【パパは皇帝陛下のペットゾーンでイライラ?】 side サリュー
自分のペースで、仕事を全然させて貰えない。
そもそも、執務室に籠らせても貰えない。
幕僚達との《報告·連絡·相談》は、
ベッドに小型端末を数台繋いで、文書を送ったり送られたり。
部下達と顔を見合わせて話せれば、一発解決の案件のはずが。
進みづらくてイライラする。
効率が悪い。
うちの幕僚や、チーム《サリューのおもちゃ》のメンバーとは、
以前は‘阿吽の呼吸‘で意志の疎通がとれていたはず。
だから、何事においてもスペシャルクオリティで仕事が早い!はずだったのに。
毎朝のマドク氏検診のチェックで、執務室のモニターの使用時間も制限をかけられる。
部下に顔を合わせて話が出来る時間を、マドク氏に勝手に決められてしまうわけだ。
翌日の予定さえもたてられない。
誰が悪いって、俺が悪いんだろうから情けない。
部下に動き難くさせているのは、
俺が元凶なのが分かっているから自分で自分にイライラする。
ちゃんと薬を飲んで、ちゃんと眠って前より検査の数値も若干良くなってるはずだ。
それでも、マドク氏は嫌がらせのように、
仕事をさせてくれる時間をカットしてくる。
猫じゃらしで猫をからかっているのと間違っていないか?マドク氏。
今日なんて、午後の2時間だけしかベッドから出して貰える許可が出なかった。
食事時間とシャワー浴びる時間も込みでね。
ベッドで仕事をする事もダメ出しをされて。
俺は、屁理屈で何とか仕事させて貰えるようにと悪あがき。
マドク氏を飛ばして、白シャツさんから陛下の秘書官様に頼んで貰った。
作戦は
『ベッドの横に大型モニターを置いて貰って、テレビを見ているふりをして小型端末を上手く繋げて、どさくさに紛れて色々と仕事もやっちゃおう!』
「前にみたことのある映像で、
動物園で病気で気弱になって餌を食べなくなったゴリラがいて。
飼育員が、色々試してみて、音楽をかけたりマッサージをしたりと。
それでも、ますます元気がないゴリラに、
大画面のテレビモニターを設置してやったら、
途端に元気になったんですと。
因みにゴリラは動物の出てくる番組と、
CMがお気に入りだったそうで。」
「と言うのを思い出しまして、
大手ネット通販で自分もテレビモニターを注文しようとしたのですが、
住所の打ち込み先が分からなくて。
ここの住所って、教えてはいただけないでしょうか?
配達の受け取り先をどこに設定したらよろしいですか?」
わっはは!‘陛下の宮殿端の方’で指定したって、
通販の品物を配達して貰えるはずはないか。
もし、配達をして貰えるなら、
本とかもいっぱい頼んじゃえと思ったのに、無理だよね。
直ぐにベッドから寝たままでも見ることが出来る、
大画面のテレビモニターを設置して貰えました。
病気でノイローゼの“ゴリラ宣言”も、してみるもんだと思った。
何とか仕事用の端末を接続させようと画策しているのに、
完全に自分1人にして貰える隙がない。
しょうがないから、テレビを見ている。
ニュース番組ばっかりザッピングして見てしまう。
世間とこんなに隔絶された事が、人生に1度も無かったから。
世の中の動きを知らない事に、気持ちが焦っているのか?
帝国外のニュース番組もチャンネルに引っ張ると見られるようで、
ベッドに運ばれた流動食をズルズルすすりながらみていたら。
ニュースに驚いた。
またスプーンを取り落とした。
******************
《後宮の外にお顔をお見せになられた皇后陛下》
SFUご卒業のインテリの国王陛下は、
皇后陛下を後宮に閉じ込めずにファーストレディとして外交先に同伴してのご訪問。
この王国が始まって以来の画期的な女性公務。
訪問先の諸国は、皇后陛下の神秘的な微笑みに目を奪われ、
高貴な美しさを『天上の女神の降臨』
と~………
途中から聞こえない。
これ、妹。
『アンムート·サブル』だった俺の妹じゃないか?
