【パパはゆっくりしてたらビックリ?】 side サリュー
以前に使っていた執務室のある建物の会議室に来ている。
部下が集めてきた情報の報告を受けるため。
本来なら、間抜けな広さの全員集合用の会議室で話を聞かずに、自分の執務室に呼べばいい事。
だって、呼べないじゃないか、勝手に引っ越ししちゃた陛下の宮殿の中の執務室になんてさ。
部下を入れられない執務室って、今ブームになりそうな目指せ!‘理想の上司’が初っぱなからつまずいてるよ。
うちの幕僚の内の腕利きで、先乗りして情報を集めて、根回しを得意とする名付けて‘狐’さんチームの頭。
各方面から‘人でなし’って呼ばれてる奴です。
先日’大佐に昇格した。
名前は『ガレット』大佐。フォックスだったら分かり易かったんだけど。
変えてくんないかな?
昇格させたら、結構あちらこちらから非難ごうごう。
でも、うちは実力主義だから、仕事の出来ない人格者よりも、出来る‘人でなし’の方が仕事がはかどるんだよね。
部下が自分の采配で動き易い方が瞬発力があって、速攻で対処できるから。
それ相応の決裁権を持っている方がいいしね。
それには、相応の階級が助けになるからさ。
ただ、今後軍法会議に引っ掛かるようなドジ踏みやがったら、上の俺まで泥を被るからな。
その時はわかってんだろうな?と、丁寧にお願いして(脅して)おきました。
この狐ガレット大佐、一度‘仕事熱心過ぎて‘人でなし’が度を越して軍法会議で軍席剥奪になっていた。
酒場のゴミ箱の横で腐っていたところを、引っ張って来た。
今日はそのフォックス大佐、間違った!ガレット大佐と、その部下達に話を聞くため。
俺が、こいつらの力をかっているのは、情報収集の深さ。
‘盗み聞き‘’盗み見’で終わるのではなくて、むしろそれは前哨戦。
人間の直の生々しい表情から、けっこう良い情報を拾って来る事が多い。
俺は、命第一で、戻って来ることを優先って常々言ってる。
命捨ててまで、とって来なけりゃならない情報なんて、そんなにあるもんでもないって。
他所と比較するのは意味がないのはわかっている。
あえて、その馬鹿な比較をしてみせるなら。
宰相閣下の部下の『灰色』部隊のネズミさん達は、とにかく数が多い。
多い原因の《人間育成のポット》を目にして、腰を抜かしそうになって、納得したけれど。
マケル家で作られた皆さんは、ホントに命知らず、どころか命‘要らず’で、立ち向かう。
普通の情報とりの人間の比ではなく怖いもの無しで仕事にあたる。
その気味悪いくらいの突進力に、俺ちょっと疑っていたりしてる。
頭を弄って、恐怖心を少しカットするコントロール入れたりしてないか?
人材物量作戦みたいなもんだし。
俺は宰相閣下と張り合っている訳ではなくて。
その点は、本当の本当に違うんだよね。
欲しい情報がちょっと違う方向だから。
例えば、宰相閣下の配下の凄腕『灰色』潜入捜査員が、相手の裸まで調べ上げて来るとする。
でも、俺が欲しい情報はその裸を見られたら‘どう思うか’を嗅ぎとって来て貰いたい?みたいな。
うちの幕僚の狐さんとその部下達は、すごく人間の臭いを嗅ぎとる。
自分達が、ここへ来るまでに、いろんな人間の裏にぐるんぐるんに巻き込まれて、たまたま死に損なって危なかったね。で、たどり着いて来ているメンバーだから。裏を実体験してるわけ。
‘裏を見た事があるだけ’の『灰色』さんとは、ちょっと違ったひねくれ目線で、もう一枚皮をひっぺがして覗き見してきてくれる。
特に先発で根回しに回る時は、密かに潜入ではなくて、強烈な個性を放って入り込んでかき回して良い具合に場所を温めておいてくれる。
行った先で、あちらこちら(主に酒場やら·いかがわしいところ)ですでに有名人になっている事がしょっちゅう。
絶対に仕事としてではないだろう?と一発はかますが、やることやっていればオッケー。
俺が、欲しい腕はそっちだから、お互いに上手くやっているんだと思うよ。
本人達が俺の方をどう思ってるか知らないけど、ちょっと理想の上司風。
今日だって、『おせーよ!もうアン帰っちまってからなんだよ!』
と、言いたいところを、まあ半分個人的な案件でもあったから、にこやかお迎えしておりますよ。
今、何で理想の上司ブームが来ているかと申しますと、エヘヘ。
先日、いつもの『紺』上級将校ルームで、アンの寄港で色々ご迷惑をかけた方達にご挨拶していた時に、真面目な話を始めたおっちゃんがいらして。
『最近の、佐官·尉官の1部のパワハラ行為は目に余る。何か対策はないだろうか?』
今さらの事かよ。どうした?急に良い人アピール?
