【パパはホッとしたら劣化してるかも?】side サリュー
「良かった。お兄ちゃん思ったよりもずっと幸せそうだった。」
「お前に気づかってもらう程、落ちぶれてねえよ。」
「ふふん。自分を守るの、お兄ちゃん下手くその癖に。」
「お兄ちゃん、今1人?家族は?結婚してるの?」
「俺の事は、いいから。アン、お前今いったいどういう状況なわけよ?」
「今の陛下との間に、表向きは娘が2人。
息子を1人野に隠して育ててるところ。」
こいつ、無用心で、驚くよ。
思わず、俺は周りを見回す。
「お兄ちゃん、大丈夫よ。
ここにはお兄ちゃんを害そうと思っている人がいないわね。
さっきのお舟から降りて来た時は、2人混じってたわよ。
お腹が黒い人。」
「陛下がお望みになるから、息子も産んでるんだけれど。
産んでも産んでもポンポン殺られちゃうの。
赤ちゃんのうちに。
だからねぇ、私まだ息子に『お母様』て言われた事がないのよ。」
はー。ため息しかない。
自分でそういうところに身を置いたんだろうが、とはさすがに言えない。
「お兄ちゃん、大丈夫よぉ。
私ねぇ、もうお兄ちゃんの後ろに隠れて泣いていた小さな女の子じゃないもの。
ねぇねぇそれで?お兄ちゃんは?」
「…… 子供が2人。上が娘で下が息子。」
アン、目を輝かして。
「会ってみたいわぁ?
今どこにいるの?いくつになるの?」
「20才と14才。両方学生。」
「学生?お兄ちゃんと同じ大学?」
「下はな。上の娘はまあ近場?」
「お兄ちゃんに似て優秀だったのね。」
そんなに表情を動かした覚えはないんだけどな。俺表情緩んでたのか?
「なんだぁ!やーねーぇお兄ちゃん。
嬉しそうねーぇ。
がっかりだわ。」
?
「とっくに、お兄ちゃんの一番は私ではなくなっていたのね。
決まってるのに、ちょっと残念だわ。
お兄ちゃんの一番はずっと私だと思ってたのに。
そんなのずっと昔に終わっていたのよね。」
「そうだわ、私ここに来た肝心な事を忘れるところだったわぁ。
たいへん。
何のために来たのかわからなくなっちゃうわね。」
「?」
アンが急に居住まいを正して座りなおして。
手を膝に揃えた。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。」
???
「私どうしてもお兄ちゃんに謝りに来たかったの。」
「この世で、私に情欲を絡めないで愛情を注いで守ってくれるのは、お兄ちゃんたった1人だったわ。
私の唯一無二の肉親。
それなのに、私後ろ足でお兄ちゃんに砂をかけて勝手をしたの。
わかってはいるの。
お兄ちゃんが、怒ってるだろうって。
ずっと胸に支えて苦しいかったの。」
「お兄ちゃん、ごめんなさい。
ありがとう。
ってずっと言いたかったの。」
「お兄ちゃんが繋いでくれた私の命。
ちゃんと自分で有るところを見つけて生きているから。
それを、どうしても言いたかったの。」
「私の陛下にね、宝石もお城も何も要らないからって。
お兄ちゃんに会ってそれを伝えることだけが私の望みってお話したの。」
「んとに、お前子供かよ?
そんな事に国家元首を引きずり回して、見せ物行脚かよ。
それが本当の話だって言うなら、あまりに愚かだろう?
それに、ハイハイって乗っかって鼻ずら引き回されてるお前の陛下?
大丈夫かよ。
国も危なっかしくないか?呆れてびっくりするわ。」
「やーだぁ、お兄ちゃん。
うちの陛下ね、ちゃんと男の子よぉ。
野心も欲もたっぷりだわよぉ。
充分こ狡い政治の立ち回りも上手だからぁ。」
「お兄ちゃんって、自分があんまり野心家でもないし。
名誉だ権力だとか興味ないから。
他人もそうだと思ったら大間違いよぉ?
そんな男の子なんか、いないわよぉ。
お兄ちゃんの方が、危なっかしいわぁ。
昔っからぁ。」
「ああ?」
この馬鹿妹、調子に乗って何言ってるんだか。
「ねーねーお兄ちゃん、それよりも。
お兄ちゃんの子供の母親ってだーれぇ?
