第9話『役割』
第9話です!
今回は、オルタが「作戦」ではなく、「人を見ること」を少しずつ学び始めるお話になります。
皆さんは、どのキャラクターが好きですか?
ぜひ感想で教えていただけると嬉しいです!
その日の帰り道。
夕陽が城下町を赤く染めていた。
鍛冶場からは最後の槌の音が鳴り響いていた。
どこかの家からは、焼いた肉の香ばしい匂いが漂ってきた。
平和な光景だった。
だが、俺の頭の中では、さっきまでの戦争ごっこが何度も繰り返されていた。
――オルタ様、みんな見てないもん。
エマの言葉が離れない。
悔しい。
五歳の少女に言われたことが、こんなにも胸へ刺さるとは思わなかった。
だが、反論できない。
俺は旗の位置ばかり追っていた。
どう勝つか、そればかりに頭を使っていた。
肝心の人の動きには、目を向けていなかった。
父上も同じことを言っていた。
「国とは人だ」
あの時は分かったつもりだった。
だが、結局何も分かっていなかったらしい。
◇
夕食を終え、自室へ戻る。
寝間着へ着替え、ベッドへ飛び込んだ。
五歳の身体は疲れているはずなのに、妙に眠れない。
俺は寝返りを打つ。
最初に思い浮かんだのはレオだった。
「うおおおおお!」
大声を上げながら敵陣へ突っ込んでいく。
待てと言っても止まれと言っても聞かない。
敵が見えれば飛び出していく。
本当に困った少年だ。
だが。
思い出すのは、あいつの笑顔だった。
負けても転んでも笑う。
「もう一回です!」
そう言って立ち上がる。
俺は思わず吹き出した。
「あいつ、止まるって発想がないのか」
面白い。
あれだけ真っ直ぐな人間は初めて見た。
なら。
無理に止める必要はない。
あの真っ直ぐさを活かせばいい。
今度はリックが浮かぶ。
「あっ!」
「あれ何だろ!」
気付けばいない。
呼んでも返事がない。
探した頃には戻ってきて、
「見て! 面白い石!」
と笑っている。
自由すぎる。
俺は額へ手を当てた。
「本当に子供だな」
だが。
あれだけ走り回れる子も珍しい。
縛るから駄目なのだ。
自由に走らせた方が活きる。
その方が、本人も楽しそうだった。
マルクは違う。
皆が走り回る中、一人だけ旗の前に残っていた。
「任せてください!」
そう言って、最後まで動かなかった。
体格が良いわけでもなく今のところ何かに秀でているようにも見えない。
だが。
不思議と安心できる。
攻めるより守る方に向いている。
そんな気がした。
カイルは周りばかり見ていた。
敵の動きにすぐ反応する。
味方の変化にも敏感だ。
誰よりも先に察知する。
「右です!」
「後ろから来てる!」
状況を正確に捉えている。
ただ。
少し声が小さい。
そこだけ惜しい。
そして。
最後にエマだった。
「オルタ様、みんな見てないもん」
またその声が聞こえる。
俺は枕に顔をうずめた。
悔しい。
だが。
あいつだけは戦っていなかった。
なのに。
誰よりも広く戦場を捉えていた。
突っ込むレオの無鉄砲さも。
ふらふらと消えるリックの動きも。
そして――指揮しているつもりだった俺の視線の偏りさえも。
「何なんだ、あいつは」
思わず笑ってしまう。
不思議な少女だ。
だが。
本当に面白い。
俺は天井を見上げた。
皆違う。
誰一人として同じじゃない。
だったら。
同じことをやらせても勝てるわけがない。
人には、それぞれ得意なことがある。
そのことに、ようやく気付き始めていた。
◇
その時だった。
「オルタ様」
扉の向こうから声がした。
「うおっ!」
思わず身体が跳ねた。
クラウスの声だった。
いつからそこにいた。
相変わらず気配がない。
(こやつ、伊賀忍者かよ……)
前世の記憶が蘇る。
忍びは苦手だった。
気付けば近くにいる。
気付いた時には手遅れ。
戦場の敵より厄介な連中だった気がする。
「まだお休みではございませんかな?」
「少し考え事をしていました」
「恋でございますかな?」
「違います」
「食べ過ぎでございますかな?」
「違います」
「では、戦争ごっこでございますな」
「……」
沈黙してしまった。
「当たりでございましたか」
「なぜ分かるのです」
「本日、帰られてから、ずっと同じ顔をされておりましたので」
顔に出ていたらしい。
未熟である。
「明日も城下へ行きます」
「左様でございますか」
「今度こそ勝てるかもしれません」
「何か、お気付きになられましたかな?」
「少しだけ、分かったことがあります」
「左様でございますか」
クラウスが小さく笑った気配がした。
「子供たちというものは、思い通りには動きませぬからな」
「本当にその通りです」
俺は深く頷く。
「ですが」
「はい」
「面白くなってきました」
「それは何よりでございます」
