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第十章 フーベルト=シュネイの手記(4)

今回、演出の都合上、わざと脱字・空白表現を使用しています。

御了承下さい。

 アイリは再び机の引き出しに手をかけたが、先ほどと同じく中には何も入っていない。やはり全ての遺品はカインが持ち去ってしまったのだろうか。だとすると、カインに訊く以外に突破口が無い。だが、あの幼児化した成人男性に初対面のアイリがそんな事を頼んだところで疑われるだけだ。先ほどのイアーナの様子では彼女に頼むのも気が引けた。

 ―――そういえば、どうして机の物だけ取り除かれているんだろう?

 備え付けの椅子に座ってざっと部屋を一望すると、目の前には数えきれないほどの本の山だ。これらの書物はカインが押収した遺品には含まれなかったのだろうか?


 うんうんと唸っていると、足元でカサリと音がした。条件反射で机の下を覗き込んで見ると―――、


「うわあっ!」


 足元で蠢いていた毛むくじゃらの物体に思わず奇声を発してしまった。しかも驚いた拍子に膝を机にぶつけた挙句、バランスを崩して椅子から落ちる。


「いたた…。」


 腰をさすりながら立ち上がると、小さなネズミはちょろちょろと小走りに駆けて行き、あっという間に壁と本棚の隙間に隠れてしまった。

 まったくと、もう見えなくなった元凶の主に悪態をついて立ち上がろうとすると、その手元に小さな紙切れが落ちていた。


(あれ?これどこから?)


 先ほどは間違いなく何もなかったはずだ。どこから落ちたのかともう一度机を調べてみると、机の裏板の一部が不自然に外れていた。アイリがネズミに驚いた時に足をぶつけた辺りだ。

 こんなところに隠し棚があったのか―――。中を見てみると、紙切れの他に小さな本が一冊詰められていた。慎重にそれを取り出し、机の上に置いた。

 まずアイリは最初に見つけたメモ用紙に目を通す。メモ書きは黒鉛で書かれていたため少しかすれていたが、何とか読める。そこにはただ一言、こう記してあった。


 我が友、シーザへ

 我が宿望を汝に託す

 H.S(フーベルト=シュネイ)


 シーザという名を見た瞬間、アイリはドキリとした。これは間違いなく父の名だ。これはイアーナの父、シュネイ氏が父シーザへと遺したものだ。メモにはそれだけしか書かれていない。だがもう一つ一緒に添えられていた物がある。

 次にアイリは、小さな本を手に取った。毛羽立った本の表紙は文字が書かれていた様だが、よく見えない。表紙をめくると、ページがパリパリと音をたてた。破れないように慎重にめくっていく。どうやらこれはシュネイ氏の手記のようだ。内容は次の通りだった。


 ◆

フーベルト=シュネイの手記(一部劣化のため解読不能)

 一七九三年 芽月 十日

 アンナが亡く ってから早三年が経  た。イアーナはすくすくと育ち、   母の面影を見せ始  。時の流れとは早いものだ。私がここ     入れてからもう二十年がたつ。

 私は決断しなければならない。もう間もなく、私が最も恐れて   二次イシ   戦争が始まる。

 だが、私はまだあの忌まわしい    開する気にはなれない。


 一七九三年 芽月 十八日

 今朝、メリノに一報が届いた。イシルとの戦争が再開されるらしい。

 とうとう始まってしまった。しかも今戦いではここメリノを前衛基地とするらしい。なんという事だ。このままではメリノに留まることすら難しくなるではないか。

 だが、嘆いていても仕方がない。   もすればここにオルセン軍が到着する。オズワルドにカインとイアーナを遠        指示を出した。他の使用人も同様にしばらく暇を出す事にする。

 はまだここを離れるわけにはいかない。例え銃弾が飛び交い槍の雨          の地に留まらなければならないのだ。


 一七九三年 花月 六日

 今日、不思議な出来事があった。私が避けるように

 自我を取り戻したように飛び出してきた。いったい何があった

 何かを探すように辺りをさまよっていた。表情などはありはし        で動揺しているように思えた。いや、待望に身を震わせているのか?

