【パパは死んじゃった?】 side ガレット大佐
そういえば、ターラン司令。
この人は前に、冗談とも本気ともつかない口調で
『俺さあ、狐君。
本当は、大学で教鞭とったり、研究したかったのによお。
何で、軍服着てるんだかなあ。』
と、ぼやいていたことがあったな。
確かにこの人、そういうの上手いわ。
今回のこれはびっくりした。
今日は、《最終確認》だということだ。
司令の作った大会議場に帝国の重鎮が勢揃いだ。
『紺』軍服の将軍職以上、下は准将から、上は上級大将まで。
現在この帝国には、元帥閣下の存在はいない。
以前に皇帝陛下が、ターラン司令に元帥位を授けようとなさった時に
『年寄り臭くて嫌だ』と司令が蹴った。
という話が都市伝説になっている。
本人は手を振って否定して笑っていたが。
俺は満更、嘘でもないような気がしている。
この人なら、言いそうだ。
その『紺』側の将軍職の皆さんと、その幕僚のうちの2名まで。
『灰色』軍服の方は、階級がそもそも俺らには、良く分からんが。
数は、『紺』の半分位だろうか。
きっと高位の『灰色』なんだろう。
目付きも鋭い連中が座っている。
ターラン司令が何をおっ始めるのかと思ったら。
こりゃ、勉強会だな。
会議場で、会議じゃなくて。
お勉強をさせられるんですかい。
モニター画面に追加した巨大サイズのスクリーンに次々と映し出されているのは。
この銀河?どころではない領域だな。
そこで、繰り広げられた、数々の争乱の概要とデータ。
内乱、侵略、いわゆる戦争の博覧会だ。
不思議な事に、仕官学校の教科書に載っているような、見覚えがある戦争ものがひとつもない。
その辺の図書館の戦記物語でもなく、どれも聞いたことがない。
しかも、近代戦争だろうな、これ。
年配の将軍閣下のお歴々が、ターラン総括司令に対して初めは『何を若造が!』という顔を隠そうともしていなかったのが。
いつの間にか、スクリーンと手元に送られるデータに釘付けになっている。
ターラン司令が話をした。
『これは、全てノンフィクションとお考えください。
正確な固有名詞は……話せる場合はお答する事もできますが。
なにぶん、仕事上の“仁義”のようなものもありますので、全部開示するのは控えさせて頂きます。
若造が産まれてからこちらの、時間がたっていない間の事とお考え下さい。』
30分に1つの割引で、画面上に起こる戦争。
それに対して、もし攻められた先がこの帝国だった場合を当てはめて、議論を詰めて行く。
次第に、司令がこの会議場に本来求めていた、《階級にとらわれない白熱の議論》が起こる。
1つの争乱に対して、この帝国軍としての対策が出尽くしたところで、実際の戦争の終結、帰結。
その解答を、種明かししていく。
「おおー!」
という声があちらこちらから上がる。
お約束のように、実際の戦争は教科書通りには運ばない。
不確定要素を、どこまで先に見つけられるかが鍵になるわけだろう。
それを暴き出す為に、いつの間にか『紺』『灰色』で手分けをした情報処理を行うようになっていた。
手元に送られたデータの中から、読み取れる要素に目をこらす。
地形、気象、周辺の政治状況、人口構造、宗教、そこの歴史、軍事力、経済力。
引っ張り出すと、ひとつひとつの戦争の後ろに壮大な情報がちりばめられて。
物語の伏線のように、関係があることだけが羅列されているわけではないので、どれが鍵になるかは分からない。
ただ、真実だけのデータが並ぶ。
これは、どうやって用意をしたんだろう?
その後に、『紺·灰色』が擦り合わせていくことに慣れ始めた頃に、だいぶ帝国軍を勝利に導く事が多くなってきた。
会議場の熱気は、スポーツ観戦の熱気などとは比べ物にもならない盛り上がりだ。
皆さん戦争のプロ中のプロである。
猛獣の前に大好物を放ってみせたようなもの。
だんだんに、奪い合うように己の戦い方、守り方を叫びだしていた。
各々の性質まで透けてとれて、それはそれで面白い。
鳥肌が立つような面白さ、てか戦争ごっこでそれを言うのもヒデー話だけどな。
その上、色んな戦争に‘この帝国が巻き込まれた時’の想定をさせるってのはどうよ。
一時代前なら、それだけで首と胴体が離れちまうような騒ぎになるんと違うのかね。
前の皇帝の時代なら『帝国を愚弄した』ぐらい軽く言われてそうだがよ。
まあ、この人だからそういうのも関係ないのか?
