第7話『最初の仲間たち』
第七話です。
父バルドとの戦略問答を終えたオルタ。
今回は未来を大きく変える出会いの物語です。
どうぞお楽しみください。
――国とは人だ。
父上の執務室を出た後も、その言葉は頭から離れなかった。
兵を見ろ。
領民を見ろ。
家臣を見ろ。
友を見ろ。
父上の声が何度も頭の中で繰り返される。
地図や数字だけでは見えてこないものがある。
本能寺で届かなかった願いも、そこに答えがあるのかもしれない。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、不意に窓の外から子供たちの笑い声が聞こえてきた。
庭では使用人の子供たちが走り回っている。
木の枝を振り回しながら、何やら騒いでいるらしい。
俺は足を止めた。
――人を見ろ。
父上の言葉が蘇る。
その時だった。
「あっ!」
元気な声が響く。
「オルタ様だ!」
次の瞬間。
数人の子供たちが一斉にこちらへ駆け出してきた。
先頭を走っていたのは赤茶色の髪の少年だった。
勢いそのままに俺の前で止まる。
「こんにちは、オルタ様!」
元気が良い。
「こんにちは」
俺が返すと、少年は満面の笑みを浮かべた。
「ぼく、レオです!」
胸を張る。
まるで騎士にでもなったつもりなのだろう。
その様子に思わず頬が緩んだ。
後ろから別の少年が割り込んでくる。
「ぼくはリックです!」
落ち着きがない。
話しながらも辺りを見回している。
じっとしているのが苦手な性格らしい。
さらに眼鏡を掛けた少年が一歩前に出た。
「カイルです」
こちらは対照的だった。
周囲をよく観察している。
自分が話すより、人の話を聞く方が得意なのだろう。
その隣には大柄な少年。
「ま、マルクです……」
少し気弱そうだ。
だが身体は一番大きい。
力はありそうだった。
そして最後に。
少し離れた場所に一人の少女が立っていた。
栗色の髪。
大きな瞳。
だが、その目は他の子供たちとは違った。
騒がない。
はしゃがない。
ただ静かにこちらを見ている。
まるで何かを確かめるように。
「そちらの方は?」
俺が尋ねる。
少女は一拍置いて答えた。
「エマ」
短い返事だった。
だが。
他の子供たちが俺を見ているのに対し、エマだけは皆を見ていた。
まるで何かを確かめるように。
まるで俺ではなく、この場全体を見ているようだった。
それが妙に印象に残った。
「皆さんは何をしていたのですか?」
俺が尋ねると、レオが木の枝を高く掲げた。
「戦争ごっこです!」
なるほど。
だからあんなに騒がしかったのか。
「戦争ごっこ?」
「はい!」
レオは嬉しそうに頷く。
「ぼくたち、今から戦うんです!」
「どちらが勝つか決めるんです!」
リックも興奮したように言った。
「今日はぼくたちの勝ちですよ!」
「まだ始まってないだろ」
カイルが呆れたように突っ込む。
そのやり取りを見ながら、俺は自然と彼らを観察していた。
レオは真っ先に前へ出る。
良くも悪くも先頭に立つ性格だ。
リックは一か所に留まらない。
目を離せばどこかへ行きそうである。
カイルは周囲をよく観察している。
自分が話すより、人の話を聞く方が得意なのだろう。
マルクは自然と皆の後ろに立っていた。
前へ出ようとはしない。
だが不思議と皆が安心している。
同じ年頃でも随分違う。
父上が言っていた意味が少しだけ分かる気がした。
その時。
レオが突然こちらを向いた。
「オルタ様もやりますか?」
思わず瞬きをする。
本来なら図書室へ戻る予定だった。
読みかけの本もある。
確認したい地図もある。
だが。
そちらへ戻ろうとは思わなかった。
――人を見ろ。
また父上の言葉が浮かんだ。
俺は目の前の子供たちを見る。
元気なレオ。
落ち着きのないリック。
慎重なカイル。
大柄なマルク。
そして静かに観察しているエマ。
少しだけ興味が湧いた。
「少しだけなら」
そう言いかけて、ふと周囲を見回した。
少し離れた場所でクラウスがこちらを見ている。
いつの間にいたのだろう。
相変わらず気配がない。
さすが長年公爵家を支えてきた執事である。
「クラウス」
俺が呼ぶと、老執事は静かに近寄ってきた。
「何でしょう、オルタ様」
「少し遊んできても構いませんか?」
クラウスの眉が少し上がった。
「珍しいですな」
「何がですか?」
「オルタ様が、ご友人と遊ばれるのは初めてですので」
そう言われると少し気恥ずかしい。
俺は軽く咳払いをした。
「たまには良いですよね」
「もちろんでございます」
クラウスは穏やかに微笑んだ。
「ただし、あまり遅くなりませぬよう」
「分かりました」
俺が頷くと、レオたちが顔を見合わせた。
そして。
「やったー!」
レオが飛び跳ねた。
リックも歓声を上げる。
マルクはほっとしたように笑い、カイルは苦笑した。
そんなに喜ぶことだろうか。
俺にはよく分からない。
だが。
悪い気分ではなかった。
「ではこちらです!」
レオが俺の手を掴む。
五歳児に手を引かれるのは初めてだ。
前世を含めてもたぶん初めてである。
妙な気分だった。
子供たちの輪へ向かいながら、俺は小さく息を吐く。
父上。
人を見るというのは、こういうことなのでしょうか。
その答えはまだ分からない。
だが。
「オルタ様は将軍役ですよ!」
レオが得意げに言った。
「将軍役?」
「はい!」
「ぼくたち、オルタ様が一番強そうだと思ったので!」
戦争ごっこ。
その言葉に思わず足が止まる。
――戦。
父上の言葉が脳裏をよぎった。
人を見ろ。
俺はもう一度、子供たちを見た。
そして。
「面白そうですね」
そう答えた瞬間。
レオたちは歓声を上げた。
まるで自分のことのように喜んでいる。
少し不思議だった。
たったそれだけのことで。
こんなにも嬉しそうな顔をするのか。
第七話を読んでいただきありがとうございます。
今回はレオ、リック、カイル、マルク、エマとの出会いでした。
今はただの子供たちですが、オルタにとって大切な存在になっていきます。
父バルドから教えられた「国とは人だ」という言葉。
オルタがその意味を少しずつ学び始める第一歩でもあります。
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次回、第八話「戦争ごっこ」。
オルタの初陣(?)をお楽しみに。




