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【パパは後宮に囲われちゃった?】 side サリュー

 勝手に執務室が引っ越ししてきていた。


 しかもベッドルームつき。


 この10年以上の間、睡眠をとる時は、

 仕事の合間の執務室のソファーか、簡易ベッドに寝っ転がって休んでいた。


 ちゃんとしたベッドで休むのは入院中と、大人の運動の時だけ。


 このごろ自宅に帰宅した時もちゃんとベッドで休めるけれど、数えるほど。


 皇帝陛下の御寝所は、俺には決して体を休める所ではないからさ。



 **************



 目を覚ましたら知らないベッド。

 このパターンにちょっと飽きた。


 皇帝陛下のプライベートテラスで、座っていたような?

 転がっていたような?


 目が覚めたら、病院では?ないよねここ。


 でも、ベッド近くに医療ワゴンやらちょっとした救急設備。

 すっきりした客室に救急救命器具付き。


 広い空間で、気持ちがいい。


 帝国に来る前の仕事で数々みてきた、

 成金趣味や、古代文明遺跡のような空間。

 それと違って疲れない。


 昔、こんな感じの宮殿の部屋でちょっとの間、寝泊まりをしたことがある。


 以前にその経緯(いきさつ)を皇帝陛下の晩酌の暇潰しに、

 お話したような気がする。


 大学(ユニ)に在籍していた合間に受けていた仕事に、《成りきり》って言うのがあった。


 主に長期の休みの間に片付ける、一発仕事ね。

 

 ざっくりと言うと、身代わりのアクターみたいなもんだね。

 ただし、俳優の仕事とは違って危険度はマシマシ。


 人種的な限定はあるけれど、髪や目の色は変えられるし。

 

 俺は、顔を手術で変えるまでのハード仕様なのと、

 体のご奉仕込みの仕事は断っていた。


 長期の潜入は無理だし。学校休みの間だけ。


 身代わりを探してまで、体面を整えなければならない仕事相手は。

 もちろん、そこらの庶民の話ではない。


 あんまり中央で顔が売れていない王公貴族、

 独自の文化風習を持つちょっと古い王国に類する仕事が多かった。


 現代文明の科学の粋を極めているこちら側からは、

 かえって‘神秘的’に見える?事は‘全然ない’。


 卒業旅行に行く女の子の場所選びじゃあるまいし。

 それはない。


 現代文明に乗り遅れた古い国家は、

 大概(たいがい)古い因習に()んでいた。


 そういうところの、偉い人達は、

 暗殺を怖れて顔をあんまり(さら)してはいない。


 ちょっとの間だけ、入れ替わってやれば丸く収まる。

 

 ずっと替わりっぱなしの影武者ほどには、手のかかる仕事でもない。


 仕事の依頼は傭兵所経由で、大国同士の連邦機関から来る事が多かった。


 仲良しのふりをしている大国の集まりが、

 バランスをとるために存在させておいても便利かな、

 くらいの小国からの依頼が多かった。

 

 仲介してやって、助けてやった風に恩をきせるのか?


 自分のところに利がなければ動かない大国が、

 わざわざ弱小国に手を貸すのも、

 何が潜んでいるんだかちょっとキナ臭い。


 こっちは短期で‘速攻逃げ切る’を心がける。


 もたもたしていたら、何に巻き込まれるかわからない。


 だから俺は、王子様の真似も、貴族の息子のふりをしても、

 上品に微笑むのもやろうと思えばできる。


 短期限定だけれど。


 その中でも、報酬の払いが良かったのは、

 《デブ王子の身代わり成人の儀式》。


 ちょうど俺向き。剣を使った“行事”の仕事。


 デブ王子より実年齢が、3才ほど上だったけれど、若く見てもらって誤魔化してオッケー。


 そのデブ王子の国では後継者が成人の儀式で、

 近隣諸国の勇者だとかと剣を交えてみせるんだけど。


 昔はそれに備えて、

 子供の頃から、ちゃんと鍛えていた本当に立派な王子様もいたんだろう。


 今回の仕事は、出来レースに決まっているから、

 本当に王子に切りかかる奴なんていないと言う話だったのに。


 いたんだよね、これが。


 暗殺?


