第十一話「次はいつ?」
夜9時。
「それじゃ、帰ります」
演奏を終えた後、私服姿に着替えてケーキセットを堪能しながらお客に話しかけられ続けていた。解放されたのは8時を過ぎた位だった。カウンターで綾音と話しながら過ごした。
「バス停まで送るよ。お父さん行って来るね」
「あぁ。入山君。今日はありがとうね」
「いえいえ」
一礼をして店を出た。
並んで歩く二人の距離は、とても近く上を見上げれば綺麗な星空が広がっている。5月の外は、まだ少し寒さを感じる。
「寒くない?」
「大丈夫」
「そう……」
「……」
店で話をしすぎたせいで二人っきりになると、何故か会話が見つからない。難しい。そのまま話がないままバス停に着いてしまった。時刻表を確認する。
「いつ?」
「えっと。時期に来るよ」
「そう」
「……戻ってもいいよ?」
「ヤダ……」
「……そうですか」
バス停の照明に照らされる綾音の顔が、なんだか寂しそうな表情だ。
「ねぇ、蒼……」
「何?」
「また、演奏してくれる?」
「分かんない」
すると、綾音は、蒼の両手を掴んだ。突然の事に驚く。
「どうしたらまた、演奏してくれる?お金?演奏料なら出すよ!」
「落ち着け!」
ハッと我に返ったかのように身体がビクッとする綾音。深呼吸するように蒼が促す。数回の深呼吸したのち、落ち着きを取り戻した様子。
「ご、ごめん。なんだか私変だね。急に取り乱して」
「どうしてそこまで俺に演奏させたがるか分からないけど、別にもうしないと言ってるんじゃないんだから」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「西沢さん。本当に大丈夫か?」
綾音の顔を覗き込むように見る。すると、瞬時に背ける。
「ち、近いよ。そんなに見ないで。大丈夫だから」
「あ、ごめん。大丈夫ならいいけど」
遠くの方からバスが来るのを確認できた。
「詳しいことは、また学校で話せばいいじゃん。今は、すぐに返事はできないよ」
「そうね。ごめんね。急に聞いたりして」
バスが到着してドアが開く。
「じゃ、また学校で」
「うん。学校でね。バイバイ」
手を振ってドアが閉まりバスが発進した。
「フ~。今日は、疲れたな。でも、人がいる前で演奏するのワクワクするな」
バスが見えなくなる前で見送った綾音。ただ一人取り残されたバス停で、また寂しそうな表情をしていた。
「……大丈夫。大丈夫。また演奏してくれる。……演奏してくれるよね?平気だよね?この前みたいに学校の前で待ち伏せしようかな」




