第三十二話「きっとやれる!」
蒼は、自分の右側に座るように促し、それに小町は、従い少し緊張気味に座る。椅子の横にテニスラケットのカバンを置く。綾音と望海は、鋭い眼差しで蒼を見る。小町との事を簡単に説明するとあっさりと受け入れた。
「あの時は、本当に助かりました。入山先輩が見つけてくれなかったら諦めてました」
「良かったね。霧山さん」
「はい!あ、呼び捨てでいいですよ。西沢先輩」
「私のこと知ってるの?」
「はい。西沢先輩は、一年生の中で知らない人がいないぐらい綺麗な人ですし、相川先輩も」
「私も?」
「はい。運動部で有名でしたので辞めた時は、驚きました」
「霧山さんは、どうしてここに?」
蒼が質問する。
「私の家この近くで前々から来てみたかったんですけど、入る勇気がなくって。でも、今日こそって感じで部活終わりに来ました」
「そうか、テニスは、順調?」
「先輩が厳しいですけど楽しくやってます」
三人と話しをしていくうちに笑ったりして、来た時の緊張が解けた様子。マスターが作ったコーヒーとケーキも気に入ってくれたみたい。
「そろそろやる?望海さん」
「望海さんなんてもぉ~いいよ。じゃ着替えて来るね。西沢さん。着替えるところ教えてくれる?」
「それなら私の家で」
綾音と望海は、家に一旦戻る。カウンター席に残された蒼と小町。小町の方は、今の会話に疑問。
「やるって何をするんですか?」
「えっとね。あそこにピアノあるじゃん。あれを僕が伴奏して相川さんヴァイオリンを演奏するんだよ」
ステージの方に指をさして説明すると。
「ななな何ですかそれ!ちょっとしたアーティストじゃないですか!」
目を大きく丸くして蒼に詰め寄る。
「大袈裟だな」
クスクスと笑う蒼に対して手を横に振って驚きを隠せない小町。
「ちなみに西沢さんもピアノ出来るんだよ」
「わー。素敵ですね。なんだか憧れます。あ、それで西沢先輩、白いドレス着てたんですか?」
「店にいる時は、いつも着てるみたいだよ」
「ヴァイオリンかぁ~。何回目なんですか?」
「ん?今日が初めてだよ」
あっさり言う蒼に対してコーヒーを飲むのを中断する。
「……ちなみに何の曲やるんですか?」
「決めてないし即興でやるんだよ」
その言葉に驚愕したのか瞬きをしないで、時々頬がピクピクし始める小町。
―――無謀だ!失敗するに決まってる!何を考えてるんだこの人たちは!
ガチャッと店の扉が開く。そこには、淡い青い色のドレスに身にまとった望海だった。その姿に蒼と小町は、言葉を失い呆然と見惚れる。
「ど、どうかな?蒼君」
「あ、うん。凄く似合ってるよ」
「ほ、本当!?ヤッター」
喜ぶ望海を落ち着かせるよに綾音が肩を掴んでなだめる。まだ、ぼーっとしている小町に蒼は、ポンと肩を叩くとビクッとして我に返り蒼の顔を見る。
「失敗するかもしれない無謀かもしれない。でも、挑戦しないと見つからない可能性だってあるよ」