国王陛下?こんな顔の男じゃなかったはずだよな?年も違う。
バカ妹のアンが、
俺が捜査仕事に出ていた間に駆け落ち?して付いていった男って。
もっと、じいさんだったような?
じいさん、17歳の娘を連れて行ったら犯罪です。
俺が帝国に戻される前に、
向こうで聞いた傭兵部隊の仲間から聞いたアンの噂で。
「お前の妹すげえなあ。
じいさんを手玉にとってポックリ逝かせた後。
その息子の後宮に納まって無双しているってよ!」
俺の知っていた妹が、そんな面倒臭い野心があるとは思えない。
人は変わる生き物だから、
肉親だって最後にあった時と、同じでいるとは思わないけれど。
アンは、物事に自分からは打っては出ない。
流れを見定めてから、ちょこっと手を入れて、
ほんの少し流れを変える。
大筋は諦めて流される性質だった。いつも。
マコ以上に、感覚だけで物事を見定めているようなところがあって。
何度かアンが、俺の出掛けに泣いて止めた。
「お兄ちゃん、そこへは絶対に行っては駄目なのよ!」
アンが泣いた仕事から、命からがらに戻る事になった。
「お兄ちゃん、あの人とっても嫌な気持ちがするの。」
俺だって、チームを組んで仕事をする時に、
相手が組んでいい相手かそうではないかの判断くらいつくし。
仕事でつるむ相手に、全面的に気を許すようなバカはしない。
でも、アンが俺にそう言った相手は、必ず本人がと言うより、
何かに巻き込まれて仲間を裏切っていた。
アンの前で俺の‘仕事’の話をしたことも、匂わせた事もないはず。
アンはいつでも理詰めでは考えない。
少しは考えたら、今こういう事になってはいないだろう。
それにしても、じいさんの息子って今の俺よりもずっと年下だったような?
映像では分かりにくいけれど、この国王さん若すぎないか?
まだ20代くらいに見えるんですが?
アン、いったいお前は何をやってこうなった?
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今日は、自分で気が付かないうちにため息ばかりをついていたらしい。
白シャツさんから
「どうなさいました?」
聞かれて自分で気がついた。
白シャツさんは何人かいて、
みんな意地の悪い感じはしない。
俺の‘魂’占い?笑、
みんな薄いパステルカラーの色。
出来立てホヤホヤの赤ちゃんのような色あい。
もう割りきったつもりでいたのに、
テレビで見てから‘妹’の事が気にかかる。
うちの幕僚や、幕僚達の部下に仕事で情報を集めて貰った事はある。
でも、まさか私事で、
部下を使ってアンの事を調べて貰う事もできない。
その晩に忘れていた事を夢にみた。
アンに泣かれた。
結局、訳が分からなかったけれど。
「お兄ちゃんには分からない!
お兄ちゃんは自分を争って、
他人が殺しあいをはじめる恐ろしさを知らないでしょう?」
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手紙が2通届いた。
家から来たスールさんからのもの。
それから、ミラージェンお嬢様からのもの。
どちらも分厚くて、まるで書類の束のよう。
目を通すのも、大変だった。
更にこの手紙の返信を手書きでするとなると、
ほとんど論文を書くのと同じ。
目が遠くなってくる。
スールさんは家の事は、至急の事以外は、
こちらに細々言って来ないので。
何かな?と思ったら。
子供達関係の事と、びっくりした事に、
妹の‘アンムート’の事も調べてくれてあった。
一言も言ってはいなかったのに、
助かるけれど、ちょっと怖い。
ミラージェンお嬢様、もう面倒臭いから‘ミラ様’で行くか?
俺、『面倒臭い』を言う回数が、普通の人よりも多くない?
