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【パパは最悪の患者だった?】 side ドクター『マドク』氏 ▷R 15◁

 最初から嫌いだった。


 いや、大嫌いな奴だった。


 私より、こいつの方が殺してきた人間の数は、比べ物にならないほど多いはずだ。


 爆弾一発で殺せる数と、メス一本で殺せる数は比較するのも馬鹿馬鹿しいだろう。


 それで、普通に涼しい顔で生きている。


 何もかもを持っている上に、‘皇帝陛下の愛人’だと?


 あらゆる場所で嫌われまくってきた私と、随分と違う人生があったもんだ。



 ******



 私は、子供の時から人の‘内臓’が好きだった。


 一族が代々医者と研究者の家の次男に産まれた。


 じい様の隠居部屋に飾ってあった、内臓の標本とホルマリン漬けの内臓を眺めるのが何より好きな子供だった。


 私は、ただ臓器を見る事が好きなだけだった。


 生きた人間を解体する事に快感などは覚えない。


 ただ、人間の体の中に詰まっている臓器をみているのが好きなだけ。


 欲を押さえきれず、祖母の飼っていた弱った犬を裏の納屋で解体した。


 学校に上がる前の6歳の時だった。

 祖母の犬は‘安楽死’させるしか手の無いことがわかった状態だった。


 誉められこそすれ、責められるとは思いもしなかった。


 祖母が大騒ぎをしてから、家族、使用人から微妙な避けられ方をするようになった。


 祖母の犬は、私によって楽に生涯を終えたはずだ。


 それ以来、自棄(やけ)になったわけでもないが、弱った救いのない動物を見つけては、解体をしては燃やした。


 近くの森、時には山に足を伸ばしたり。

 道端で瀕死の動物を見つけては、そっと家の納屋に連れてきた。


 父には、早くに‘精神鑑定’を受けさせられた。


 異常などない。

 やや、物事に固執する性質と判定された。


 大学で、《医学》《生命科学》を修めた。


『移植に関する外科手術』を学んだ時は、自分の為の学問に巡りあって喜んだ。

 いるとは思いもしない‘神様’に感謝しそうなくらいに。


 私は、4人の男兄弟の中でも取り分け優秀な成績だった。

 それなのに家長の祖父も父も、私を跡継ぎにはしなかった。


 そればかりか、辺境の軍病院に、腕を磨けと体のいい放逐(ほうちく)をするように遠ざけた。


 確かに腕を磨くには、最適の場所だったが。


 死にたての人間の臓器がいくらでも手に入る。


 そのうちに、私はそれぞれの固体の臓器を入れ換えて繋ぐ事を試してみた。


 ホラー映画の『マッド·サイエンティスト』の真似ではない。

 怪物を作り出す気はない。


 ただ、臓器が何処まで動くかを、見ておきたかった。


 元来手先が器用だったのか、臓器の毛細血管を繋ぐ技は自分でも、‘神技’ではないかと自負した。


 ‘死体’ではない‘生きた臓器’で試してみたい。


 その想いがフツフツと沸き上がった。

 ちょうど私の書いた『臓器移植』に関する論文が中央で認められた。


 軍の中央の研究施設から声が掛かると、やっと辺境の病院から脱出ができた。


 辺境地でも、家族と同じ目を向けられていた。


 ホッとされて ここでも厄介払いされた事は察しがついた。


 産まれてから、親しい生きた人間がひとりもいない自分でも、その空気は理解した。


 ******


 軍の研究所では、嫌いな生きた人間に関わらなくていいので研究も進んだ。


 そのうちに、地位のある人間の‘臓器移植’に関わる機会が増えて、他の医者よりも卓越(たくえつ)した腕が、重宝がられるようになった。


 深く、秘密裏に私には多くの指名がかかるようになってきた。

 合法の移植だけではなかった事もあるのだろうが。



 いつもの指名で、マザコンの高位貴族に、その母親の‘臓器移植’を命令された。


 年寄りに、移植に耐えられるかどうかの経験を持ってはいない。


 戦場の死体に、老婦人などいるはずもないから。


 嫌な予感しかしなかった。

 最初から成功率の低さは明言しておいたはずだ。


 案の定、高位貴族のばあ様は、移植そのものの失敗ではなく、その前後の投薬に耐えられずに死んだ。


 移植時に使える薬の研究も重ねる必要が新しい課題と腕を組んで考えて。


 その矢先、その高位貴族に母親の死の責任を取れと圧力をかけられて、軍の病院·研究所での身分を失った。


 以前にいた辺境病院での《私の所業》をあること無いことをでっち上げられて。


 この帝国で、軍の病院から切られた医者に、民間の病院ましてや研究所では席があるわけもない。


 自分が一番やりたくはなかった、身内に頭を下げて。


 どうやら雇って貰える病院で医者として働き出した。


 そこらの医者よりも、メスの腕には自信もあった。場数が違う。


 ところが、どこの病院でも、手術に行き着く前に、

 患者に嫌われ、周りの医者、医療従事者に嫌われまくりった。


 結局は辞表を叩きつけるか、首になった。


 何度かそれを繰り返しているうちに、親兄弟に縁を切られたらしい。


 もともと、縁というもが理解の他だったが。


 腐っていた俺を、『灰色』の軍服の目付きの鋭い男達に取り囲んだ。



 ******************



「余計な詮索(せんさく)は要らぬ!」


 この人の、顔を知っている。

 帝国宰相のマケル宰相だ。


 どういう事だ。

 私なんかが軍を首になった一件に、宰相が出てくるはずはない。


「お前は、まだ自分の腕を生かしたいか?