少しだけ胸を張る。
「これは、天下取りの第一歩です」
今度は、はっきりと笑い声が聞こえた。
「戦争ごっこにしては、随分と壮大でございますな」
「本気です」
「オルタ様らしくて、結構でございます」
「お休みなさいませ、オルタ様」
「はい。おやすみなさい」
クラウスの気配が遠ざかっていく。
俺は天井を見上げた。
明日。
もう一度やってみよう。
今度は作戦を見るのではない。
人を見る。
そう思うと、不思議と胸が高鳴った。
◇
翌日。
空き地へ着くと、既に皆集まっていた。
「オルタ様!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、やはりレオだった。
昨日、あれだけ負けたというのに元気である。
「おはようございます!」
「今日は勝てますか!」
「分かりません」
「えっ」
レオが固まった。
「ですが」
俺は小さく笑う。
「昨日よりは、ずっと面白くなりそうです」
その言葉に、レオの目が輝いた。
「面白いなら楽しみです!!」
本当に単純で助かる。
皆が集まる。
リック。
マルク。
カイル。
そして、少し離れた場所にはエマがいた。
「今日はですね」
全員がこちらを見る。
「みんなが得意なことをやってもらいます」
沈黙。
レオが首を傾げる。
「得意なこと?」
「はい」
リックも不思議そうな顔をする。
「それで勝てるんですか?」
良い質問だった。
俺は少し考える。
そして正直に答えた。
「たぶん」
全員が固まった。
「たぶん!?」
思わず笑ってしまう。
確かに不安になるだろう。
だが、昨日よりは見えている。
それだけは確かだった。
「レオ」
「はい!」
「今日は思い切り目立ってください」
「目立つ?」
「誰よりも大きな声を出してください」
「走り回ってください」
「敵の目を全部集めるくらいの気持ちで」
レオの顔がぱっと明るくなった。
「それ、得意です!」
知っている。
だから任せるのだ。
次はリックを見る。
「リック」
「はい!」
「好きなだけ走ってください」
「えっ、本当に?」
「はい」
「ただし、面白いものを見つけたら教えてください」
リックが飛び跳ねた。
「やったー!」
どうやら成功らしい。
次はマルクだ。
「マルク」
「はい」
「旗を守ってください」
「守るだけですか?」
「はい」
「誰かが来たら止めてください」
マルクは少し考え、真剣な顔で頷いた。
「任せてください!」
その返事に、不思議と安心する。
次はカイルだった。
「カイル」
「はい」
「周りを見てください」
「昨日と同じですか?」
「少し違います」
「見えたことを、大きな声で教えてください」
カイルは頷いた。
「それならできます」
頼もしい。
そして最後。
俺はエマを見る。
エマは少し離れた場所で、静かにこちらを見ていた。
「エマ」
「なに?」
少し考える。
正直。
まだ分からない。
あいつに何を任せるべきなのか。
だが。
無理に決める必要もないのかもしれない。
「見ていてください」
エマが首を傾げる。
「それだけ?」
「はい」
「今の私には、それしか思いつきません」
エマはしばらく黙っていた。
そして。
ふっと笑った。
「分かった」
「また教えてあげる」
「お願いします」
その返事に、なぜか安心した。
もしかすると。
一番頼りにしているのは、あいつなのかもしれない。
「それでは!」
レオが木の枝を高く掲げる。
「始めます!」
皆が持ち場へ散っていく。
リックは今にも走り出しそうだ。
マルクは旗の前へ。
カイルは周囲を見回している。
エマは少し離れた場所から全体を眺めていた。
そして。
レオが振り返る。
「オルタ様!」
「何でしょう」
「今日は勝てますよね!」
真っ直ぐな笑顔だった。
俺は少しだけ考える。
そして。
小さく笑った。
「さあ、どうでしょう」
「えー!」
不満そうな声が上がる。
だが。
昨日とは違う。
皆を見た。
皆の得意なことを考えた。
それでも負けるかもしれない。
だが、それでいい。
「面白い」
思わず口元が緩む。
人を活かす。
口で言うほど簡単なことではない。
だからこそ、面白いのかもしれない。
その時。
旗が振られた。
「うおおおおお!」
レオが勢いよく飛び出していく。
その姿を見ながら、俺は笑った。
さて。
今度は、どんな景色が見えるのだろうか。
【後書き】
第9話を読んでいただき、ありがとうございました!
レオ、リック、マルク、カイル、エマ。
一人ひとり違うからこそ、活かし方も違う。
オルタがその第一歩を踏み出した回になりました。
次回、第10話『初勝利』。
初めて仲間の個性を活かし、戦争ごっこで勝利を目指します!
引き続き、応援よろしくお願いします!




