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第8話『戦争ごっこ』

第八話です。


オルタ、初めての戦争ごっこに参戦。


前世は天下人。


しかし相手は五歳児でした。


どうぞお楽しみください。

第8話 戦争ごっこ


「じゃあ始めます!」


レオが木の枝を高く掲げた。


「おー!」


子供たちが一斉に駆け出す。


俺も慌てて後を追った。


戦争ごっこというからには、何か考えがあるのだと思っていた。


誰が前へ出るのか。


誰が旗を守るのか。


どうやって相手を出し抜くのか。


そんな話し合いが始まるものだとばかり思っていた。


だが。


「うおおおおお!」


レオが真っ先に飛び出した。


それを追うようにリックが駆ける。


マルクも走る。


カイルも走る。


「待ってください!」


思わず声を上げる。


だが誰も止まらない。


というより聞こえていない。


数分後。


勝負は終わった。


少し離れた場所では、相手チームの子供たちが旗を掲げて喜んでいる。


「こっちの勝ちー!」


「うわー!」


レオが悔しそうに声を上げた。


だが、その顔はどこか楽しそうだった。


「でも旗の近くまでは行けたんです!」


俺は首を傾げる。


「そうでしたか?」


「はい!」


レオは力強く頷いた。


「もう少し速く走れたら取れたと思うんです!」


俺はしばらく考えた。


そして答える。


「そういう問題ではありません」


「え?」


レオが固まる。


「じゃあもっと鍛えます!」


「違います」


「足りないのは脚力です!」


「違います」


「毎日走ります!」


「だから違います」


レオは本気で不思議そうな顔をした。


俺も不思議だった。


どうしてこの少年は全てを脚力で解決しようとするのだろう。


「皆さん」


俺は手を叩いた。


「作戦というものをご存じですか?」


子供たちは顔を見合わせた。


レオが首を傾げる。


「さくせん?」


「何ですか、それ?」


リックも首を傾げた。


「聞いたことありません」


マルクも小さく頷く。


どうやら本当に知らないらしい。


俺は思わず笑ってしまった。


なるほど。


そういうことか。


「では、一つ試してみましょう」


子供たちが集まってくる。


俺は地面に丸を描いた。


そして名前を書く。


レオ。


リック。


マルク。


カイル。


エマ。


最後に少し大きく。


オルタ。


「こちらが我々です」


さらに向こう側に丸を描く。


「こちらが敵です」


そして矢印を一本引いた。


「レオは前へ出ます」


さらに一本。


「リックは横から回ります」


「マルクは守ります」


「カイルは周りを見ます」


俺は満足して頷いた。


完璧だった。


誰が見ても分かる。


そう思った。


すると。


レオがおずおずと手を挙げた。


「オルタ様」


「何でしょう」


「文字が読めません」


「え?」


思わず聞き返した。


リックも地面を覗き込む。


「ぼくも読めません!」


マルクも頷いた。


「ぼくもです」


俺は固まった。


そうだった。


レオたちは図書室に籠もるような子供ではない。


地図を広げて楽しむのは、どうやら俺だけらしい。


「たぶんですけど」


カイルがおずおずと言った。


「何でしょう」


「レオが前に行くのだけは分かりました」


「それしか分からないのですか?」


「はい」


「……」


完璧な作戦だった。


だが誰にも伝わっていなかった。


「細かい話は後です」


俺は立ち上がった。


「まずはやってみましょう」


「はい!」


皆が元気よく返事をする。


そして。


旗が振られた。


次の瞬間。


「うおおおおお!」


レオが飛び出した。


「待ってください!」


聞いていない。


一直線だった。


そのまま捕まった。


開始十秒だった。


「レオ」


俺が呼ぶ。


「すみません!」


レオは笑顔だった。


なぜ笑っているのだ。


さらに。


「あっち何だろう!」


リックが走り出した。


「リック!」


聞いていない。


消えた。


どこへ行った。


数分後。


「またこっちの勝ちー!」


相手チームの声が響く。


敗北だった。


俺は固まった。


おかしい。


理論上は先程より良いはずだ。


「もう一回です!」


レオが叫ぶ。


「今度こそ勝ちます!」


リックも元気よく飛び跳ねた。


「ぼくも頑張ります!」


やる気だけは凄い。


だが。


二回目も。


三回目も。


結果は変わらなかった。


レオは突撃する。


リックはどこかへ行く。


マルクは旗を守る。


カイルは周囲を見る。


そして負ける。


「なぜです……」


思わず呟いた。


その時だった。


くすり。


誰かが笑った。


エマだった。


「何がおかしいのですか?」


俺が尋ねる。


エマは首を傾げた。


「だって」


「だって?」


「オルタ様、みんな見てないもん」


俺は目を瞬いた。


「見ていない?」


「うん」


エマは当然のように頷く。


「父様が言ってたもん」


「父上ですか?」


「違うよ」


エマは首を横に振った。


「父様は公爵領の軍師なの」


軍師。


その言葉に思わず反応する。


「軍師なのですか」


「うん」


エマは少しだけ得意そうに胸を張った。


「エドガーっていうの」


軍師エドガー。


俺はその名を頭の中に刻む。


するとエマは続けた。


「父様ね」


「はい」


「兵が悪いんじゃないって」


俺は黙る。


「人を見てない軍師が悪いんだって」


その瞬間だった。


父上の言葉が脳裏に蘇る。


――国とは人だ。


――人を見ろ。


俺は何も言えなかった。


勝ち方は考えていた。


作戦も考えていた。


だが。


仲間を見ていなかった。


「皆さん」


俺は顔を上げた。


「少し話をしませんか」


子供たちが顔を見合わせる。


「話ですか?」


レオが尋ねた。


「はい」


俺は頷く。


「皆さんのことを教えてください」


「ぼくですか?」


真っ先に反応したのはレオだった。


「はい」


レオは胸を張る。


「ぼくの父様は騎士団長です!」


そして目を輝かせた。


「ぼくも将来、父様みたいな騎士になります!」


その言葉に迷いはなかった。


リックも元気よく手を挙げる。


「ぼくの父様は斥候隊です!」


「いつか父様より速く走ります!」


なるほど。


こちらも走ることしか考えていないらしい。


マルクは少し照れながら言った。


「ぼくは近衛騎士になりたいです」


「お城を守るんです」


カイルも静かに続ける。


「ぼくはまだ分かりません」


「でも父みたいに役に立ちたいです」


そして最後に。


エマは少しだけ胸を張った。


「わたしは軍師になります」


「父様みたいな軍師」


レオはまだ夢を語っている。


リックは途中で虫を見つけていた。


マルクは慌てて追いかけている。


エマはそんな様子を見て小さく笑っていた。


俺はその光景を眺める。


人を見る。


簡単なようで難しい。


どうやら戦より厄介かもしれない。


地図は読める。


戦も知っている。


だが。


五歳児の扱いは知らなかった。


地図を見るより先に。


人を見なければならない。


父上はそう言った。


どうやら俺は、その意味をまだ半分も理解していなかったらしい。


第八話を読んでいただきありがとうございます。


前世は織田信長。


しかし五歳児には通用しませんでした。


次回、オルタは初めて「人を見る」という課題に向き合います。


よろしければ感想やブックマークで応援いただけると嬉しいです。


次回もよろしくお願いいたします。

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