今の皇帝陛下の、一番のお気に入りっていう世間の噂は、満更ふかしでもなさそうだしな。
現にこの人、それだけの事やってるもんな。
やることやって‘お気に入られるん’なら、そりゃ道理ってもんだ。
にしてもすげーよな。
ここに上げられた争いのデータはゲームではないんだろう。
これは実際に、この人“ターラン司令“が自分の目と手足を使って、歩いて来た“道程”ってことなんだろう。
この人は、そういう人だ。
こう言う場面に、ペテンのようなものは差し出さない。
なんというか、この人には、どこか《昔の聖騎士》のようなところがある。
そんな、こっぱずかしい事を、司令に言ったら最後。
どんな事になるかわかんねえから、言わねえが。
普段の、チャラけた態度が照れ隠しとも思わんが、あれはあれで本当なんだろう。
この人との付き合いで、そういうのは何となく分かってきた。
今、俺は‘伝説’に成りそうな時間を目の前にしているのかもしれない。
ここに映し出された数々の争いを前にして立つ、今よりも更に若いサリュー·ターラン司令の姿を思い浮かべた。
想像しただけなのに、不覚にも目の奥が熱くなった。
狐と言われているこの俺が。
そのターラン司令から声が飛んできた。
「おい、ガレット。てめえ、あくびしたんだろう?
涙なんか拭きやがって。
今の、聞いてなかったろうが。
おい、お前なら、この分断されてる補給をどうするよ。
言ってみろ?」
あやや。参ったぜ。
会議場中の視線がこっちを向いちまって。
しかも、みんな俺を『てめえ、ふざけるな!』と糾弾している顔をして。
すげーな。この人。
この短時間に、ここにいる人間を‘教育’して、
結局は《落としちまった》ぜ。
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3時間に一回は休憩に入った。
流石に、ぶっ続けはなあ。
高齢者も多いしな、端に救急対応できる医療班が控えているのが笑えるぜ。
休憩の度に、司令は別室に引っ込んだ。
皆さんとは別に食事とかしてるのか?
休み時間まで捕まって質問責めに会ったら、たまんないだろうから。
しょうがないだろうしな。
司令は、休憩が終わると、風呂上がりのような少しのぼせた顔で戻って来る。
休憩中に何してんだ?
熱でもあるのか?
どっかの馬鹿貴族みたいに、別室でお姉ちゃんに接待させる趣味はないだろうけどな、この人に限って。
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2回目くらいの休憩中に、俺達·ターラン司令の幕僚の暫定4人と、頭脳班のトップ4人のオモチャ作りの変人が集められた。
『バ·ゴ·アスと狐、ちょっと顔貸せよ。
ももちゃん達もね。
知らないおじさんがいても俺がいるから大丈夫だからな。
みんな味方だよ。』
将軍方の特に上位の上半分くらい、大将、中将が集まって休憩中の部屋に連れていかれて紹介されるって、なんだよ。
ほんと、今日はこの人のやることがよくわかんねえなあ。
うちの統括司令は、ざっくりしているようにみえて、意味がないことは言わない、やらない。
その点は、結構緻密な計算をして神経質なくらいのところもある。
俺たち周りの人間は、それがよく分かっているから黙ってついて行った。
「この機会に、うちの幕僚と頭脳を紹介させて下さい。」
じいさんやら、少し若いじいさんやらが、不思議な顔でこちらに注目を集める。
他の将監に自分のところの部下を紹介する奴なんて、あんまり聞いたことがないしな。
この人、低姿勢が過ぎるんでないか?嘗められねえか?
マケル宰相のところから出向して来た‘秘書官’様は呼んでないのか。
「財務関係のプロ、『計算機』のバルバ中佐。
必要とする金、物品を瞬時に計算してリストに上げる事ができる。
帝国で一番計算が出来る男とその能力をかっております。
女に手が早いのと同じ速さで、物事の計算を瞬時に叩き出します。」
「ぶっ壊しの破壊神、ゴーラ大佐。
どんな空間、どんな建造物でも、全て効率よくぶっ壊してくれる名人。
こちらの戦力、兵器の損傷を最小限に動かすケチぶりと同じく、
俸給を貯めまくって一財産作っているらしいと。
もっぱら仲間うちで評判です。」
「法務のアスカン中佐。
帝国軍法に限らず、かなりの関係のない方面までの法務が頭に入っている。
いわゆる、法律‘おたく’?
