第13話『魔力値3』
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回は第二章最大の転換点となるお話です。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ゆっくりと、ラクリマの前へ立つ。
神殿の中は、静まり返っていた。
「次は公爵家の三男か」
「長男アレク様は火属性で魔力値3800」
「次男エレン様は風属性で4200だった」
「弟も相当な才能を持っているのだろう」
あちこちから、期待の声が聞こえてくる。
(兄上たちも、こんな視線を受けてきたのだろうか)
多くの視線が、俺へ向けられていた。
「オルタ様!!」
レオが、大きく手を振る。
「絶対、大丈夫です!!」
「オルタ様なら、きっと凄い属性ですよ!!」
「ありがとう!」
少しだけ、胸が高鳴る。
期待されるというのは、不思議なものだ。
応えたいと思う自分がいる。
そんな中、エマだけが、いつも通り穏やかに微笑んでいた。
「オルタ様は、オルタ様でしょ?」
思わず、小さく笑ってしまう。
不思議な娘だ。
だが、その一言で、少しだけ肩の力が抜けた。
(魔法の才、か)
(さて、どのようなものやら)
前世では、魔法など存在しなかった。
少しくらい、期待している自分もいる。
「それでは、ラクリマへ手をお置きください」
老神官の声が響く。
「はい」
ゆっくりと右手を伸ばす。
ひんやりとした感触が、指先へ伝わった。
次の瞬間。
淡い白い光が、結晶の中を流れていく。
神殿中の視線が集まる。
父上は、静かに腕を組み、こちらを見つめていた。
その表情からは、何を考えているのか読み取れない。
老神官が、目を細める。
「ふむ……」
小さく呟く。
しかし。
その表情が、少しだけ曇った。
「属性……」
そこで、言葉が止まる。
再び、ラクリマへ視線を落とした。
神殿の空気が張り詰める。
「……なし」
ざわり。
静かな動揺が広がった。
「属性なし……?」
「そんなことが……」
「いや、まだ魔力値がある」
貴族たちが、顔を見合わせる。
俺も、僅かに眉を上げた。
(属性なし……?)
書物にも、数えるほどしか記されていなかったはずだ。
老神官は、もう一度ラクリマを確かめる。
そして。
ゆっくりと、口を開く。
「魔力値……」
父上は腕を組んだまま、静かに見つめている。
レオたちも、先ほどまでの笑顔を消し、不安そうな表情を浮かべていた。
神殿にいる誰もが、次の言葉を待っていた。
「……3」
――静寂。
誰一人、言葉を発しなかった。
時間だけが、ゆっくりと流れていく。
「……え?」
レオが、小さく呟く。
その一言をきっかけに、神殿の空気が大きく揺れ始めた。
◇
「公爵家で魔力値3だと……?」
年配の貴族が目を見開く。
「そんな馬鹿な……」
隣にいた騎士も思わず息を呑んだ。
「属性なしとは聞いたことがないぞ」
「測定をやり直すべきでは?」
貴族たちが口々に声を上げる。
老神官は困惑した表情でラクリマを見つめた。
「……失礼いたします」
老神官は俺へ歩み寄る。
「もう一度、お手をお貸しください」
「はい」
再び右手をラクリマへ当てる。
老神官は結晶へ静かに手を添えた。
長年、この神殿で魔力測定を務めてきた。
だが、このような結果は一度も見たことがない。
静まり返る神殿。
全員が老神官を見つめていた。
やがて老神官は、小さく息を吐く。
「……間違いございません」
「属性なし」
「魔力値3でございます」
その言葉が、静かに神殿へ落ちた。
俺は、ゆっくりとラクリマから手を離す。
(……そうか)
(これが、俺の数字か)
前世では、人を数字だけで見たことはなかった。
武に秀でた者。
知に秀でた者。
人を支える者。
誰にでも役割があった。
だが、この世界では違う。
魔力の数字が、その者の価値を大きく左右する。
(数字一つで、人の価値まで決まるというのか)
神殿中の視線が、先ほどまでとは違って見えた。
期待ではない。
憐れみ。
失望。
その視線の変化だけは、嫌というほど伝わってきた。
父上を見る。
父上は腕を組んだまま立っていた。
怒ってはいない。
責めてもいない。
だが。
俺へ向ける眼差しは、どこか寂しげだった。
父上は静かに目を閉じた。
やがて、
「……そうか」
短く、それだけを口にした。
その一言だけで、十分だった。
◇
「オルタ様……」
レオが青ざめた顔で駆け寄ってくる。
「何かの間違いですよね?」
「神官様! もう一回お願いします!」
「オルタ様が魔力値3なんて、絶対おかしいです!」
ガレスが、そっとレオの肩へ手を置いた。
「レオ」
「……落ち着きなさい」
「でも!!」
「結果は結果だ」
悔しそうに拳を握るレオ。
マルクも俯いていた。
「そんな……」
「オルタ様、あんなに物知りなのに……」
カイルも首を傾げる。
「魔力と知識は……関係ないのでしょうか」
リックだけは、不思議そうに俺を見ていた。
「でもさ」
「オルタ様は、オルタ様だよな?」
その一言に、皆が黙り込む。
皆が俺を見ていた。
驚き。
戸惑い。
同情。
様々な感情が向けられる。
だが。
エマだけは、いつもと何も変わらなかった。
「オルタ様」
「帰ろ?」
「……驚かないの?」
「なんで?」
「魔力値3だよ?」
「うん」
「属性もないんだよ?」
「うん」
そして。
当たり前のように笑った。
「オルタ様は、オルタ様でしょ?」
その一言で。
胸につかえていた何かが、少しだけ軽くなった気がした。
「……そうだな」
「うん!」
「難しく考えすぎだよ」
全く。
この娘には敵わんな。
◇
帰りの馬車。
父上は、一言も口を開かなかった。
重苦しい空気だけが流れていた。
(魔力値3……)
(それが、この世界での俺の評価か)
数字だけで、人の価値は決まらない。
そう信じたい。
だが、この世界はそうではないらしい。
屋敷へ戻り、馬車の扉へ手を掛ける。
――パチッ。
「っ……」
思ったより強い痛みが指先を走る。
思わず手を引っ込めた。
指先を見る。
傷一つない。
(今のは……静電気か?)
冬でもない。
乾燥しているわけでもない。
少し妙な気もしたが、それ以上考えることはなかった。
◇
夕暮れ。
自室へ戻ると、クラウスが静かに一礼した。
「オルタ様」
「旦那様がお呼びでございます」
「父上が?」
「はい」
静かな返事だった。
足取りは自然と重くなる。
父上は、何を話すつもりなのだろうか。
まだ、この時の俺は知らない。
この呼び出しが、俺の価値観を大きく変えることになるとは。
第13話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
魔力値3。
オルタにとって、そしてノヴァ家にとっても大きな転換点となる1話でした。
次回は父・バルドとの対話です。
「国とは人だ」
その言葉に込められた意味が、少しずつ明かされていきます。
少しでも「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけましたら、
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