第14話『国とは人だ』
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回は、オルタと父・バルドが向き合う一話です。
魔力値3という現実を受け止めた先で、オルタが何を学ぶのか。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
「旦那様がお呼びでございます」
クラウスに案内され、父上の執務室へ向かう。
廊下を歩く足取りは、自然と重かった。
(やはり……今日のことか)
魔力値3。
属性なし。
あの結果を見た以上、父上が何も言わないはずがない。
執務室の前で、クラウスが扉を叩く。
「オルタ様をお連れいたしました」
「入れ」
重厚な声が返ってきた。
「失礼します」
部屋へ入ると、父上は執務机に座っていた。
机の上には、大陸地図。
積み上げられた書類。
そして、一通の軍報。
蝋燭の灯が揺れ、机の上へ影を落としている。
「座れ」
「はい」
向かいへ腰を下ろす。
父上は手にしていた書類を閉じると、真っ直ぐ俺を見た。
「今日はご苦労だったな」
「……はい」
静かな沈黙が流れる。
父上は小さく息を吐いた。
「……すまなかった」
思わず顔を上げる。
「父上……?」
父上は静かに続けた。
「私は、お前に期待していた」
「だからこそ、今日の数値を見た瞬間、お前を数字で判断してしまった」
その声には、自分自身への悔しさが滲んでいた。
「その瞬間、お前自身を見てやれなかった」
父上は苦く笑う。
「父として、情けない限りだ」
俺は何も言えなかった。
父上ほどの人物が、自ら非を認めるとは思ってもいなかったからだ。
父上は机の上の軍報を手に取る。
「覚えているか」
「北方の話だ」
「……はい」
図書室で地図を広げ、獣人国の動きを予測した日のことを思い出す。
父上は軍報を俺の前へ差し出した。
「読んでみろ」
「はい」
軍報へ目を通す。
『北方国境にて獣人族の集結を確認』
『街道周辺の監視を継続』
『各砦へ警戒態勢を命ず』
思わず息を呑んだ。
父上は静かに口を開く。
「私は、お前の話を戯言とは思わなかった」
「もちろん、確信していたわけではない」
「だが、可能性がある以上、見過ごすわけにはいかなかった」
父上は大陸地図を広げる。
北方国境。
街道。
砦。
いくつもの赤い印が描き加えられていた。
「北方へ斥候を増やした」
父上の指が国境をなぞる。
「監視も強化した」
指は街道へ移る。
「兵糧も前倒しで集めさせた」
淡々と語る父上。
その一つ一つが、西方最大の公爵としての判断だった。
子供の話だからと笑わない。
だからといって鵜呑みにもしない。
可能性があるなら備える。
それが父上だった。
父上は軍報を閉じる。
「私一人では、この判断はできなかった」
「お前の知識があったからこそ、早く動くことができた」
父上は真っ直ぐ俺を見つめる。
「オルタ」
「お前の予想は、正しかった」
胸が熱くなる。
魔力値は3。
属性もない。
だが。
俺の知識は、確かに父上の役に立っていた。
父上は小さく頷く。
「……よくやった」
その一言が、何よりも嬉しかった。
神殿で向けられた失望の視線も。
魔力値3という数字も。
その瞬間だけは、どうでもよくなっていた。
◇
父上は軍報を静かに机へ置いた。
「知識は、お前の武器だ」
その言葉が、胸へ深く響く。
「これからも学べ」
「お前には、その才がある」
思わず顔を上げた。
魔力値3。
属性なし。
それでも父上は、俺の知識を認めてくれている。
父上は大陸地図へ目を落とした。
「アレクにはアレクの役目がある」
「エレンにはエレンの役目がある」
ゆっくりと視線が俺へ向く。
「そして、お前にも、お前にしか果たせぬ役目がある」
役目。
その言葉が胸に残る。
「その知識で、二人を支えてやれ」
「一人で国は守れん」
「人には、それぞれ役割がある」
