第二十八話「私も!」
右手にケーキ入りの箱。左手には、ヴァイオリンのケースを持っている。ニコニコしながら蒼の家に入る望海。蒼の後に続いて階段を上り部屋に入り込んだ。
「ここが入山君の部屋かぁ~。想像通り綺麗だね。入山君の匂いがする」
「臭くてごめんなさい」
「ううん。そんなことないよ。私、入山君の匂い好きよ」
どう返していいか困る。
「とりあえずその辺座ってて。飲み物持ってくるから」
「は~い」
望海を部屋に残して一階に下りて、準備してあったコップに麦茶を注ぎ、フォーク2本持って部屋に戻ると。
「……何してるの?」
部屋に戻ると蒼の目に飛び込んできたのは、ベットに寝転んでいる望海だった。
「ベットがあったから!」
「いや、そんな風に言っても意味わかんないから!」
「だってだって入山君の匂いがベットからするんだもん。だから思いっきり感じたくって」
持ってきた麦茶入りのコップをテーブルに置いて。
「……相川さんって変態?」
「う~ん。入山君の前では!」
「誇らしく言うな!」
望海が買ってきたショートケーキをフォークで一口サイズに切り取り、口の中に運ぶ。美味しさを感じて麦茶を飲む。望海は、ケーキがとても好きなのか一口一口食べるごとに、蕩けそうな表情が駄々漏れしている。
「それにしても相川さんが本当にサッカー辞めると思わなかったよ」
「入山君に話した次の日に私の中で辞めることに迷いは、無くなってた。いざ辞めてみると少しも後悔はなかった。自分でも不思議に思ったわ」
「膝の具合は?」
「一応サポーターは、付けてる」
「そうなんだ」
「それでね。入山君に伝えたい事があるんだ」
「ん?何?」
麦茶を一口。
「私もカフェで演奏したいんだ」
軽くむせる。
「え、な、何?」
「入山君がピアノを演奏しているあそこでヴァイオリンを弾きたいの!」
望海の瞳は、真剣そのものだった。
「……今私が出来ることは、ヴァイオリンしかないの。サッカーの代わりとかじゃなくて前みたいに弾きたいの。……ブランクはある。けど入山君が私の伴奏者をしてくれるなら、やれると思うし、きっと以前よりいい演奏ができると本気で思う!」
「た、たしかに相川さんのヴァイオリンは、上手いし一緒にやってみたいと思うけど……俺なんかが相川さんの伴奏者やっていけるか分かんないし、そもそもカフェで演奏していいか許可もらわないと」
「じゃ、許可もらいに行こう!」
「本気で!」
「お願い入山君!私と一緒に来て」
小さくため息を漏らし。
「とりあえず、落ち着いてケーキ食べましょ。それからです」