 いずれにせよ私の計り知れる事象ではない。


 一七九三年 花月 十五日

 ようやくその意味を理解した。今日私は運命的な出会いを果た た。それは私にもわかった。

 シーザ=ジュンア。彼が発する記述の輝きはまさ            のだと。まるで半身が戻ってきたように、記述は嬉しそうに浮

 そうか!この男だったのか!素晴らしい!天子様はま        いなかったのだ!

 私には確信がある。実験は成功する。


 一七九三年 花月 二十日

 晩に、ジュンア氏を酒の席に招待した。そこで私は自分の予測が間違いではないという事を確信した。彼は容        とってもあの方とは似ても似つかなかったが、間違いなく、同じ輝き 波長を秘めていた。

 私は今歓喜に満       これで私の長年の悲願も達せられるのだ。今日の酒は格別にうまかっ             ない。心なしか字も躍っている気がする。


 一七九三年 牧草月 四日

 実験の準備を   。だが、もう一つ大事なこ  思い出した。

 核         するための人間がもう     のだ。しまった……、ジュンア氏に        しまいそのことを失念していた。どうすればいいだろう?


(中略)


 一七九三年 収穫月 十一

 久しぶりに筆をとる。

 私は迷っている。シーザ         命を押しつけてしまってよいものかを。彼は本当によく出来た人間だ。私は彼をだ     悪感を覚えている。もし、彼がこれに耐えられなければ、彼は微塵に砕けて死んでいくに違いない。いやだ!私は友のそんな姿を見たくは無い!

 明日、彼に全てを打ち明けようと思う。私が何者であるかも、彼には知る権利がある。


 一七九三年 収穫月 十二日

 今日、シーザに全てを話した。驚いたことに、彼はそれを受け入れた。受け入れたうえで、私の願いを承諾した。

 なんというこ     彼は、自分自身で無くなるかもしれないというのに、どうしてそんな風に受け      

 私のことなど拒絶してしまえばいいのに!気の狂った男だと縁を切ってしまってもよかったのに!

 彼の笑顔を見たとき、私は罪悪感で潰されそうだった。自分がどれほどちっぽけな人間だったのかと思い知らされた。


 一七九三年 収穫月 十三日

 シーザが今日二つ条件があると申し出てきた。

 するのなら、自分が戦場から無事帰ってきてからにしてほしいと。この戦いはどうして      ンアとしてなさねばならない命なのだと。

 そしてもう一        の事だった。彼が彼で無くなった後、家族がつらい思いをしないよう支援してほ   

 私はどちらの条件も飲んだ。当然だ。彼がここまでしてくれるのなら私は私のできる最善を尽くすまでだ。


 一七九三年 収穫月 二六日

 決めた            身で果たそう。できるはずだ。私はもともと記述世界の人                よりも理解している。たとえ血反吐をはこうとも、この体が        も、その役目を果たして見せる。もう犠牲者を出したくない。卑怯者呼ばれるのもたくさんだ。


(中略)


 一七九四年 実月 三日

 半年ぶりにカインツァベルとあった。しばらく見ない間に随分と逞しくなったものだ。イアーナはユートレイに来てから体調を崩しがちらしい。今日も私に顔を見せてくれなかった。ここでの生活が合わないのだろうか?早くメリノで安全に暮らせるようになるといい。

 今日からしばらくユートレイに滞在するつもりだ。その理由はカインツァベルに私の持つ記述術の全てを継承させるためだ。

 後半月もすれば、イシルとの戦争が激化するが、私は最後の準備のためにどうしてももう一度メテルリオンへ赴かなければならないことが分かった。メテルリオンは今戦場だ。もし私の身に何かあった時、私の後を継ぐのはカインしかいない。カインはもう立派な大人だ。私の話も取り乱すことなく静かに聞いていた。アンナ、君に似て本当に聡い息子だ。私も鼻が高いよ。


 一七九四年 実月 二十六日

 明日、シーザと共にメテルリオンへ出立する。役目を果たすため、私は必ず生きて帰らなければならない。ライトロウ氏の悲願はもうすぐそこに―――


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