赤髪のシルフィア
夜が明けるずっと前、アストライア大陸の北部を跨ぐ街道を二頭の竜が走っていた。
地竜あるいは草竜と呼ばれるその魔獣は、従順な性質とは裏腹に千里すら駆け抜ける強靭さを持つといわれていた。
その魔獣の背中に騎乗していた赤い髪の女兵士がいった。
「レイナードは、目を覚まさないのか?」
「ええ姉さん、ベルライト博士の話では……体調は回復に向かっている。意識が回復するか否かは本人の体力次第であろう……そのようにいわれました」
後ろに続く騎士が答えた。
「そうか、それでいい。彼を危険な事に巻き込まないで済む……アドワース、お前もいいんだぞ。もう私はお前の上官ではない。無理に付き合う必要はない」
「姉さん、俺はそうしたいから、そうしているだけです。生きる目的が出来たとでもいいましょうか? 姉さんと会わなかったら、俺は周りに当たり散らすだけの迷惑な男でしかなかった」
「勝手にしろ。あとひとつ、姉さんはやめろ。私は、シルフィア・ラーグス……ただの女兵士だ」
「わかりやしたぜ、姉さん!」
「…………」
赤い髪を短く切り揃えたシルフィアは、急ぎ竜を駆っていた。
一昨日の事をシルフィアは思い起こした。子どもたちの呪いを解呪していた、ベルライト博士がアドワースを伴って私室を訪ねて来た。
「何回も確認したのだけど、ソフィアちゃんという子が一人だけいなくなってしまったの。少し前から、誰も姿を見ていないって……」
部屋に籠りきりだったシルフィアは、直ぐに身支度をしてアドワースと共に街へ出た。行きついた先は、子どもたちが寝泊まりをしていた教会だった。
一通の手紙が残されていた。
『白き龍の姫君、貴様はこの場所にたどり着くだろう。私は己の半生に決着をつけ、あの優しい世界を取り戻すために、モルファスの廃城で貴様を待つ。貴様と縁がある子どもも、そこにいる』
アストライア大陸の中部、水の都・ネミスに向かう途中にそびえ立つモルファスの廃城は、かつての機能を失い魔獣の棲みかとなり果て、朽ちゆくその姿を晒している。
手紙が何時から放置されていたのかわからないが、書き残した相手は、シルフィアが来ることを望んでいる。それならば、乗り込んでソフィアを取り戻すだけだ。
(ソフィアちゃん、どうか無事でいて……)
後ろに続くアドワースが大きな声でいった。
「どうせだったら、飛翔種の竜に乗りたかったですね」
「飛翔種は、希少なんだ。勝手に連れ出したら、竜騎士に大目玉を喰らうぞ。あと、お前乗れるのか?」
「乗ったことは、ありぁせんが……そんなの、朝飯前ですよ。ワハハ……」
二頭の竜は砂煙を上げながら、猛然と走り去っていった。




