第二十九話「聴かせて」
綾音の玄関前。インターホンを鳴らす。しばらくして綾音の父マスターが出てきた。
「あれ、二人ともどうしたの?」
「こんにちわ、マスター。実は、お話したいことがありまして」
「話?とりあえず、中に入りなさい」
蒼の後に続いて望海も家にあがり、リビングに通された。
「椅子に座って、今コーヒー出すから待ってね」
「あ、お構いなく」
キッチンでコーヒーの支度をし始めるマスター。並んで椅子に座る二人。
「今、綾音買い物行ってるんだけど帰って来てから話すかい?」
「いえ、私は、お父さんと話がしたいんですけど」
「マスターでいいよ。君は確かこの間来てたよね?相川さんだっけ?」
「はいそうです」
「話がしたいからって言ってたからてっきり入山君かと思ったよ。はい、コーヒー」
二人の前にコーヒーが出され向かいにマスターが座る。
「いただきます。……美味しい」
「それで話って何かな?」
「あ、はい。その、私もマスターのカフェで彼と一緒に演奏したいんです!」
「ほぉ~。何ができるのかな?」
「ヴァイオリンです!」
「へぇ~。入山君は、相川さん演奏聴いたことがあるのかい?」
「はい。聴いたことあるというか一緒に演奏したことがあります。この間」
「そうか……入山君とね」
考え込み始めるマスター。隣に座るの望海を見ると両手をグッと拳にして、膝の上に置いて少し震えていた。真っ直ぐマスターを見つめて決断を待っている。
「……今ヴァイオリン持ってきてる?」
「はい!」
「それじゃ今から下のカフェで聴かせてもらえるかな?開店まで時間あるし。それで合否を決める感じで」
「分かりました!頑張ります!」
「入山君は、ここに残っててもらっていいかな?」
「あ、はい。いいですけど」
「それじゃ行こうか」
蒼を残してマスターと望海は、家から出て行き下のカフェと向かって行った。
それからしばらくした時だった。玄関を鍵で開ける音が聞こえた。
「ただいま~。お父さ~ん。……あれ?いないの?」
蒼は、立ち上がり恐る恐る玄関の方へ向かい、顔をゆっくりと壁際から出す。
「お、お邪魔してま~す」
「蒼。……ん?蒼?いや、な、なな何でいるの!!」
3テンポほど遅れる反応。それが少し面白く笑ってしまった。
「ちょっと!何笑ってるの!!何故ここにいるか説明しなさい蒼!笑うな~!うぅ~」
綾音の反応があまりにも面白かったのか、しばらく笑いが収まらずそんな蒼に顔を真っ赤にして、ポカポカっと力が入っていない連続パンチを繰り出す綾音だった。