何でかな。まあいいや。
ミラ様の厚い手紙も、以外な事に子供達の事と妹の情報。
ミラ様と子供達は養子縁組をしていないのに、
子供達の方が勝手に餌を見つけたゴキブリの様に、
マケル邸に出入りをしているらしい。
ミラ様は、マケル邸から住居を移してはいないので。
妹の情報は、どこから?って、
お養父様以外にないよね。
流石の情報力に脱帽。
スールさんからと、ミラ様からの話は、
子供達の話は少しすれ違っている。
妹の情報は、重なっている部分と、
それぞれからもたらせられる部分とがあって、
概同じでも、ぴったりと同じではない。
これがもし仕事の報告だったら、
2人を会わせて擦り合わせをすれば良いだけ。
そうできたら簡単だけれど。
アロマが以前言っていた《家庭内幕僚会議》をすれば、
色々楽になると思う。
家庭内では、俺が上官のつもりではないので聞きにくい事もある。
妹の情報に関しては
『情報源はどこ?誰が情報を集めに動いた?』
と聞きたいところだけれどね。
上官だったら部下に報告を聞くことに躊躇はない。
‘ミラ様’はもちろん、スールさんは、
逆に俺の上官は‘あちら’のような気がして、
聞くのも腰が退けるんだよね。
どれだけ‘ヘタレわんこ’なんだよ俺?って思うけれど、
15年も飼い慣らされるとこうなったのか?
今のこの場所にこうしている俺の状況を、
芯から受け入れている訳ではない。
以前の自分だったら、
縛られている鎖を手足ごと食いちぎっても、
納得できない所から出て行っただろう。
どうした?俺。
回らない頭で考える。
確かに、病気犬には餌と小屋が居心地が良いのはありがたい。
けれども、野良犬は路地裏で野垂れ死にをするのは何も怖くはない。
それなのに吠えようとしていないのは、
“自分で自分の終わり”を見ているからだろうと合点がいった。
自分の皮膚感覚で、この先のタイムリミットは2~3年?
それ以上はないだろう。
だったら、吠えているよりもさっさと、
残していけるものを精査して皇帝陛下に差し出していきたいと考える。
もう自分の意地などを優先している余裕はないのだから。
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家に一回帰して貰えないかと、各方面にお願いした。
白シャツ隊の親玉に伝わるようにお願いしたり。
ドクター、‘マドク氏’にも頑張って薄ら笑い浮かべて頼んでみたのに。
結果、全面却下。
どうしてさ?
俺、病院から退院した後に、
『紺』カフェテリアとかも行ったりしてたよ。
下部学校の卒業式でもそつなく顔見せしてきたし。
家だよ家。自分の家にちょっと行かせて欲しいだけ。
俺が痩せたので、色々と他人の憶測をされる事を気にすると言うのなら、
目に付かないようにそっと帰ります。
何なら夜中に、泥棒みたいに帰ります。
それは得意ですから。
陛下の筆頭秘書官様がふっとんで来て、説教されました。
辛辣でなかなか怖い。
「ここまで、あなたにご恩情をかけて下さっている皇帝陛下に、
まだ後ろ暗い隠し事でもおありですか?
あなたは、何処まで陛下を愚弄なさるおつもりですか?」
はあ?うちに帰って話をしておきたいと言っただけだよ俺。
後ろ暗い?も何も、
あなた方が俺の事で知らないことって、ないんじゃないのか?
なーーんでも知ってるでしょうが?
俺もう泣いてもいいかな?泣けないけど。
諦めどころなのか?でももう少し抵抗してみよう。
「お言葉を返して、申し訳ありません。
『後ろ暗い事』はありません。
ただ、『後ろめたい』気持ちではおります。」
「だいぶ、お言葉がはっきりなさって、何よりです。」
陛下のお側用人は、やっぱり意地悪だなあ俺に。
「自分が縁者を気にかける愚は、承知しております。
ですが。
遊廓の芸妓でさえも、
里方への送金と手紙のやり取りを許されていると聞き及びます。
傭兵所から買った者には、それさえもお許しいただけませんでしょうか?」
自分でも『どんだけ自虐的だよ』と突っ込みたい。
「本当にあなたは、お口が減らない。
それも
あなたがお元気になっていらっしゃった証拠と思えば、
陛下にも喜ばしく思われることと拝察いたしますが。」
*****************
マドク氏がまたやって来た。
後追いで、もう一発‘化学物質療法’をやるべきだって。
そのためには、感染症を極力避けるために『ここから出るな!』ですか。
びっくりーー。
もう一度治療をやったからって、
緩解するわけではないでしょう?
