【パパは頑張って宰相閣下に対抗してみる?】 side ソロ·マケル宰相
ターラン総括司令としてではなくて、個人的に私に書簡を送りつけて来よった。
奴の家令として送り込んだ‘目’から娘ミラージェンを経由して。
陛下のお耳に入れたくはない話をしたいという事であろう。
密会の様相に見えた場合やら、大袈裟な小細工を画策した事が露見した時には、それこそ皇帝陛下の逆鱗に触れる事が必定。
手のかかる、婿殿であることだ。
娘といい、送り込んだ‘目’でさえも共に、私への報告の呈としている様相ではなくて、心持ち上目遣いに主人の‘頼みごと’を持って来た顔を私に向ける。
あの坊やの‘人たらし’の有り様は、難攻不落の皇帝陛下を陥落させた手練手管に見てとれる。
油断のならない事よ。
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「お時間を拝借いたしまして、ありがとうございます。
本日は生前の実父に
『生意気なお前は未来において‘上官’には嫌われるであろう!』
との予言の通りの覚悟で参りました。
‘舅’様に、是非ともお話をさせて頂きたく存じます。」
結局、私の執務室に、宰相としての呼び出しが一番他人目につかず、陛下のご不審も煽らぬと、こちらから呼び出しを掛けてやった。
「座れ。短い話でもなかろう?」
「ありがとうございます。
では、お義父様には、無礼を承知の上、飾る言葉なくお話させて頂くことをお許し下さい。」
「宰相閣下の望まれるお目の先に、俗人の求める富·名声があるとは思われません。
宰相閣下の施政の技は、歴史を操る神の腕前の如くに拝見つかまつります。」
要らぬ世辞は良い。先をさっさと続ければよいものが。
「その宰相閣下の望まれるのは、先へ続く帝国の安定を深く憂慮なさってって事で間違っちゃいないですよね?お義父様」
「ん?」
目付きが変わりよって。
「ぶっちゃけ、俺に次代の種·陛下の精子を御寝所で盗んで来いよ!
対価にお前の‘腐った臓腑’取っ替えて、命伸ばしてやる、ってところですか?
《マケル家の工場》の人工子宮ポットで作った俺も、哀れですけれど。」
「その、ポットで陛下のお子様も誕生されるのなら、光栄って言わなければいけませんか?」
「宰相閣下、俺は今さらですけれど、皇帝陛下が望まれるのでしたら、
靴の裏でも、何処でも嘗めますよ?
それこそ、手足の指の股でも、もっと肝心の股であろうと。」
「あくまでも、《陛下》がお望みとあらば、です。」
この性悪が、恥を知らぬ物言いにこちらが顔に朱が浮かぶわ。
貴様に酒盃を注がせる事さえも厭う、あの高潔な陛下が望まれるはずが無いことを逆手にとりおって。
小賢しい。
「陛下が宰相閣下と同じ未来をお望みであるのなら。
俺などを駒に使おうとなさる事もなく、とっくに宰相閣下のお望みの未来の種は、根づいているはずですよね。
あの、マケル家所有《人間製造工場》で?」
「自分ごときが申し上げる事ではないのでしょうけれど、宰相閣下の神業は、たぶん間違っていない。
後世の歴史家の目線では、正しいのではあるのだろうと理解をいたします。」
「ですが、もし陛下が自分のような者をお気に召して延命を望んで下さり、宰相閣下の交換条件を苦渋のうちにお飲み下さってたとしても。
そもそも陛下の手の中には、お望みのものは残りませんから。」
「そんな事までして長らえた自分は、その時点でもう俺ではないですから。
自己崩壊する前に、首切り‘サブル家’の長子に仕込まれた技で、自分の首くらい上手に切れますよ俺。」
「陛下の気晴らしに用に、人工子宮のポットで俺に似た抱き人形でも作り育てて、いくらでも作られたらよろしいのに?
いくら壊しても次々出来ますのでしょう?」
この、痴れ者が!