 デブ王子は、ろくに歩く事も出来ない肥満体で、

 俺が代わりにちょいちょいチャンバラごっこで返り討ち。


 びっくりしたのは、金払いの良さ。


 こういう《成りきり仕事》は、

 仕事が終わったときに口封じに追っかけられる事が多い。


 不名誉を隠すのには、一番確実だもんね。

 《成りきって》くれた奴を()っちゃうのが。


 仕事の依頼を受けた最初に、報酬の2割~5割を先払いで貰う。


 もちろんピンハネされるよ。傭兵所に。笑


 仕事が終わったら、残りを払うっていうのが契約だけれど。


 残りの支払いを待ってるのは、殺されるのを待っているのと同じ事。

 素人も良いところ。


 仕事そのものよりも、逃げ足の確保の方に準備を万全にしておいて、

 終わったら速脱出。


 最初に報酬額を相当高く吹っ掛けても、クライアントは大概受け入れる。

 後金を払うつもりも、こっちを生きて返すつもりもないからね。


 常識はずれの高い報酬額なら、回収が最低の2割でも結構な仕事に成るから、

 こっちはそれでも採算がとれるし。


 それなのに、このデブ王子の国が、後からちゃんと残金を支払って来たからびっくりした。


 王族もみんな気の良い顔をしていたし。


 宰相クラスの大臣が、俺に向かって


『申し訳ない。』


 言ってたりして。


 何だか危なっかしくて人の良い国で、

 大丈夫かよと思ったら、やっぱり大丈夫ではなくて。

 今はとっくにその国はないよ。


 色んな国で、色んな宮殿の部屋で《成りきり》をやった。


 けれど、家具、調度品、部屋の造りが、デブ王子の部屋が一番過ごしやすい楽な空気を纏った部屋だった。


 楽って最強。モチベーションも上がるから。


 デブ王子の仕事は上手く行って、クライアントの望む形に落ち着いた。



 *************


 懐かしいような部屋で目を覚ます、まず最初に陛下の筆頭秘書官がやってきた。

 今日からここを執務室として使うようにと。


「今まで通りに野良犬のようにお過ごしになられると、周りが迷惑千万。」


「はあ?」


 隣室の境のドアを開けると、そこに今までの執務室の何倍も大きな部屋があった。


 すでに、本や資料、ロッカーに入れてあった少しの着替えが、

 運んであった。

 執務机も大きくて立派。


 通信、設計に使っている機器類を、

 勝手に動かされるのは、不具合が出ると面倒だ。


 機器類は、前の部屋から動かしてはいない、

 触ってはいないと言うので『ありがとうございます?』。


 そもそも俺には、この部屋の位置と、ここにいる理由がわからない。

 今までの執務室で、仕事はずっと円滑に回ってきていて不自由はなにもない。


 どうして、いつも本人抜きで事を運ばれるのだろう?


 反発をする気力も若さもないけれど、

 ぞわぞわとして、心が低温火傷のように不快さが込み上げる。


 そういえば、結婚さえも本人の意志が関係が無かったっけ。


 野良犬?そう本当に犬扱いだよね。


 《立派な結婚相手、立派な執務室》は、言い換えれば。


 《ブリーダーの手配で立派な(つがい)

 《番犬に立派な犬小屋を与えた》と、違いがないようで、

 自分のどこかがギリっと音をたてて(きし)む。


 可愛く尻尾を振って、陛下に『ありがとうございます。』なんて言えないよ。


 犬なら犬扱いでも結構だけれど、

 それなら自分の飼い主は自分自身でありたいから。


 この部屋の場所は、今までの執務室に一番近い方向の、

 《陛下の宮殿の中》。

 であると聞かされて、腰が抜けそうになった。


 マケル宰相の執務室がある建物さえ、陛下の御座所と同じ場所ではない。


 端の方とは言え、陛下の宮殿の中で寝起きするなど、

 人に話せる事でもない。

 どっちの方向を見たら良いのか、首を違えそう。


「先代の皇帝が、後宮に使っていた建物を整理して手を入れました。

 使い勝手の足りないところは、仰っていただけましたら、直ぐに用意を整えます。」


 俺、目を見開いて気絶をしそうだよ。


 後宮?後宮ってあの後宮?