それがない軍隊って見たことねーよ。
と、思っていたら、いきなり何で俺に振るよ?で、みんなが見るからつい。
茶化したんじゃなくて、ちょっとお酒を軽く飲んじゃってたのもあって。
だって、最近やっとマケル宰相閣下に言いたいこと言えてホッとしたりしちゃって。
「そんなの簡単じゃないですか。無記名で《理想の上司》投票選挙でもしたら一発ですって。
パワハラするような気のちっちゃい奴は、人目気にして急に愛想振り撒きますって。笑」
「?傭兵部隊ではそのような事が行われていたのかね?」
結構年配の中将の階級バッジつけてたおじさんが聞いてきて。(俺って人の顔を覚えようとしないと全然覚えられないから。)
「まっさかぁ。
傭兵部隊は口が悪かろうと、手が早かろうとそんなの全然気にする奴いませんから。
有事に実力があって、判断力で仲間を生きて帰す力があれば別に何でもいいですし。
そのかわり、力も頭も無いくせに、上から押さえようとする奴は、なぜか朝になると冷たくなってたりして?
だって、馬鹿に指揮されたら、生きて帰る確率とことん落ちちゃうでしょう?
俺は手を下したりしたことはないですよ。
傭兵所では、これでも坊っちゃん育ちの枠だったんで。」
クロさんが、フォロー?に入ってくれたのかな。
「またまた、冗談ばっかり言って。ホント酒飲むとよお。
知らない人が聞いたら、本気にするぞ?
サービストークもほどほどにしとけって。」
ええ?冗談言ってないし?
そしたら、それを小耳に挟んだ若い連中が非公式で、《理想の上司無記名投票》始めちゃった困ったちゃん達がいるんですと。
そいつらすぐに、始末書を書かされて解散になったらしいけど。
まだ、地下で続いてるらしいって噂が蔓延している。
みんな、自分が何位の‘理想の上司’かちょっと知りたいらしいよ。
下馬評も出ているし。
お互いに、酒を飲みながら、『いやいやあなたこそ』『いやいやとんでもないそちらこそ?』
美人コンテストの水面下競争かよ?笑える。
と言うわけで、絶賛理想の上司あちらこちらで開催中らしいです。
************
今回、情報集めに手間取って、報告が遅れたのはひとえに《後宮》という特殊な場所の機密性によるものだった。
そりゃそうだよね。
《後宮》の中に男は入れないもんなあ。
外部からの修繕、工場仕事に男手が入る場合も身元の審査が厳しいだろう事は、想像が出来る。
狐大佐部隊は、ほぼ男が多い。
女性も数人大佐が引っ張って来ているが、目立たない初老の女性を入れている。
彼女は体力的に、大立ち回りをするメンバーにはカウントされてないだろうし。
俺は采配はほとんど、部下に任せている。
ガレット大佐の‘人でなし’は仲間うちには人でなしを発動しない。
身内をあえて使い潰す真似はなさそうだし。
一度だけ、口を出して、ガレットとやりあった。
まだ、この帝国の成人18才に届かないどころか、働かしたら児童虐待にあたるような女の子を連れて来たからだった。
俺、子供を仕事に使うの嫌いなんだよね。
すったもんだ狐ガレットとやりあって、掴み合い寸前まで揉めに揉めて。
結局は、その少女をガレット大佐の下に置くことを認めた。
俺がこの帝国を出た時と同じ年の14才の少女が、外に落ち着く場所を見つけられそうも無さそうだったし、何より本人がそれを望んだ。
今回は、この女性陣2人が《後宮》の中で動き、他は繋ぎと市井の中で情報を集めにかかったという。
皇帝陛下のお側近くにある『灰色』軍服に、女性が居たことは、これまでは一度もなかった。
今もうちの差し色マリンブルー以外のところに女性は全くいない。
うちはみんな軍服着ていないけどね。
《おもちゃ》作りチームの方にも、特殊な能力は男性に特化している訳ではないので、女性も混じっている。
初めは、皇帝陛下もあまり良いお顔はして下さらなかった。
ご機嫌の良いときを見計らって、
「陛下の今お手にされているグラスも、グラスの中身のワインも男性だけで作っているとは限りませんよね?
