幕間 Library
カチコチ
時計の針の音だけが虚空に響く。それ以外に音を立てるものは何一つありはしない。
そこは塔の様な部屋だった。円筒に設計された部屋は、はるか天井まで吹き抜けになっており、部屋の中心には螺旋階段が備え付けてある。それが塔の背骨となっていた。
何故か出口はなく、四方全てが壁に覆われていた。その壁には本棚が隙間なく設置され、びっしりと書物が並べられている。本棚ははるか上空の天井にまで続いていて、数える事が億劫になるほどの書物が収められていた。
本棚の各層にはドーナツ型の踊り場が取り付けられていた。中央の螺旋階段を上ると到達できるようになっている。踊り場の階段側には手すりが取り付けられ、そこから下を覗くと、階下の様子が見渡せる。
螺旋階段を軸に作られた本の塔。それが、この部屋を形容するにふさわしい言葉だった。
その本の塔の最下層から数えて五段目の踊り場に一人の女がいた。純白といっても差し支えない程薄い白銀の長い髪は無造作に垂れ、透き通るほど青白い肌を覆い隠している。女は本棚のすぐ傍に立てかけた脚立のてっぺんで器用に足を組み、顔ほどもある大きさの本を黙読している。女はしばらく本を流し読みしていると、おもむろに本を閉じ、それをすぐ傍の本棚に戻した。そのまますぐ隣の本を引きだして、再び読みの体勢に戻った。
しばらくの間、女は同じ動作を繰り返し本に没頭していた。脚立の上から届く範囲の本を読み終えると、脚立を降りそれを移動させて、また別の箇所に所蔵されている本を順当に読み進めていた。
辺りには女以外蠢く者はない。広々とした空間の中で、動を成すのは女の僅かな息遣いと本をめくる動作だけだった。静寂が空間を支配し、時が停滞したかのような錯覚に陥る。
カチコチ
時計の針はなお動く。その規則的な音色が一瞬だけぶれた。
そして、―――時が動いた。
けたたましい音と共に地面が揺れた。女は脚立の上でバランスを崩し、慌てて近くの本棚に掴まった。
音は女のいた階下から聴こえた。急いで脚立を飛び降り手摺から階下の様子を覗きこむ。そこに見えたのは最下層に散らばった無数の本、そしてその中心にぐったりと倒れた何者かの姿が見えた。
「―――!」
女は息を飲んで、螺旋階段を駆け降りる。女にとってこんな事は初めてだった。何が起こったのか把握出来ないまま、件の場所へ駆けよる。
最下層に到着すると、その光景に女は茫然と立ち尽くした。綺麗に整頓されていたはずの本棚の一部から、ごっそりと本が抜かれている。抜かれている、というより何らかの衝撃で地面に落ちたのだ。その棚の目の前に散らばっているのが、本来そこに収まっていた本だ。
そしてその本の海の中に倒れ込んでいる男。
「……!」
女はその男の服が血に染まっているのを見つけ、すぐさま男の上に被さっていた本をどけた。男の身を案じたわけではなく、大切な本に血がついてしまいそうだったからだ。全て取り去ると、一冊一冊本をチェックする。どうやら汚れひどく再起不能になったものは無い。その事に胸をなでおろした。
本の無事を確認して、改めて男の姿を観察した。まだ若い男だった。銀色の短髪に黒ずくめの服を着た長身の男。意識は無くぐったりとしたまま目を閉じているが、胸が上下に動いていることから、息はまだあるようだ。その胸部にどす黒い血の塊が見える。背中に重傷を負っているらしい。そこまで観察して、ようやく女はこの男が瀕死の重傷を負っているのだと気づく。
「……手当!」
女は小走りで救急道具を取りに向かう。
男は微動だにせぬまま、目を覚ます気配は無い。
物語はここで一度区切りとなります。
長い長い約一ヵ月間の出来事でした。まあ、主人公はあんな状態になってしまいましたが。
さて、今後は一変して新たな物語を綴られます。と言っても登場人物はさほど変わりませんが、彼らの関係や思想には大きな変化があるでしょう。その行く末を温かく見守っていこうと思います。
実は結末はもう決めてあります。が、そこまで辿りつくのにどれくらいかかるか、筆者にもまだわかりません。さてどうなるやら……。
最後に読んで下さった皆様へ
自分が「書きたい!」と思ったものをひたすら好き放題書いたものですが、何人か覗いて下さる方がいて嬉しいです。ブクマしてくださってる方もありがとうございます。
物語は途中ですが、ここで感謝の意を述べさせていただきます。