 人の‘臓腑’に血を踊らせる(たち)であるなら、仕事をやらんでもない。」


 不審だらけだが、戻る場所もない。

 今さら、失うものもない。


 黙って、(うなず)いた。


 研究室と手術室のようなところに連れて行かれた。


 手術室には、2体の‘脳死’状態の壮年の男が‘置いて’あった。


「お前の腕をみたい。」


 私はその場所で、2体の臓器を入れ換える‘実験’を行ってみせた。


 助手についた医療従事者達は、今まで会ったこともない優秀さだった。


 無表情で、手際がいい助手達が。

 私には、とても居心地がよかった。


 その後もなぜか、次々と‘実験体’が供給された。


 ひとつの失敗もなく、かなりの数の実験をこなした。


 その後の第2段階では、双子の男達が現れた。


 生きた人間の双子の男。


 この双子の‘臓器’を入れ換えてみろと言う。


 夢をみているのではないかと思った。

 私にとっての『夢のような』世界だ。


 それからは、夢の世界で心ゆくまで無双をさせてもらった。


 次々現れる双子の男の、色々な臓器部分を入れ換えたり、複数部分を入れ換えたり。


 最終的には、双子のほとんどの臓器を入れ換えても、双子の男達に何も不具合が無なくなった。


 それでこの‘実験’の最終段階を迎えた。



「ひとりの人間の‘臓器’移植を完璧に終わらせる事ができるのなら。


 秘密保持の約定の上、

 この先のお前の研究への援助と身分を保証してやろう。」


 宰相の言葉に、(うなず)く以外の選択肢などはなかった。


 初めに『詮索をするな』と言われていた。

 だから、かなり上の人間の手術なのだろうとは想像がついていた。


 まさかとは思うが、皇帝陛下そのものではないだろうな。


 それならば、事が終わった後に消されるに決まっているだろうと、寒気がした。


 違った。


 その、皇帝陛下の『大事な人間』であると言われた。



 寵妃かとおもったら、男だ。


 しかも、よい年の。


 帝国で、軍事面、設備機器、軍用機材の功績の大きな人間であると言うが。


 皇帝陛下が、そこまでして生かそうと言うのは、どういう男だろうか。


 私が言うのもおかしいが、ここまで手を尽くすのは尋常の事ではないだろう。


 生きた人間の臓器以外に興味を持った事がない自分でも、少し興味をひかれた。



 *******************



 私は、主治医だ。


 それも、臓器移植を施して生かしてやろうとしている。


 その私が、なぜ患者にカウンセリングを受けさせられているんだ。


「へえ、じゃあ承認欲求は持っている訳なんだね。

 ドクター·マドク氏?」


 臓器移植を受けさせる患者の男は、サリュー·ターラン。


 帝国の統括司令の地位であり、皇帝陛下の唯一の‘愛人’であると宰相から、

 何事でもないように告げられた。


 人に感心がない私でも、驚いた。


 ‘愛人’様に、こちらから名乗る必要もないと思っていたら。


 勝手にその愛人が私に仮の名をつけて『ドクター·マドク』と呼び出した。


 マッド·サイエンティストならぬマッド·ドクターの略だと言う。


 胸くそ悪い。


 私は、人そのものに興味がないため、人自体に腹をたてた事がない。


 他人が自分を望まない環境に追いやった事は不愉快だが、‘怒り’の感情ではないように思う。


