陰法師のリーゼ
廃屋の古城で夜が明けようとしていた。
最早、思い出の中でしか存在し得なくなってしまった筈のその顔は、滲みでる殺意を隠そうともせずに、シルフィアをじっと見詰めていた。
「リ、リーゼ!?」
リーゼは口元をおさえて、うつむき加減にくすりと笑った。そして、再び冷たい視線を向けると、ゆっくりとシルフィアの下に近づいてきた。
「リーゼ・ラファウシュタイン……ああ、確かに私の名前だ。間違いない。だがな、私は貴様たちの記憶の中のそれではない。リーファという哀れな女……それが、貴様たちの知るリーゼだ。安心しろ、私はモルファス城の死神……ゆえに、私達は気兼ねなく――」
走りながらローブを脱ぎ捨てて、死神は背中に掛かっていた魔女の剣を抜いた。
「互いを存分に殺し合える! きてぇやああああ!!」
「いやぁぁはいいいい!!」
シルフィアと死神は剣を交え、にらみ合った。
「姉さん!」
約束を反故にして加勢をしようとするアドワースを目がけて、食屍鬼の少女が踵を落としてきた。
「おにいさん、遊ぼうよ!」
「くそったれが! 勝手に一人で遊んでろっ!!」
眼前で、床に敷き詰められた石が粉々に砕けて飛び散った。
アドワースは少女の攻撃をかわしつつ、反撃の機会を窺った。圧倒的な力を持つ少女であったが、戦闘に関しては素人も同然だった。
「僕、パンネッタっていうんだ。おにいさんは、何ていうの?」
少女が見せた、僅かの隙をアドワースは見逃さなかった。
「大地の神よ!」
アドワースが木刀の刀身に触れると、その色と質量が変化した。
「轟け! 大地の剣!!」
金属の剣よりも重量の増した木刀は、少女の肩から胴を押しつぶす様に鋭く切り裂いた。
「ひあうっ!」
確かに手ごたえはあった。しかし、少女の傷からは一滴も血が噴き出さなかった。それどころか、傷口が驚くべき速さで再生し始めた。
(何なんだ、こいつは! 仮に死霊だったとしても、この回復は異常だ……)
少女は、のけ反りかけた体勢から、素早い動きでアドワースの懐に入り込んだ。
「えいっ!」
「し、しまっ……ぐおっ!」
放たれた掌底に反応できず、アドワースは城壁まで吹き飛ばされた。
「お行儀の悪いおにいさんには、お仕置きだよ。貴族とは礼儀をわきまえた人間なのだから……あれ? 貴族って、何だっけ?」
「くそったれが……」
シルフィアから引き離されてしまったアドワースは、血痰を吐き出すと再び木刀を構えた。
(レイナード、お前のいっていた事が確かに今、わかったぜ)
「おにいさん、とっても楽しいね! うふふ」
言葉とは裏腹に、少女は感情のない顔を晒して、アドワースに歩み寄ってきた。