 場所がちょうど空いてたって事か?



 *************


 次にやってきたのは、医者のマドク氏。


 病院の外に?


 ましてや陛下の宮殿の中に立ち入るって、ちょっと考えられない。

 どういう事だろう?このマドク氏って何者?


「あなたの緊急時の治療はここで行うように命じられた。以後そのように。」


 検査検診の日程を組んだ予定表。

 ほとんど毎日?


 気が遠くなる。


 ヤバくなったら自分でどうにかする覚悟ぐらいあるって!


「何かご質問は?司令」


「あなたの、履歴等を聞かせていただきたい。」


 はっきり聞いて、合点した。


 あーそりゃ、俺の顔見たら腹もたつよね。


 最高の頭と腕を持ってる医者兼研究者が、

 陛下の飼い犬の専属に無理やり連れて来られた訳だ。


 この人、‘マケル宰相の製作’ではなくて、

 将来を嘱望された‘人間’の医者だったのに、

 無理やり連れて来られた訳だ。


「申し訳なかったですね。そりゃ腹もたつし迷惑な訳だ。」


「いえ、それ程でもないですよ。

 研究に必要な研究費に、不自由は無くなりましたから。

 自分の生涯の研究目的の達成はむしろ、万全の立場を得られました。

 お陰様で。」


 こいつ、絶対人間相手の医者は向いていない。


 研究って何の研究かを聞くのも嫌かも。


 確かに研究職でなければ浮くな、周りから。



 **************


 前の執務室まで出向いて、自分で機器装置を外に来てみたら、

 部屋で寝泊まりに使っていたソファーも、

 折り畳みの寝袋の簡易ベッドも消えて無くなっていた。


 機器を1人では運べなくて、陛下のお側近くの人に手伝って貰った。


 だって、こっちの俺の部下とかに、

 陛下の宮殿の中に立ち入りをさらせられないでしょう?


 いくら宮殿の端って言っても宮殿内、それに昔の後宮のあった場所って。


 幕僚とのやり取りは、今まで通りリモートで暫くやって。

 会議室は今まで通りの場所なので、必要に応じて足を運ぶだけで事は足りそう。


 確かに、大きく困った事にはならない。


 どうしょうもなく体キツくて休みたい時に、

 1度家に帰ると時間のロスが半端なくかかる。

 

 随分と楽をさせて貰えるのはありがたい。


 機器の取り付けと確認は、至急にやる必要があったから、

 少し頑張ったら、俺はまた高熱で動けなくなった。


 情けない。

 マドク氏が来ていたような、うつらうつらしていてハッキリしない。


 熱が下がって、汗で気持ちが悪くて目が覚めると、

 隣室に浴室があるから汗を流すかと聞かれて、使わせて貰うことに。


 そういえば、いつ食事をとったかを覚えていない。


 浴室に案内される途中、

 浴室の隣室に食事を並べられるテーブルと椅子があったり、

 応接間のような造りになっていたり。


 人が誰もいないホテルのロビーにでも案内されて歩いているよう。


 浴室は、個人の家にあるものよりだいぶ大きめなサイズ。

 手前にシャワールーム。


 シャワーをさっと使わせて貰うことにする。


 湯船に浸かるのも元気な時なら良いだろうけれど、

 今なら中でひっくり返れそう。


 どこからか表れた灰色のユニフォームではない、

 白いシャツとスラックスの男の人が、

 タオルやらバスローブを用意してくれた。


 野良犬から甘やかされた血統書つきのワンコに昇格したようでした。


 湯上りに目が回ってきてフラッとしたら、支えてくれて、

「ありがとうございます」を言って顔をみたら、皇帝陛下で。


 びっくりして、固まった。


 どこから、いらっしゃったんだろう。


 御座所からの昔の通路って、使える状態なんだろうか?


