表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/8

第4話『女神との邂逅』

第三話を読んでいただきありがとうございます。


今回でプロローグ完結です。


本能寺で散った織田信長が、どのような決断を下したのか。


そして、新たな人生の始まりです。


よろしくお願いいたします。

意識が戻ると、俺は見知らぬ空間に居た。


「何が起こったんだ……」


炎も、煙の匂いもなかった。


見渡す限り白銀の世界。


空もなく、地もない。


ただ静寂だけが広がっていた。


記憶が戻る。


燃え盛る本能寺。


腕の中で冷たくなっていった蘭丸。


炎の中で舞った最期の敦盛。


そして――崩れ落ちる本堂。


俺は確かに死んだはずだった。


「お目覚めになりましたか」


声がした。


振り返ると、一人の女が立っていた。


銀色の長い髪。


雪のように白い肌。


そして、まるで朝日を閉じ込めたような黄金の瞳。


人とは思えぬほど美しい。


だが、それ以上に奇妙だった。


そこに立っているだけだが、まるでこの世界が彼女を中心に回っているように感じた。


そんな存在だった。


「ここはどこだ」


俺は尋ねる。


女は静かに微笑んだ。


「狭間にございます」


「狭間?」


「生と死の狭間。

そのようにお考えください」


俺は周囲を見回した。


「地獄ではないようだな」


女は小さく笑った。


「違います」


「では極楽か」


「それも違います」


思わず口元が緩む。


「面白い場所だ」


女は優雅に一礼した。


「そのように感じていただけて何よりです」


不思議な女だった。


「おぬしは何者だ」


「人は私を女神と呼びます」


――女神。


そう言われても不思議と納得できた。


女神は黄金の瞳で俺を見つめる。


「ひとつ、お伺いしてもよろしいですか」


「申してみよ」


女神は静かに問う。


「あなたには未練がありますね」


俺は即答した。


「ああ」


女神は続ける。


「それは天下ですか」


俺は首を横に振った。


「違う」


「では、何ですか?」


俺は目を閉じる。


蘭丸をはじめ、

共に歩んできた家臣たち。


そして戦場で命を散らした無数の兵。


敵も味方も関係ない。


あまりにも多くの命が失われた。


「俺が欲しかったのは天下ではない」


静かに言う。


「戦のない世だ」


女神は何も言わず、ただ聞いていた。


「人が安心して飯を食える世」


「子が親を失わぬ世」


「商人が怯えず旅できる世」


「百姓が明日の飢えを恐れぬ世」


「そのために天下が必要だった」


戦乱を終わらせる未来は見えていた。


手を伸ばせば届きそうなほど近くに。


だが届かなかった。


あと一度だけ。


もう一度だけ機会があればと思わずにはいられなかった。


悔しい。


光秀への怒りではない。


自分への悔しさだ。


天下は目前だった。


それでも届かなかった。


どこかで何かを見誤ったのだろう。


人か。


時か。


それとも俺自身か。


しばらく沈黙が続いた。


やがて女神が口を開く。


「では」


黄金の瞳が静かに細められる。


「もう一度、機会を差し上げると言ったなら?」


俺は小さく笑った。


「都合の良い話には裏がある」


女神も微笑む。


「さすがですね」


「代償を聞こう」


女神は静かに頷いた。


「次に生きる世界は、あなたの知る世界ではありません」


「そうか」


「時代も違います」


「ふむ」


「身体も違います」


「なるほど」


女神は一度言葉を切る。


「あなたの知る者は誰一人おりません」


静かな声だった。


だが、その言葉は重かった。


「そして――織田信長という名も消えます」


俺は笑った。


織田信長。


尾張のうつけ。


第六天魔王。


天下人。


長年背負ってきた名だ。


捨ててしまうには少し抵抗がある。


だが――


名前や肩書きなどどうでもよい。


大事なのは何を成すかだ。


「その機会、貰い受けよう」


即答だった。


今度は女神が驚いた顔をした。


「迷われないのですね」


「迷う理由がない」


俺は笑う。


「信長という名に未練はある」


「ですが?」


「それ以上に未練がある」


女神が微笑む。