今の奥様?」
「違う。大学·ユニん時の。」
「じゃ、お兄ちゃんが付き合ってた、眼鏡の女の子?」
「違う。」
止めてくれって。
ここの場所に、今絶対監視付いてるって。
皇帝陛下が御覧になってるかも知れないし。
ほんと迷惑。
「ねーねー、教えてったらぁ。お兄ちゃん。
私知ってる人?ねーってばぁ。」
「キーラだよ。お前会ってたか?」
「えええええ!
あの‘メデューサ’みたいなおっかない人?
お兄ちゃんって女の趣味悪ーい。最低。
それに、あの人だいぶお兄ちゃんよりも年上じゃない。
しかも結婚してなかった?
ひょろとした、芯のないような男の人と。」
「なんだぁ、お兄ちゃん私のことをひとつも言えないじゃないの。」
「もう、お前馬鹿じゃねーの?口閉じろよ。
お前じゃあるまいし、人の女房寝とったりするかよ。
あの馬鹿旦那、死んだ後。」
「へーーーー?ますます会ってみたくなったわあ。
お兄ちゃんの娘、私の姪になるのね。
ねぇどんな娘?
私かお母様に似てる?」
「ぜーんぜん似てないから!」
ビステル准将をちょいちょいって呼んでみる。
「娘の婚約者。」
周りがちょっとざわっとした。ちょっとフェイント発表。
アンが、目を細めてレヴィ君をじっと見つめる。上から下まで。
レヴィ君ごめん。ちょっと気味が悪いでしょう。
うちの妹、《魔女》入ってるから。
マコはだいぶ薄まってるからそんなに薄気味悪くはないと思うよ。
「お兄ちゃんのお眼鏡?」
「違う、恋愛。娘が連れて来た。」
「へーーーー。
いいじゃない。いいじゃない。
すごくいいわね。
曇りがないわね。
私の姪って、男の人をみる目なかなかだわ。」
「でも、お兄ちゃんってやっぱりお兄ちゃんね。」
ああ、もううるさいし、うっとーしい。
アンってこうだった思い出して来た。
「はーうるせぇ。何が?」
「お兄ちゃんって、欲はないのに、我の強さは相変わらずだわぁ。
とうとう、お父様の方とも、お母様の方とも因縁を絶ちきったわけね。
姪っこちゃんは、きっとどろどろ抜きの幸せな人生を送るわね。」
「お兄ちゃん、こちらは?ご親戚?」
アンが、クロさん、ミルゼス少将に目を移す。
「こちらは、アルク·クローレス中将閣下。俺の友人。」
「こちらはミルゼス少将閣下。アンも知ってるガンちゃんの上官。」
「まあー、まあまあ、ガンちゃん、会いたかったわ。
元気でいるのね?
どうぞ、お兄ちゃんをよろしくお願いいたします。」
いや、だからお前によろしく言ってもらわなきゃならないほど、俺は焼きが回ってないって。
秘書官が寄ってきて
「ターラン司令閣下、そろそろお時間が?」
「うん。」
アンと目を合わす。
「まあ、達者で。」
「お兄ちゃんも体気を付けてねぇ。
ねぇお兄ちゃん、『いじめっ子』さんは、お兄ちゃんよりも長生きしないわよぉ。
だからねぇお兄ちゃん、心配しなくて大丈夫よ。
きっと。」
はああ?最後にまた訳のわかんない事を言いやがって。
ほんと馬鹿なんだから。
********************[謁見]
「皇帝陛下におかれましては、ご拝謁の名誉を賜り恐悦至極に存じます。
この度は、成長途中の我がクリサーリダ王国の航海船の立ち寄りをお許し頂きました事を心より感謝申し上げます。」
俺は今、帝国の重臣の1人として皇帝陛下の横、マケル宰相閣下の反対側に位置をとり、クリサーリダ王国の国王·妹アンムートの伴侶が皇帝陛下との謁見を果たす場に立ち会っている。
「未だ、帝国と近い席に着かしていただくには、あまりに遠く。
若輩の我が身を戴く王国ではございます。
いつの日か帝国に有用と認識いただける対価を持てる国へと促し、開化をもたらす国家元首でありたく存じます。」
「未来において、帝国にお認めいただける時が巡りましたならば、是非とも友邦を結ばせて頂きますよう重ねてお願い申し上げます。」
「んむ。覚えておこう。」
他国との形式的な謁見では、この後は『ご苦労だった』で終了になるはず。
いつもなら。
更に皇帝陛下がお言葉を重ねられるのは、けっこう珍しい。
「昨今、貴国の内外での進展が著しいと聞き及ぶ。
して、その進歩発展の向上心の原動は何であるのか尋ねたい。」
「恥を曝して申し上げます。
私の力の源と成りますのは、そちらにいらっしゃるターラン総括司令閣下の実の妹ごにあたる我が妻、皇后アンムートにございます。」
「我が皇后に『よく頑張った』と誉められる事を褒美に日々の研鑽に励んでおります。」
ギャグか?アンの旦那は受け狙いか?
