第三十四話「言葉は忘れない」
「うぅ~」
演奏し終えた二人がカウンター席に戻ると小町が号泣していた。綾音に聞くとテンポが速くなり始めた後半から、いきなり泣き始めたのだと言う。
「だ、大丈夫か霧山さん。どうしたの?」
優しい言葉で小町に語りかける。
「うっ……す、すいません。な、泣いたりして」
両目から止まらない涙に蒼は、慌ててポケットからハンカチを取り出して涙を拭ってあげる。
「落ち着いてゆっくり呼吸して、綾音紅茶とか出せる?」
「あ、うん。アップルティーでいいなら」
蒼は、頷き隣に座る。望海は、蒼の対応に微笑み小町を挟むように反対側に座る。
「……フゥ~。も、もう大丈夫です。ご迷惑かけました」
「本当に大丈夫?何で泣いてたの?」
「は、はい。お二人の演奏が私の心に響いて最初は、息の合った演奏に言葉を失い呆然と見ていました。あれが即興でやってることが信じられなくて、レベルの高さを感じました」
アップルティーが出来て小町の前に出す綾音。
「霧山さん。音楽に詳しいよね?気のせい?」
「中学の時、三年間吹奏楽部でフルート担当してたんで」
「それでかぁ~。なるほどね」
泣きすぎて目の周り鼻が赤くなっている小町に望海がティッシュを差し出す。
「これで鼻かみな。鼻水苦しいでしょ?」
「す、すいません。ありがとうございます」
受け取るとちょっと勢いを抑えて鼻をかむ。
「演奏が終盤なったら突然早くなったのでもう、音色に飲み込まれてしまって感動して、本当に凄かったです。入山先輩が始まる前に私の言った言葉。今こうして思い返してみるとカッコいいです」
「そ、そんなことないよ!」
「いえ、カッコいいです!あの言葉私忘れません!今後テニスで苦しい時がきたら思い出すようにします!入山先輩は、私の尊敬する人です!」
「蒼。霧山さんに何言ったの?あんたに夢中になってるじゃない!」
「私も教えてほしいな~」
「い、嫌だよ!恥ずかしい!霧山さん。この二人には、内緒でお願いします」
「あははは。入山先輩は、恥ずかしがり屋さんなんですね」