人の足を引っ張る奴の裏の裏をかくのが‘趣味’?らしいので、
実益と趣味が合致していて羨ましい事で。
うちで、唯一の妻帯者で激務の中でも家庭を持っている奇跡の男と言われております。
ありゃ、俺も今は妻帯者だから唯一は違うのか?」
「で、世の中斜めにしか見てない男がこのガレット。
‘やらかした’事があるから、結構な有名人でしょう?そちらでも。
今度、こいつは准将に上げておきます。
こんな狐野郎でも、俺の懐刀にして重宝しております。
昔の事はお目こぼしいただいて、今後とも可愛がって頂ければありがたいです。」
おい、色々変だぞ!
俺が?准将だ?
末席でも、将軍職に、軍法会議で有罪判決もらった俺が?
今だって、高位に上り過ぎて同期の奴らの妬み嫉みの嵐だぜ。
『ターラン司令の下で働けるのは羨ましい。』と、言われるのは悪い気はしないがな。
人使いの荒い、すげえブラックな職場だぜ。
一番働いているのは、あの人自身だけどな。
自分のところの幕僚を、他に貸し出す気でもあるのか?
でなけりゃ、みんなで並んで‘ご紹介’ってのはないだろう?
他とつるんで仕事をする度に、‘ご紹介’をする慣例なんかないだろうよ。
だいたい、俺達みたいな癖の強いのを使いこなせるのって、司令·あんたしかいないだろう。
俺たちだって、今さら司令の下以外で働こうとは思わないぜ。
なんだろうな、これは。
その後、頭脳おもちゃ軍団の、ざっくり説明があった。
主に、何が得意であるとか。
人に‘上手く使われる事’は、上手くはない。
という、分かったような分からないような説明で。
『この連中が、天賦の才を開いた場所が、
この帝国であった事を幸いと思うように。
諸将の皆様にもお導き頂きますようにお願いいたします。』
何で、そこまで低姿勢に頭を下げるかね。
今さら、司令にどうこう言うようなアホはここにはおらんだろう。
まるで、娘を嫁に出す‘お父ちゃん’かよ。
何でだ?
***************
1日で終わらせるには、なかなか強行軍の日程をどうやら終わらせて。
俺たちは、慣れているからいいけどよ。
ターラン司令の元でのむちゃくちゃな強行突破は毎度の事だからな。
普段、優雅に働いてる将軍閣下様達には、流石にきつかったかもな。
疑似戦争を走り回って、放心状態の面々がぞろぞろと帰って行った。
後半、ターラン司令がやたら咳き込むのが気になったが、
仕掛けた当の本人の司令が一番疲れるわな。
そりゃ声ぐらいは枯れるな。
そのかいは、あったんじゃないのか?
『紺·灰色』軍服軍団、共同戦線はかなりの連携をとれる見込みがありそうだ。
実戦でどんなもんだかは、また未確定だがよ。
これは、やっとくのと、やっとかないのが大違いな‘訓練’だったよな。
何より、面白いものが見物できて腹がいっぱいだしな。
やっぱ、この人の側は、面白いものが見られるよなあ。
癖になっちまって、抜けられないよ。
最後に、司令周辺と見知った将監が会議場に残った。
司令が、会議場をゆっくりと見回して。
いきなり、ふらっとして倒れたのが目の端によぎる。
危ねえ!何やってんだよ。
近くにいた、『灰色』が司令が床に転がる前に受け止めた。
何だ? 『灰色』軍服だけではなく、医療班の連中がやけに多くなっていた。
いつの間に?
俺も考えるよりも、先に体が動いて。
司令に駆け寄った。
だから、あんたは、むちゃくちゃしすぎんだよいつもいつも。
ああ? んん!!
おい、司令あんた、”息してないんじゃないか”?
過労で倒れたからって、息はするだろうよ。
どういう冗談だよこれは。
俺たちを司令から遠ざけるように、『灰色』の壁が出来た。
と思ったら、医療班がターラン司令をストレッチャーに乗せて。
司令はあっという間に運ばれて行った。
その間、数分?
何だこれは?
その場に残った幕僚達、馴染みの将監みんなが‘狐に摘ままれた’ようだった。
息をしてない?ってのは、普通“心肺停止”って言うやつだろう、これ?
嘘だろう、おい。