陛下は、一瞬目を見開き、ひどく面白そうに笑いを含んで口角を上げられた。
これは、相当陛下のツボにはまられたところ。
陛下が外部との謁見で、笑いをみせられるなど、反対の威嚇する意味合い以外では拝見した事はない。
呆れた苦笑にしても、今日は相当珍しい。
俺も、相当呆れた。
大丈夫か?クリサーリダ。
アンムート、お前いったい何やってるんだ?
**********************
夜に、小型高速艇の設計を始めたら気分が載って止まらなくなった。
気がついたら夜中になっていて、小腹が空いたなと思った。
偽後宮から、こちらの奥向きまでずっと何不自由なく過ごさせてもらっている。
けれども、もともと人に世話をして貰うのも慣れていないし、本当はあまり構われるのは苦手な性質。
こんな時に、アパートのキッチンでもあったら、ちゃちゃと自分で簡単な物でも作って、シンプルな味付けで食べるのにな。
気分転換にもなるのだろうし。
家に帰った時に、そんなことをスーさんに世間話をしたら、
「簡単な電磁調理器とクーラーボックス食材入りをお持ちになりますか?」
ちょっと誘惑にグラッとしたけれど、なんとなく部屋が所帯臭くなるのが、陛下がお好きではないように思えたのでやめておいた。
コンビニエンスストアで何か買ってくるのも、ここからだと一仕事。
諦めようと思ったら、冷えたティーセットに角砂糖が添えてあったのでそれだけ口に放り込んだ。
ほんと、俺も『宝石もお城も要らないから』、どっかで誰にも気兼ねなく好きに仕事できたらなあ。
ずっと好きに設計したり、時々食べるものを自分で好きに作ったり、辺りを散歩したりそんな事出来たら楽でいいだろうなあ。
あれ、それってリタイア生活って言うのか。
随分甘えた事を考えられるようになったもんだと、自分で突っ込む。
子供たちも育って、妹も自分の道を選んで後悔も無さそうな様子にホッとしたのかも。
ほんと、じいさん化が加速してるよ。笑
角砂糖2つで空腹が治まった。
俺って低燃費仕様かもよ。
また少し続けて数字と向かい合っていたら、いきなり製図と計算のモニターが切れた。
画面真っ暗、えええええ 途中までの消えた?バックアップとってない?
泣きそう?本当に泣ける。
後ろに気配。はい、陛下ですね。
「いい加減にしたらどうだ!」
夜更かししてゲームで遊んでる子供ではないから、勘弁してほしい。
アラフォーのおじさんの唯一の気晴らし。
ひっくり返っての入院の前科があるから、怒られるのもしょうがないけれどさ。
ここは、うんと低姿勢に出てお願いしかないよね。
「陛下、今少しだけお許し下さい。数字が全部飛んでしまうとすごーーーく悲しいので。」
今なら、頭に数字が残ってるから、慌てて打ち込めば残すことが出きるけども、一晩寝たら消えちゃいますから。
「陛下ーぁ。何でも仰る事いたしますから、今暫くお願いいたします。」
なんか、語尾が、アンムート風になったか?
「1時間だ!」
えええ、それは厳しい!
「せめて2時間。」
「1時間だ!」
うわ、片眉つり上がってる。
「はい、わかりました。」
「何でも?だな。」
「?」
ほとんど、数字打ち込みマシンと化して1時間15分。
消えてしまったら、ホントに力が抜けちゃうから、必死で。
ミスがあるかも。
確かめたいけれど、また切られちゃうのが怖いから、無理やり終了。
***********
何でも?って陛下ぁ、仕事で頑張るって事を申し上げたわけです。
何で陛下と一緒に、陛下の浴室で泡だらけになってるのか全然わかりません。
空きっ腹で、飲酒しながらの入浴って、絶対体に悪いやつですし。
のぼせますし、やめませんか?
俺、もうほとんど目がぐるぐる回ってますから。
はああ、大変な1日だったよ。
でもさ、どこかの海域で回戦を開いたわけでもない今日が、‘大変な1日’って思うって、俺だいぶ錆び付いてるかも。色々。使えない奴?ヤバいね。
だいぶ自己反省する。
気合い入れないと。アラフォーファイト!




