地獄の門
シルフィアとアドワースは、モルファス城の正門前に立っていた。
重厚な造り、威圧的な装飾……平素なら一兵たりとも通る事を許さなかったであろう、その門は今や入ってくれといわんばかりに大口を開けていた。
「それじゃあ、ひとつ、やってやりますかね!」
ガハハと笑いながら、アドワースが両手を合わせて指を鳴らした。
「少し待ってくれ」
シルフィアは、小袋から真っ赤な宝石を取り出し首にかけた。かつて親友から託された忘れ形見……それを身につけると、直ぐそばに彼女を感じることができた。
(リーゼ、私と共にいてくれ)
燃え上がる炎の様な赤色が、シルフィアの胸で輝きを放った。
「俺が、先に行きまさぁ!」
「おい、アドワース!」
勇み足になるアドワースをシルフィアは、呼び止めた。
「何ですか、姉さん?」
「この門から一歩先は、地獄が待っていると思え。自分の身の安全だけを考えろ。私はお前を助けないし、お前も私に構わなくていい」
「しかし、姉さん……」
「いいな!」
「……わかりやした」
外観からはわからなかったが、中に入ると、そこには巨大な空間が広がっていた。二階の床の一部分が崩落していたため、実際よりも大きな城に感じられた。
「ご丁寧に、明かりも灯してやがる。大層な歓迎ぶりですな」
周囲を警戒しながら、アドワースは呟いた。シルフィアの視線は、既に前方を捕らえていた。
「おい、あれは何だ」
暗がりに、人影が見えた。それは、何やらぶつぶつと呪文の様な言葉をを唱えていた。
「あんまりだ。あんまりだ。あんまりだ。あんまりだ……」
シルフィアが抜刀して前進し、アドワースが続いた。それは、恐怖を抱くのに十分すぎる光景だった。
両足を潰された巨漢の男が血まみれで、のたうち回っていた。男は笑いながら、右へ左へと身体を揺らしていた。
「私は、妻を……娘たちを大切に思っていた。ウハハッ、間違いなく、お前たちを愛していたんだ!」
「何なんだ、こいつは!?」
驚くアドワースの目の前に、黒い羽根がゆらゆらと落ちてきた。見上げると、まるで雪のようにそれが宙を舞っていた。
(これは……幻覚か?)
困惑しつつ視線を戻すと、その先に広い階段が見えた。誰もいなかったその場所に人影が佇んでいた。
剣を構えるシルフィアたちのもとに、かつりかつりと足音を立てて、それは近づいてきた。
「その男が罪の始まり、不幸の元凶……」
二人が立つその場所は地獄などではなく、冥府への入口だったのかもしれない。何故なら、この世にいる筈のない人間が、そこに立っていたのだから。
懐かしいというには、まだ日が浅かった。見紛う筈のない顔が二人の目に映った。
「リ、リーゼ!?」
ローブを纏った彼女は、冷たい視線で階下を見下ろしていた。
次週(6/15)の投稿は、お休みさせて頂きます。




