第十八話「連弾」
ステージの照明がバッと点き、綾音の後ろに続いて蒼が歩く。周りから拍手が送られる。前回蒼の演奏を聴いたことがあるお客が声をかけてきて、それに軽く会釈をしながら答える蒼。ステージに上がりピアノの椅子にお互い密着しながら座ると、お客たちがざわめき始める。一人ずつでわなく二人でっと。鍵盤に手を置く綾音。
「いい?」
「うん。綾音がメインで演奏する感じでそれに合わせるから」
綾音は、内心不安だった。本当に出来るのかと。一度息を吐いてから綾音が演奏を始めた。
演奏が始まって1分が過ぎた。が、何故か蒼は、演奏を始めない。なんでと綾音は、早々思っていた。左に座る蒼をチラッと横目で見ると、まるで魂が抜けたみたいな表情でジッと鍵盤を見ているだけ。お客も何故演奏しないのか疑問に思いながら、綾音が演奏するあの子守唄の曲に浸っていた。
そして、綾音の演奏がガラッと変わってしまうところ。マスターが言っていた子守唄に似つかわしくない悲しくなる箇所。今まで聞いていて気持ちい感覚だったのが突然悲しくなる。そんな時だった。自然と演奏が変わった。いや、演奏が上書き塗り替えられたかのようだった。周りのお客たちが驚いた様子で綾音もそうだった。悲しくなりそうなテンポに入る直前で、蒼が自然と演奏を始めた。綾音は、手が止まってしまう。蒼が演奏は、心地いい音色まるで落ち着かせるような。
「さぁ、本当の君の演奏を」
気が付くと綾音は、演奏していた。その曲は、大好きだった母親の子守唄の曲になっていた。それに合うように蒼が優しい音色でカバーしてあげるかのように。カウンターでコップを拭いていた手が止まり、二人の演奏を聴いていたマスターが泣いていた。
「お前が好きだったあの曲……綾音が演奏してるぞ。最高のパートナーと一緒に」
妻の写真に語りかけた。
約5分間の連弾演奏が静かに終わると、涙をこぼしながら拍手をするお客たち。隣を見ると綾音が涙を流しながら手を握ってきて。
「蒼。ありがとう。本当に感謝してる。……また、一緒に連弾してくれる?」
微笑んで涙を拭いてあげる。
「そんなに泣くなよ。いつでも演奏してやるよ。これからよろしく。あ、綾音」
名前を呼んでくれて嬉しかったのか、それかこれからも演奏してくれることに喜んだのか分からないが、涙が倍増して綾音は、その場で蒼に抱き着いた。お客たちから幸せにとか言われながら蒼は、綾音の頭を優しく撫でてあげた。