ワインの葡萄を踏み踏みしているのって、娘さんやらおばちゃんの方が多いんですって。
調べて来ましょうか?」
陛下に嫌なお顔をされたけれど、俺も無理やり飲まされていたから無礼講。
「陛下のお召し物も、寝具を縫った者も、カーテンも、浴室のソープも、そちらの皿の野菜も、チーズも… 」
そのあたりで、陛下が吹き出して手を左右に振られて。
「もう良い。」
と、おっしゃった。
ただし、俺に
「女の匂いを決して纏って来るなと。」
と仰せになった。
どっかの貴族令嬢でもあるまいし、香水の匂いをプンプンさせている部下などいないのだけれど。
ちょっとした化粧の匂いも陛下は嫌われると世話をしている『灰色』さんから聞いていた。
女性の部下と接した後は、シャワーで匂いをとってから御前に上がるようにしている。
それほど面倒にも感じない。慣れているので。
昔、マコがまだ‘心的外傷後ストレス障害’から抜け出せないでいる時に、うっかり軍服で銃を使った臭いを残して帰宅した。
マコがその臭いに反応してパニックを起こしてから、家に帰るときは必ず汗を流して私服に着替えて戻っていたので。
着替える場所を探して右往左往していたあの頃に比べると雲泥の差。
全然だよ、何でない。
***********
狐部隊からの報告を精査した。
妹のアンムートがこの間言っていた、
『ちゃんと自分で有るところを見つけて生きているから。』
の意味を合点した。
国の文化の体質で《魔女》が神秘性を持って受け入れられる場所もあったんだな。
音を‘聴く’事が得意な、アンなら、相手の言葉の音の中に隠れた真実、嘘も誠もかぎ分けるのかも知れない。
横でアンを愛おしんでいる者の力になろうとするんだろう。アンなら。
人の声音だけではなく、自然の音も聴こえて来るって、レベルアップしたのか?
よくわかんないけど。
俺とアンがこの帝国を出た後に、風の噂を聞いたらしい母の一族が、俺たち兄妹に手を差しのべようとしてくれる人達もいた。
あっちこっちの偉いさんのセカンド·サードワイフさんが接触をしてくれた。
アン兎をサバンナのような世間に1人で残して仕事に出掛けられないので、俺が留守の間に小さかったアンを預ける所が出来て、ずいぶん助けられた。
それでも、アンと違って俺は、どうも母の一族としっくりこない所があって。
きっとそれは相手にも同じ事だったんだろう。
《母の一族は、基本自分で戦わない》
何も野蛮に武器を持って戦う事だけが戦うって事ではないからさ。
人って生きているだけで、日々何かと戦っていないか?大なり小なり。
母の一族は、みんな静かに怯えたように流されて、寄生するように生きる。
時々、寄生主に恩を返す能力が出るものもいて、大事にはされていたように見えた。
けれど、決して自分の足で大地に立っている様子がない。
小動物が、危険を回避して生きる為に手に入れた小さな能力。
それがたまたま人間にも備わった、そんな印象がした。
良い悪いの話ではなくて。
ああ《水が合わない》ってこういう事を言うんだろうな。と思った。
俺は、親父もだけど、お袋様とも《水が合わない》同じ水を飲んでいたのに。
親にしたら迷惑な息子だったんだろう。
********************
「どうする?お声をかけた方がいいか?
今日は、こちらの司令の寝室に、採血の検査が入る予定で。
朝一番に来る予定になってはいるが。」
「流石に、針を刺されたら、お目覚めになるんではないか?
昨夜も遅くにお休みになられたようだし。」
「そうだな、もう少しご様子を拝見するか?」
いつもお世話をして頂いている、白シャツさんが2人で‘こしょこしょ話’をしているのが聞こえているけど。
うとうと寝たふり、贅沢天国。
すごーく、頑張ってマケル宰相閣下に、言いたいこと言ったら憑き物落ちた?ように気持ちが楽になった。
俺って、小心者なんだよねぇ。
誰も気付いてくんないけど。笑
気持ちが軽くなったら、急に《サリューのおもちゃ》製作に拍車がかかって、頭の中がポンポンに数字だらけの危ない人になっています。
転んだらその拍子に口や鼻から数字がこぼれそう。
とりあえず、超高速の小型艇。
大型船舶をいきなりは難しいから。
やっぱり‘早い’乗り物ってワクワクの夢だよね。
男の子だからさ。笑笑
武器、攻撃機材はあんまり作ってないなぁ。こっちに買われてからずっと。俺。
特に強要もされた事もないから、好きにさせて貰って助かってる。
これが、‘甘やかされている’って事になるわけ?かな。
時々聞こえて来るけれど。
でも、本当に俺が作りたい物は、‘橋’とか、物流改革のできる‘シュートとか運河’ぴゅーって物が運べる便利なシステムと通路?。