自然と背筋が伸びた。
「……はい」
父上は静かに頷くと、ゆっくり立ち上がった。
「だが──」
その一言で、部屋の空気が引き締まる。
壁に立て掛けられていた剣を手に取る。
磨き上げられた刀身が、蝋燭の灯を受けて静かに光った。
「前にも言ったな」
「知識だけでは国は守れん」
剣へ視線を落としたまま続ける。
「知識は確かに武器だ」
「だが、それだけでは人は守れん」
「剣も振れ」
「魔法も学べ」
「決して怠るな」
俺は思わず俯いた。
「……しかし」
「私には魔力値が3しかありません」
返事は一瞬だった。
「それでもだ」
短い。
だが、その一言には迷いがなかった。
「それは、やらない理由にはならん」
静かな執務室に、その言葉だけが響く。
父上は剣を静かに鞘へ納めた。
カチリ、と乾いた音が鳴る。
「やりたいことを成し遂げるためには」
「時に、やりたくないこともやらねばならん」
「今は無駄に思えることでも」
「積み重ねた者だけが、最後に望む場所へ辿り着ける」
俺は静かに頷く。
「……はい」
父上も、小さく頷いた。
「戦場でも同じだ」
窓の外へ目を向ける。
「英雄だけでは国は守れん」
「泥にまみれ、兵糧を運ぶ者がいる」
「傷ついた仲間を支える者がいる」
「最後まで耐え抜く者がいる」
ゆっくりと振り返る。
「だからこそ、国は守られる」
その言葉には、幾つもの戦場を越えてきた者だけが持つ重みがあった。
父上は俺の前まで歩み寄る。
大きな手が、そっと頭へ置かれた。
「その知識を、誰かのために使え」
「それがお前の役目だ」
胸が熱くなる。
父上は穏やかに微笑んだ。
「力は、人を守る」
「知識は、人を導く」
少しだけ間が流れる。
真っ直ぐ俺を見つめた。
「だが」
「国を支えるのは、人だ」
「覚えておけ」
「国とは、人だ」
その一言が、胸の奥深くまで刻まれた。
「……はい!」
自然と返事に力が入る。
父上は満足そうに頷く。
「今日はもう休め」
「明日から、また鍛錬だ」
「はい!」
執務室を後にする。
扉が閉まる音が、静かな廊下へ響いた。
重かった足取りは、もうなかった。
廊下を歩く。
その時だった。
――パチッ。
「っ」
指先へ、小さな痛みが走る。
思わず手を見る。
傷はない。
(またか……)
静電気。
最近、妙に多い気がする。
だが、今はそれどころではなかった。
父上の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
――国とは、人だ。
その日、俺は心に誓った。
魔力値3。
そんな数字に負けるつもりはない。
父上の言葉は、確かに俺の中へ刻まれていた。
俺は、俺にしかできないやり方で。
この国を支えてみせる。
それから数週間。
俺は誰よりも早く起きて剣を振り、
魔法の鍛錬を続け、
本を読み続けた。
そして――
仲間たちもまた、
それぞれの場所で、
それぞれの未来へ向かって歩み始めていた。
第14話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
「国とは、人だ」
この言葉は、これから先のオルタの人生を支える大切な教えになります。
魔力値3という弱さは変わりません。
それでも、自分にしかできない役目を見つけ、少しずつ前へ進んでいきます。
次回は少し時間が進み、「それぞれの歩み」。
オルタだけではなく、レオ、リック、マルク、カイル、エマたちが、それぞれの場所でどのように成長しているのかを描いていきます。
少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
・★★★★★での評価
・ブックマーク
・ご感想
をいただけると、とても励みになります!
これからも
『本能寺で死んだ織田信長、魔力値3の落ちこぼれ貴族に転生する ~人を活かして異世界天下布武~』
をよろしくお願いいたします!