「宰相閣下のおっしゃる事は、『カニの母さん』と同じではないですか?」
「『カニ』?、どういう事であるか?」
「ええと、怒らずに聞いて下さいますか?
ってだいぶお怒りで血圧上がってらっしゃいますよね?」
「うるさい!」
「子供に読み聞かせてやった絵本で学びました。」
こやつ、何処まで愚弄するか!謀りよって!
「母ガニが子ガニに言って聞かせて、
『お前達、横に歩かず前に歩きなさい。』
子ガニが
『母ちゃんお手本を見せてよ?』
母ガニ、歩いて見てもあれー?おかしいな?
カニは所詮横にしか歩けません。」
「宰相閣下、あのポットで俺の臓器ではなくて、御自身の再生用の臓器を作られません?
長く、帝国の歴史を影から導き芸術家として君臨なされば、一番の早道となるはずですが。
親ガニ宰相閣下はそれをなさらず、子ガニには、『生きろ!』とおっしゃいますか?」
「貴様にとっての、皇帝陛下への忠誠はいったいどちらの方角を向いているのやら、腹を捌いて覗いてみたいものだ。」
「ちゃんと皇帝陛下へ向かっての忠誠心を捧げてありますって。
俺の忠誠は、この帝国ではなく、‘皇帝陛下’にですが。」
「屁理屈の分からぬ事を。
何を言っておるのやら。理解の他である。」
「理解を頂けるとは思いません。
たぶんこれは、俺の《血》でしょうから。」
「自分でも、嫌だ嫌だと思いながら、母方の役にもたたない‘血’も、体に流れておりますようで。」
「自分の母といい、先日帝国に寄港して寄っていった妹といい。
国やら正義やら、あるべき道を飛び越えて狂信する血を纏っているのかも知れません。」
「思えば、母の生国は、本来あちこちにばら蒔いた政略結婚の種として生き長らえようとするはずでありました。
それなのに、根ついた先で、生国に益をもたらすよりも妻せられた先に情を移す役にたたない駒ばかりで。
とうとう母体の生国の方が滅びの道を辿りました。」
「きっと歴史学者の視点で宰相閣下が研究して下さったのでしたら、
《政略結婚の駒として、相手の心を掴もうとも、母国に利益をもたらさぬ駒ばかり量産する母の生国》の末路の謎。
それを解き明かして下さるのではないかと、その答えを教えていただきたくさえ思います。
自分でも、さっぱり訳が分かりませんので。」
「自分は、このように宰相閣下までも苛立たせるような、おとなしい‘たま’ではないと自覚しております。」
「あの当時でも、何としても帝国から逃れる気であれば、その方法は幾通りも持ち合わせておりました。
あの頃の仕事で、生きている人間を亡きものにした呈で、新しい戸籍と場所を作る事など、日常の仕事の内でありましたから。
ですが、こうして皇帝陛下の元におります。
頭で屁理屈ばかりをこねる小僧の思惑では、いまだに首を傾げるばかり。それでも、命有る限りの忠誠をメルキオーア皇帝陛下に誓っております。」
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ターランの小僧が、屁理屈を並べて退出した後に、癇癪を起こして物にあたった。
床に散らばった本やら茶器に、配下の者が目を丸くする。
そのような様を、見せた事は未だかつて無かった事である。
周囲の戸惑いを誘うのも仕方がない。
今日は頭痛がする。
父のような病を得る事も、この年では無いことではない。
自分とて、残りの時間は有限である。
それにしても、陛下といい小僧といい。
メルキオーア皇帝陛下が御自身の亡き後に、
帝国は《野となれ山となれと》と、愚かなお考えを持たれているとは考えるべくも無いことではあるが。
さて、どうしたものであるのか。
次代を備える事を考える事こそ、重臣として忠誠の証であろうに。
あの小僧の屁理屈にうっかり謀られでもすると、事の理を見誤りそうにさえなるではないか。
呆れた忠臣もあったものだ。
この妖怪と呼ばれる‘ソロ·マケル’を手玉に取るつもりであるなら片腹痛い。