あとは、みんなが気持ち良く暮らせる‘住居区丸ごと’の生活に密着した物なんだけれど。
軍服で俸給貰っているから、‘橋’ではなくて、連結戦艦になったり、‘住居区’ではなくて軍事要塞になっちゃったわけよ。
もし大学に残ってスポンサーを見つける事が出来たとしても、これだけの予算を使っての物作りするのは無理だった。
だから、これはこれで。満足しなきゃね。
この頃、《未練なく死ねる》幸せを思ったりしてる。
お化けになって出て来なくて良さそうです。
『本当はあんなのこんなの作りたかったのに』って泣き言お化け。
絶対に作ってから逝きたいのは、『気象連結型の防衛幕』
名付けて、《オーロラ·システム》って感じかなぁ。
ずっと前、ユニに行きながらの危ないアルバイト時代の事。
大型の人工衛星形の軍事要塞の内側に潜入した事があって。
映画の主人公みたいに、爆発させちゃうような大仕事ではないよ。
ちょこっとデータを盗んで来るだけ。
そこの防衛が、すごく上手く出来て見とれちゃって。
ブロックキューブみたいなのが、あっちゃこっちゃ組み合わさって。
絶えず動いて組み合わせが変わって防衛のガードを作っている。
常に動いてるから、近づけない。
人間がそっと入るのがやっと。
すごいなあ、と思うと同時に、ビジュアル的にカッコ悪!ってちょっと思って。
ガチャンガチャン動いてる様子が、大型の廃材解体の集積所にそっくりなんだもんさ。
キューブからベローンって出ているコードの絡まりとか、突起物とかが壊れて捨てられた機械の大型部品みたいで。
軍事施設の設備に見てくれを気にするって、アホか?って内心で自分で自分に大笑い。
それって、見事な‘マッドサイエンティスト’のセリフでしょうって。
『美しくない!』よくアニメに出てくる悪い組織の危ない人のセリフみたい?
それ以来ちょくちょく、
『もしも俺が予算が無制限でこういうの作らせて貰えるなら。どうしたい?』って脳内妄想して遊んでた。
汚いビジュアルよりは、綺麗な方がいいかなぁ?
時々、仕事の移動中に目にした、流星群とかの中に防衛機器を隠せないかなぁ?
いやいや、流星の川をあっちこっちに動かすの無理だから。
それだと固定の場所専用になって、たったそれだけのガードに高ーい予算で作るって、それすぐに‘遺跡’とか呼ばれそう。
気象条件の中に隠す?雲とか?
固定の惑星上でしか使えないよね、それだと。
宇宙にプカプカ雲がやって来たら、『あれなんだよ?』ってすぐに、落とされちゃうよ。
それで、《オーロラ》いいかも?ポンって手を打った気持ち。
発生装置を目立たない普通の船舶に偽装させておけば?
可動式で、どこでも‘ほいさっさ’て流動的に発生させられたら。
うんうん、ちょっと良いかも?
って、脳内妄想、脳内設計を楽しく発展させて来たわけさ。
オーロラの紫の色の方ではなくて、銀色の方って、なんだか‘あの方’の色のようで、昔の思い出が胸によぎったりして。
ほら、俺だって思春期の男の子だったんだからさ。笑
相当に昔の思春期ですけど。
**********
この所は、急激に体調が悪化している感じではないから、小康状態。
でも、体力の減退は日々実感している。
仕事終わった後に俺がごそごそ、スポーツウエアに着替えていたら。
「何をしている?」
「ちょっと走って来ます。陛下。」
「そんなに体力が余っているなら、使わせてやろう。」
えっと?陛下、体力がないからつけようと思ったりしてる?わけなんですけど。
というような、多少の誤解で体力が逆に減退する事を、ちょいちょい挟みながら。
軍の訓練施設に内緒で挟まって、走ったり泳いだり。
けっこう楽しかったです。
鬼軍曹、オモロ。で。
だいぶ《おもちゃ》製作も進んできて。
なんかこういう静かに過ぎる日々って、どっかのナレーションで
『その時は、思いもしなかったのであった!』
で、フラグとか立っちゃうやつじゃないかあ。
と、明るく過ごしていたのだった。
が本当になると思わないじゃん?
*****************
ドゥーダン提督が死んだ?
うっそ、悪魔って死なないんじゃないのか?
自分の側近に後ろから殺られた?ええええ?
そりゃ、俺がこんだけあいつの事を嫌いだもん、部下にだって相当やらかしてるのは想像できるけれど?
殺られる程に抜けているか?あの悪魔野郎が?
俺は 殺ってないからね!!俺じゃないよ!
内乱勃発は、するよな?
あそこは、帝国と未だに別仕立ての地域だからさ。
下克上?
宰相閣下、ついでに完全に取り込み考えそう?
まさか、煽った?
いやいや、今それをする利益って特に無さそう。
とにかく帝国に火の粉が飛んで来るのは全力で防ぐ!
ほらな、少しゆっくりしてたらこうだもんよ。