具合が悪いままズルズルと“命時間”を引き延ばされるだけでしょう。
以前にどこかの病院で、軍人年金が出ている寝たきりじいさんに、
横で婆さんが、
『生かしといて下さい。生きてる間はお金貰えますから!』
を見たことあるんだよ。
お陰さまで、まだ年金を頂く年数まで勤めてないですし、
引き伸ばして生かしておいて貰う意味もない。
しっかりお断り。
治療がきついからだろうって?楽ではないけれど。
メリットを見つけられないからだってば。
「あなたは、治療を受け入れて、経過を逐一私に報告しなければなりません!」
『なりません』?、義務か?それ。
ああ、やっぱりね。
俺が研究対称のモルモットなんだね。
だいだい分かったよ、マドク氏の研究テーマ。
だったら余計に教えてやんないよ!
治療で本当に辛かったのは、
体への負担ではありませんでした!プンプン。
俺の場合はね。
熱が出ようが、目が回ろうが我慢が効く性質だし。
誰にも言ってはいないけれど、治療に幻覚作用があるみたいで。
あっちに逝って、もう会うはずのない人に、
枕元や足元に貼り付かれるのが見えていて辛かった。
主に親父様ね。
自分で急激に鬱状態になっているのが分かったし。
口を開くと何を言い出すか自分で分からなかった。
だから、ただひたすら気持ちが沈んで行くのを黙って受け入れているのが、
きついっちゃ、そっちの方がきつかった。
****************
随分譲歩をいただいたらしく、
《ノイローゼゴリラの気晴らしテレビ》に、
家とマケル邸に繋がるように通信回路をくっつけて貰えました。やったよ!
画面モニターの完全な死角に、立派な長椅子ソファー。
それと合わせた低いティーテーブルも、お世話の方が設置をしていった。
ここのベッドのある部屋って、
前にうちが子供と3人で住んでいたマンションが、
すっぽり全部入ってしまうくらい。
広くて、ソファーの1つ2つを置くスペースは、
何でもなさそうだけれど。
ご飯を他の部屋まで歩いて行かないでも、ここで食べさせてくれるのかな?
少しテーブル低いけれど、楽できそうで全然オッケーだよ。
と思っていたら、用途が全然違うのか?
モニターで、家とマケル邸を繋いで貰って、例の家庭内幕僚会議をはじめると、その死角のソファーに誰かしらが座っているんだよね。
声は出して来ないけれど。
主に白シャツさん、陛下の秘書官様の時もある。
と思ったら、皇帝陛下が座ってしまう事もあって、
お耳汚しもどんなもんだかと、えらいストレスがかかる。
はー、ストレスって良くないよね、色々。
なのに陛下、この頃頻繁に監視にお座りになっていらっしゃる。
どうして?
隣と言っても広くて遠いけれどまあ隣の部屋で、
食事や入浴させていただく時も座っていらして。
これには既視感あるのを思い出した。
皇帝陛下が、赤ちゃんの黒い綺麗な豹みたいな動物をペットにお飼いになりはじめた時に。
その‘黒ピョン’(勝手に俺が名前付けて呼んでいた)が食事をする時とか、
水浴びをしてるのを眺めながら、
お酒を一献傾けていらっしゃった時の、陛下の眼差しに似ている?
ような?
いやー? アラフォーの‘弱り手負い野良犬’を眺めていらしても、
退屈しのぎにもなられませんでしょうに。
何か申し訳ありません。




