それは一番よくあるオカルト集団の金集め商法ですって。』


 と、声をあげて笑い転げてみせるだろう。


 サリューの言いそうなカルト宗教に(すが)ろうとは思わぬが、ドゥーダンの夢見の悪さに思い出した。


 サリューを覗き見たついでに、暇潰しに連絡の『灰色』に機材を運ばせ、あの女との通信を一度きりに開いてみるのも一興であるか。


 あの女臭そうな女とは、それ以上は近付こうとは思わん。


 さらに不愉快を増すばかりかもしれぬが。


 胸を塞ふさぐ焦燥感の、慰めくらいにはなるかもしれぬ。


 私は、‘あれ’を失う事を望まぬ。




 *******




 今日は、サリューは病院で、手洗いの前の鏡の前に数時間も無言で立ち尽くしていた。


 先日は、紙とペンを持って来させて、何を書くこともなくペンをただ握っていた。


 つい、暇潰しにサリューの病室を覗き見ると、いつも奇っ怪な様子が映る。


 私は、サリューが以前のように役に立つことを求めているのではない。


 初めから。‘あれ’がただ(かたわ)らに居る事を求めているだけだ。




 **********************


「陛下、サリュー様を御見守りなられて、陛下の玉体(ぎょくたい)(さわ)りがございますのは……」


「お口に合いますものを御用意致します。

 少しお休みになられませんと……」


 長く私の側にいた、『灰色』は、知った風の口をきく。

 もっと若い頃からの‘あれ’を見知っている故、‘サリュー’の名を呼ぶ事もある。


 小賢しい申しように、グラスでも放ってやろうと苛立った目の先に。

 私以上に、苦痛に耐えた顔があった。


 人ではないような者でも、長く側にあれば‘(じょう)’の1つも持つようになるものか。


 ******


 サリューは、マケルの娘に会う用意に、多量の薬を使って平静を(よそお)った。


 反動が一気に来た。


 呼吸の補助器具を装着されながら、体の痛みに耐えている。


 あの我慢強いサリューが、小さく『苦しい』と、涙を流した。


 ‘あれ’は強いわけではない。人一倍‘我慢強い’のだ。


 それを知っていて、これを()いたのは、私だ。


 目を()らす事などできぬ。


 咳き込んだ弾みに、少し血が混じったか。


「ドゥーダンの‘女’と回線を繋がせろ。」


 私の、低い呟きに、『灰色』が黙って(うなず)いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