 それなのに、この男には本当に腹が立つ。


 会うたびにイライラさせられる。


 一番腹のたつ事は、本人が‘臓器移植’を強く否定している。


 これだけの準備をさせて、それを言うのか?


 秘密裏に事を運べと、上からの命令がまた邪魔くさい。


 それどころか、本人が生き延びようとはしていない。


 むしろその逆で、さっさと終わらせて逝きたいような気配さえ濃い。



 仕事の無茶無理を繰り返す。


 少しじっと療養して、治療に専念すればまだしも。

 療法も私の言う通りには行わない。


 仕事、仕事とどうしてそう生き急ぎ、死に急ぐのか。


 これで、私にどうすれというのか。


 サリュー·ターランは母親の胎内での被爆と傭兵部隊での無茶苦茶な生活で、あちこちに《臓器不全》を起こしだしていた。


 確かにこのままでは、近いうちに体内の臓器は活動を停止するだろう。


 どこが真っ先に止まるのかを見てみたい気もするが。


 しょうがない、自分の安楽な研究生活を手に入れる為に生かしてやろうか。


 メンテナンスで私が必要なうちは、私が消される事もないだろう。


 *****


 そこにまた、問題があった。


 不思議な双子が出てくる事に、もう詮索をする気はない。

 まあ、医学の素人ではないから‘クローン’だろうとは察しがつく。


 この‘愛人’様に用意する為の双子の用意が間に合わないと言う。


 移植用の双子が育ち上がる前に、移植先の‘愛人’様の命の期限が切れそうだと。


「この先、移植臓器の完成にどのくらいの時間がかかる?」


 これは、詮索ではない。必要な質問だ。


 2年ほどのタイムラグがあり、間に合わないと聞かされた。



 それならば、最後の手段と私が提案をしたのは。


「眠らせて、時間を稼ぐしかないのでは?」


 1度実験をしてはみていた。


 ‘愛人’様を少し故意にひっくり返させて、具合が悪くなっている間に

 一月ほど、深く眠らせておいた。


 ちゃんと、復活も出来ていた。


 何だか、その時に彼を眠らせておきたい思惑も他にあったようで、上手く事は運んでいた。


 最後の仕上げに、2年ほど‘移植’可能な時間まで眠らせればいいだけの段取りは出来ていた。


 そのタイミングでわざわざ、《心肺停止》になられては、眠らせるどころか永眠させる事になる。


 生命維持装置を切って終わらせてやるか、育ちきっていない臓器で移植をするか。


 2つに1つ。


 他人の臓器の移植では、移植しなければならない臓器の数と本体の弱り具合で無理だ。


 その上、彼は人種的な適合が難しい。

 帝国と他のところが混じった産まれだ。


 ほんの少し残った‘医者の良心’を無理やり引っ張り出すのなら、未発達の臓器で苦しむ延命よりも、楽にしてやった方が正解のように思う。


 何より、自分がその立場だったら、迷わずそうして貰いたい。


 私の意見など、誰も尋ねるはずもないが。


 結局は、『皇帝陛下の』ご命令で、私が彼を地獄へ招く手術を施す事になった。


 これで、私の立場の(しばら)くの安定は手に入ったが、メスを握って‘後味が悪い’と思ったのは、これが初めてだ。

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