 お世話してくれた白シャツさんが、


「少し何か食べられますか?」


 冷たいお茶、温かいお茶、スープ、お粥? 果物、サンドイッチ。


 まるでマコの女子会のパーティーのように並べて下さる。


 まず、何か服を執務室のロッカーからとって来たいとお願いすると、

 どこからか体に合ったパジャマが出てきた。


 下着まで貸して下さいとは言いにくくて、上下さっと身に付けさせて貰った。


 陛下はここの部屋にあるソファーに、手持ちぶさたに座っていらっしゃる。


 食欲はまるで無かったけれど、勧められるままに、順番に1口2口。


 口にものを入れたら、手足の先から少しずつ体温が上がって来た。


 皇帝陛下はいつの間にか俺が座らせて貰った向かい側に席を移して、

 スープをかき混ぜたり、サンドイッチをフォークで突ついたり。


 子供に親が『食べ物で遊んではいけません!』の様相で。


 思わず微笑んでしまいそうになって気がついた。


 この部屋で、そういえば一言も陛下も自分も口をきいていないと。


 ふと、目を上げてさっきの浴室の方に目を向けてもっと驚いて、

 持ち上げたスプーンを取り落とした。


 さっきの浴室とこちらの部屋の間には壁があったよね?

 いつの間にか、仕切りの壁が全面ガラス張りのマジックミラー状態。


 陛下ここに何時(いつ)からいらっしゃったんだろう。


 なにかの安いポルノ撮影の現場でもあるまいし。


 白シャツさんに


「どうして、向こう側が見えるんですか?」

(俺の目が変なんですか?)とは聞きづらかった。


「司令閣下のお具合が悪くなられるの案じて、

 ‘皇帝陛下’がご心配下さっての事です。」


 は?色々よくわからない。


 また少し目が回ってきた。



 ************



 寝室で休ませて貰っていると、日に日に熱が出る事が少なくなってきた。


 ちゃんと夜に休むと、体って楽なんだね。


 昼に仕事が出来る時間も少しずつ増えて、

 長く起きて居られるようになってきた。


 夜は薬に催眠作用が入ってるらしくて、ばったり寝てしまう。


 夜中に至急の案件があったら、どうしたらいいかと気が揉める。


 時々、部屋に陛下が座っていらっしゃった夢をみたような?


 執務室からごそごそ音がしていたけれど、

 体が薬のせいかな‘金縛り’にあったみたいに動けない。


 明け方に心配になって、文字通り本当に這って、

 ベッドルーム隣の執務室にたどり着いた。


 データ、通信、設計、各種資料、秘密書類、

 かけてあったロックは何も変化がなくて、安心で暫く座り込んだ。


 部屋を見回すと、

 個人的な本や写真、手紙の置いてあった位置が変わっている。


 ネズミが出るのかな?ここ


 執務室で床に座り込んで動けないでいると、

 結構な時間が経っていたみたいで。


 白シャツさんに、朝の検診にマドク氏が来ているからと、

 執務室の外から声をかけられた。


 白シャツさんに聞かないわけには行かないので、聞いてみた。


 この部屋の中には、外に公開したら絶対ダメな軍事施設の設計資料が山程あるんですから心配shいています。


「この部屋に立ち入りが出来るのは、誰でしょうか?

 厳重保管の資料がたくさんあるので。

 外部に漏れるのは、絶対に避けなければならないのですが?」


「こちらの司令閣下の執務室には、司令閣下に火急の事態が生じる以外は、

 私どものお世話をさせていただく者も、決して立ち入りません。

 以前の場所にあった執務室のセキュリティをより、

 一層強固にしてある場所とお考え下さい。」


「執務室以外の、サリュー様の生活空間では、

 私どもの他には皇帝陛下以外の人間が、

 外から入れるはずはあり得ない構造になっております。

 どうぞ、いつ何時でありましても、心を安寧にお過ごし下さい。」


「え?」


「陛下の後宮とはそのようにあるものと存じております。」


 はあ?

 サリュー様?名前で他人に呼ばれた? 

 後宮?何の冗談?

 俺、本調子じゃないから、からかったらダメだよ?


 マドク氏の診察、本日の公務はドクターストップがかかりました。

 ベッドで至急片付けたい案件を頭で数えてジタバタしている。


 頭痛と吐き気、腕に点滴と測定器具付き。


 誰に何を説明して貰ったらいい?


 これからどうしたらいい?


 アラフォーで後宮入り?キモい


 親父に夢の中ででも、首を落とされそう!








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