「成し遂げられなかった夢だ」


やがて女神は満足そうに頷いた。


「面白い方ですね」


その瞬間。


白銀の世界に無数の光が生まれた。


星ではない。


世界だ。


数え切れぬほどの世界が広がっている。


女神はその一つを指差した。


そこには巨大な城があった。


空を駆ける光があった。


人の理を超えた力があった。


獣の耳を持つ者。


鬼のような角を持つ者。


見たこともない種族。


そして――争いもあった。


「この世界です」


女神が言う。


「大きな転換点を迎えています」


俺はその世界を見つめる。


胸が高鳴った。


久しく忘れていた感覚だった。


新たな戦場を前にした時のような、

未知への期待。


女神が問う。


「今度は何を目指しますか」


俺は迷わなかった。


本能寺で最後に抱いた願い。


それをそのまま口にする。


「人を集める」


女神が微笑む。


「人を活かす」


その笑みが深くなる。


「そして」


俺はまだ見ぬ世界を見据えた。


「戦のない世を作る」


女神は静かに頷いた。


「ならば行きなさい」


銀の光が溢れ出す。


世界が眩く輝く。


意識が引き込まれていく。


最後に女神の声が聞こえた。


「新たな名を授けましょう」


光がすべてを包み込む。


「オルタ・ノヴァ・ルミナス」


初めて聞く響きだった。


だが、不思議と悪くないと思えた。


「では、お手並み拝見させていただきますね」


女神の声が遠ざかっていく。


「織田信長ではない、あなた自身の覇道を」


そして――。


意識が沈んだ。


深く。


深く。


どこまでも。



「もう少しです!」


突然、声が聞こえた。


「奥様! 頑張ってください!」


女の声。


慌ただしい足音。


誰かの叫び。


そして。


強烈な圧迫感。


狭い。


苦しい。


全身が押し潰される。


何が起きている。


そう思った次の瞬間――。


眩しい光が視界を貫いた。


「奥様! 元気な男の子ですよ!!」


歓声が上がる。


同時に。


「おぎゃああああああ!!」


部屋中に響き渡る泣き声。


……俺だった。


(なっ……!?)


身体が動かない。


手足が小さい。


頭では言葉を理解できるのに、口から発することはできない。


混乱する俺をよそに、周囲は歓喜に包まれていた。


「ノヴァ公爵家の三男様にございます!」


三男か。


兄弟がいるらしい。


公爵家。


聞き慣れぬ言葉だった。


見上げる天井も。


俺を取り囲む人々も。


すべてが初めて見るものばかりだ。


だが、一つだけはっきりしている。


俺は生きている。


転生は成功したのだ。


抱き上げられる。


視界の先に、涙を流す美しい女性がいた。


母親なのだろう。


その隣には、一人の大男が立っていた。


鋭い眼光。


鍛え抜かれた肉体。


ただ立っているだけで威圧感がある。


歴戦の武人。


そう呼ぶに相応しい男だった。


男は赤子の俺を見つめる。


そして静かに笑った。


「よく来た」


その一言に、不思議と胸が温かくなった。


何も知らぬ世界で、何も持たぬ人生が始まろうとしている。


本来なら不安になってもおかしくない。


だが、俺はそうではなかった。


むしろ胸が高鳴る。


まだ見ぬ国。


まだ見ぬ人々。


そして、もう一度夢を追える。


ならば――


今度こそ成し遂げてみせよう。


本能寺で届かなかった願いを。


強烈な眠気が襲ってくる。


赤子の身体は抗うことを許さない。


薄れゆく意識の中で、俺は静かに思った。


(面白い)


(ここが俺の新たな始まりか)


こうして。


織田信長は本能寺で死に。


オルタ・ノヴァ・ルミナスは、この世に生まれ落ちた。

第四話を読んでいただきありがとうございました。


これにてプロローグ完結です。


次回から5話「天下への地図」へ入ります。


本能寺で散った織田信長は、異世界でオルタ・ノヴァ・ルミナスとして新たな人生を歩み始めます。


魔力値3。


属性なし。


貴族社会では落ちこぼれと呼ばれる少年が、どのように成長していくのか。


引き続き楽しんでいただければ幸いです。


面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